第34話 難易度を……上げるな!

 ランクカードの効果を聞いて早速持っているお金を預金して貰った。預けた額は大銀貨三枚と銅貨が四十六枚。合計で三十万四千六百ルーツ。ちなみに国王へは今まで金貨八枚と銀貨四枚分返せている。……ふぅ、こうして考えると道のりは長い。正式になってどれだけ稼げるか……まぁ、頑張るしかないんだけどね。アルトネアにある分も半分くらいは返すけど、それでも膨大だなぁ。


 今日はそれ以上用が無いのでギルドを出る。あとは特に予定も無いから適当に夜まで過ごせばいいんだが……最終的な確認とかも含めてステラたちには好きに遊んでいて貰おう。どうせ行く場所にはミレナに連れて行って貰えば良いし。


「ステラたちはこれからどうする?」

「お出かけしたいけど……我慢する」

「私は夜に期待してる」

「私もステラと同じです」


 結局、俺は自由にして良いそうなのでそうさせて貰おう。ステラたちには夕方までに帰って来るように言って別れる。何か企みそうな気もするんだが、大分諦め癖がついてしまった俺としてはどうにでもなれ、だ。






 クロエの別荘に戻って来て、メイドにはステラたちは夕方まで帰らないだろう事を告げた。その後は自室に戻る。最終的な確認と言ってもそんな大したことはしないけど。自由にして良いのだから、ゆっくりと英気を養うつもりである。

 まぁ、便宜上一応はやっておこう。


 今回選んだ場所はとある花畑だ。二年ちょっと前にある採取系の依頼でそこを訪れたんだが、とても綺麗だったのを覚えている。昼でも夜でも綺麗だったんだが、依頼の時は月光花という夜にしか咲かない花を求めてやって来ていた。

 依頼自体は成功したよ。月光花って結構珍しいみたいだけど三人にとってはそこまで難しく無かったみたい。捕捉スキルがあったからね。まぁ、それは置いておくとして……その時のミレナが神秘的でさ、マジで妖精かと思ったんだよ。

 あの花畑って昼は色とりどりの花が咲いていて色彩豊かだが、夜は月に照らされた葉や夜に咲く花が幻想的で違う意味で綺麗なんだよ。で、ミレナがその光景と完全にマッチしてるの。ステラやクロエも一瞬見惚れたぐらいなんだぜ?

 他にも理由はあるんだが……それだけでも十分にロマンチックだと俺としては思うのでミレナの期待に答えれるかどうか後は祈るのみだ。


 外はまだ明るい。夕食までは十二分に時間もある事だし……寝よう。こういう時くらいしか一人で、なんて無いし英気を養うには一人での方が個人的には捗るしな。

 そんな訳でおやすみ~



 ♈♉♊♋♌♍♎♏♐♑♒♓



 …………何か両隣に妙な重さがある。誰だ、と言わなくてもステラたちだろう。もう今更驚かない。あぁ~そう言えば俺が一人で寝て起きたのなんて数えるくらいだな。小さい時はステラと一緒に寝てたし、十歳からはミレナが増えた。最近はクロエもである。ふっ、もう慣れたよ。


 目を開けて左右を確認するとミレナとクロエが隣で横になっていた。まさかのステラが一番外側である。……いやぁ、驚いた。いつも俺に密着していたステラが離れて寝れるようになるなんて……成長って嬉しいけど、悲しいんだなぁ。

 とまぁ、親の気持ちになってみたのはミレナがずっとこっちを見ていたからだ。以前にもこんな感じの事があった。


 さて、クロエの方へ向きを変え――って、全く動かない。ミレナは普通に俺の胸元に手を添えてるだけだ、なのに全く俺の体が動かない。スゲェ力。ある意味無駄遣いだと思うんだが。


「……さて、ミレナさんや、私の体が全く動かないんだが何でだと思う?」

「一人の女の子の機嫌を損ねたからだと思いますよ、ユートさん」

「それはどんな子なのかな?」

「白銀の髪のそれは綺麗な子だと思いますよ」

「…………で、何で機嫌が悪いの?」

「だって、私が起きてるのが分かってるのに目を逸らすんだもん。何か隠し事でもあるのかと思って。前にそんなことしないでって言ったはずなのに」


 ……確かにある意味では隠し事だろう。今更ミレナに対して緊張してるなんて口が裂けても言えるはずが無い。こういう事は墓場まで持って行く方が良い。……その前にバレない事が大前提となって来るんだが、ちょっと自信がない。事隠し事に関してはミレナと相性がかなり悪いと思う。


 ミレナはもう一歩近寄って来てじっとこちらを見て来る。それに応じて視線が逸れてしまうのは仕方ない。つい本音が漏れそうになる。ま、本音を隠す為の良い訳も無くは無いけど。

 数分ほど見られていたのだが、何か分かった様に軽く息を吐いた。何か安堵してるっぽい。


「……ん。確かに隠し事は無いみたい。でもね、ユートくん。ステラちゃんやクロエちゃん、勿論私だっていつも頼ってばかりだから、頼って欲しいんだよ?」

「俺の方が頼ってると思うんだが……」

「それは戦闘の時とかでしょ? 日頃は私たちの方がお世話になってるの。特にステラちゃんなんて何度も助けられてるしね」


 くそっ。言えない。ミレナを見ると緊張してしまって、それが却ってミレナを心配させてるなんて言えない。しかもちょっとシリアスで、シリアスブレイクなんてスキルを持ってない俺には出来ないっ。そもそも言ってしまったらミレナが居た堪れなくなる。……確かに大抵はステラが原因だったりするね。


 ちょっと……かなり強引にミレナの方へ体の向きが変えられ、変えた本人ミレナは甘えている。

 そう言えばミレナって人前で殆ど甘えないよな。くっ付いて来ても大体が牽制とかだし。それで俺の精神的なダメージが増えるのだが……それは置いといて。

 ステラやクロエが起きてる時も露骨に甘える事なんて数えるくらいだ。……ちょっと気になる。


「そう言えばミレナって俺だけが起きてる時くらいしか甘えて来ないよね。どうして?」

「っ。そ、それは……恥ずかしい、の。この中で二人よりも年上じゃない? 精神年齢では。だから二人みたいに何処でも甘えるのはちょっと、ね」


 ……確かに俺も年下が相手だと素直に感情を表すよりも落ち着いた感じで接するな。あまり子供っぽく思われるのは良いとは思えないし。

 恐らく、俺よりもミレナの場合はより複雑だろう。無責任に思わなくはないが……頑張って下さい。


 ミレナと雑談でも交わしてるとステラとクロエが目覚め始め、ステラはいつもみたく俺の所までやって来てくっ付いた。いつもよりも少し激しいのは自分が近くにいなかったからなのか……詳しく言及する事は避けよう。また、メイドたちに変な事が流れても大変だしね。




 夕食まで食べ終え、部屋に戻る。この後の事は俺たちがよく分かっているので当事者ではないステラやクロエもちょっと緊張している。

 ……まぁ、如何って事は無いんだけどな。単にミレナに俺が示した場所へ連れて行って貰うだけだから。


 俺も緊張しているけど種類は違う。ステラ達の緊張はイベント自体だろうけど、俺の場合はその場所が気に入られるかどうかだ。答え自体は分かり切っている様なものなので緊張はあまりない。……あ、それで告白なんて、なんて思わないでくれよ。俺だって最初は思ったんだから。

 ミレナに目的の場所のちょっと手前辺りの場所を伝える。普通夜は王都外に出て行く事は出来ないんだけど、ミレナなら空間を飛び越えれるので正直自由です。まぁ、悪用はしないんだけどね。


 後はさくっと飛んでもらって、目の前にはちょっとした森。この先に例の花畑があるんだが……何となくミレナは気付いてるっぽい。まぁね。普通は気付くよね。依頼以外でも何度か来た事あるもんね。

 凄いワクワクとした表情で俺に手を引かれていく。……これはミレナの要望である。告白をするのなら俺から引っ張って行って欲しい、と。






 さて、今は夜だ。そして、今日は晴れでもあるので月が夜空に浮かんでいて、コンディションは最高である。……ただ、一つ物申したい。何で精霊・・が花畑の上を舞ってるのさ!? 確かに精霊が舞う事で幻想さが格段に上がったんだけどさ……ミレナさんよ、ここでそれは俺の難易度が更に上がったんだがそこの所どう思う?


「……何で難易度が上がってるんだよ」

「この場所だって分かったら……つい。えへへ」


 照れたらしく、微かに頬染めながら笑うミレナはこの景色とマッチして最高に可愛いんだが……余計にレベルが上がったと思ってしまうので止めて頂きたい。


 ミレナと花畑の中心くらいに移動する。いやぁ~、凄いよ。月に照らされた月光花などの花々が煌めいていてそれだけでも良いのに、精霊がいる事でここが現実じゃないくらいに錯覚するんだ。

 自分で仕掛けたミレナですら呆けている。うん、まぁ、凄いよね。ただし、俺の難易度が物凄く上がったけど。


「おーい、ミレナさーん」

「……はっ。見惚れてた」

「はぁ……単刀直入で悪いんだけど…………恋人になって下さい」

「ダメっ!」

「力強い否定!?」


 ……何故だ。既に場は整っていたはず。あと、何がダメなのか。理由が知りたい。


「……もうちょっとしっかりしたのが良かった?」

「無くは無いけど……ステラちゃんもクロエちゃんも婚約なのに、私だけ恋人なのはやだっ」

「婚約と恋人って……違う?」

「全然っ。という訳でやり直し」


 ミレナにやり直しされ、向き合う格好に。それからこちらを見つめて来る。ねぇ、そこまで期待されたら逆にやり難いよ。


「シンプルで良い?」

「良いよ」


 それは助かった。あまり経験がない俺にはこれ以上は高等過ぎる。一度、深呼吸をして……よし。


「……俺の婚約者になって下さい」

「はいっ」


 さっきの不機嫌さは何処に言ったのか、殊更に嬉しそうな表情で笑みを浮かべる。それ自体は俺も嬉しいのではあるが…………何でここで目を瞑るんですかねぇ? 中々ハードル高いよ?

 そんな事を思っても今は気にする気が更々ないんだろうね、目を閉じて完全にスタンバイのまま全く動きません。

 ……あぁ、もう良いよ。分かったよ。やりゃあ良いんでしょやりゃあ。


 ミレナをそっと抱き寄せる。少し俺とミレナは身長差があるのでミレナは俺に身体を預けながらつま先立ちになった。

 ミレナが近づくのと同じ様に俺も近づける。やがて、触れる。今回は舌を入れる気はないらしい。軽く唇を触れ合わせるだけでミレナは一旦離れる。


「ふふふ……」


 ミアさんと似た笑みを浮かべたミレナは即座に二度目のキスをする。今度は舌を入れて来やがったのでこっちも迎えてやる。今までの経験上、ミレナは自分からする分には意外と余裕があるんだが、逆の立場になると途端に弱くなる。

 今も両腕がだらんと下がっており、なすがままだ。顔は真っ赤だが。






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