第31話 人の話を無視しないで欲しいな……

 朝の早い時間にアルトネアへ戻るリュートさんとミアさんを見送り、もう一眠りした後。昨日と同じくメイドさんに温かい視線を頂き、朝食を済ませる。

 他にも何人かいたんだけどね? 全員の視線が見事に温かいんだわ。昨日は一人しか知らなかったのに……広がらないなんて無いよね。何となく分かってた。


 ごろごろしてると学園へ向かう時間になったので遅くとも夕方には帰る事をメイドさん達に伝える。その時はきちっとしてたのに……途端、視線が温かくなる。ねぇ、かなり台無しなんだけど。本当に仕事やってる時は流石と思うのにな……






 エルドル学園は昨日までの人数はいないんだが、そこそこの数がいた。百人以上はいるし当然だけどね。まぁ、幸いにも歓迎式の方に意識が集中しているのか、俺たちに気付く者はいない。良かった……気付かれたら昨日の二の舞だし。

 皆が向かってる方向へ続いて行くと講堂みたいな場所にやって来た。入り口では昨日みたいな受付があって、どうやらクラス毎に別れるそうだ。なんか不服そうなステラを取り敢えず宥めて、ミレナに託した。……何やら条件を突き付けられたが。内容すら教えて貰えないのは怖い。


 Dクラスの列に並んで暫く待っていると壇上に偉そうな感じの男性がやって来た。そう言えば式を始めるってさっき司会の人が言ってたっけ。これから平穏に過ごす事を考えてたから意識から少し外れてた。


「エルドル学園へようこそ。学長のガルデラだ。と言っても堅苦しい挨拶は苦手でね、一言だけ。自分たちの目的の為に頑張ってくれ。ここを踏み台にするつもりでな」


 学長が凄い事言ってるよ。俺は実践するつもりなんて微塵も無いけどね。目立つのは目立ちたい奴だけでお願いするよ。……目立ちたくなくてもステラたちのお陰で否応なく目立ちそうだけどさ。

 何より凄いのは一番後ろの俺でも分かる位に前の生徒たちの士気がスゲェ。隣のクラスだろうけどそっちも何かやる気が高い。…………考えて見ても当然だった。特に騎士、確かあれって貴族に連なるぐらいに地位は高かったから平民なら家族に楽できるし、貴族の次男とかでも家族に胸を張れるらしいし。冒険者でも高ランクなら収入は貴族とかとそこまで変わらないからやる気が溢れるのは当然の事だね。


 学長の話が終わり、この後はそれぞれの教室に移動するそうだ。Aクラスの方から移動するみたいでステラたちを含め十五人の少年少女が最初に講堂を出て行った。……あ、シュリィもAクラスだよ。予想通りだったよ。あとはステラたちと仲良くなりながら交友関係を広げて貰おう。……嫌な予感が頭をよぎったが気のせい気のせい。


 Aの次はB、Cと言った感じで俺たちもそれぞれの教室に移動した。教室自体は大学とかでありそうな感じで後ろに行く毎に席が高くなっていた。まぁ、言っても三十人。そこまで広くないけどね。

 俺はあまり目立たない位置である端に移動する。ここなら特に問題は無いかな。


「あ~、このDクラスを担当するミトだ。よろしくな~」


 ここまで案内して来た男性教員が担当らしい。何とも気楽そうで俺にとっては都合が良い。ただ、展開なら実は……ってパターンもあるので一応、注意はしておこう。事件に巻き込まれるのはステラたちだけで十分である。

 ミト先生の説明によると授業内容は座学よりも実践より。単位式らしいが、その半分以上が実践なのであまり気にしなくても良いとの事。それと授業自体は午前中まで。理由は仕事があったり、途中からは冒険者となってお小遣いを稼いだりする事もあるからだそう。あとクラス対抗の大会なんかもあるそうで何か文化祭を思い出した……。一回ミレナと一緒に回って酷い目に遭ったなぁ。


 細かい事はその都度となり、自己紹介へと進んだ。まぁ、簡単に挨拶するだけみたいだ。そんなに時間かける必要も無いし……と言うか、ミト先生自身が面倒くさいからとの事。何で講師やってるのか不思議である。

 自己紹介の順番は成績上位順らしく、名前を呼ばれた生徒から順番に自分の名前や得意な魔法属性、戦闘方法なんかを言っていく。それで俺が呼ばれたのは二十番目だった。……よし、いい感じの順位だ。


「ユート・フォーハイムです。水と風属性が得意です。よろしくお願いします」


 さくっと終わらせ席に着く。二ヵ所ほどから殺気が飛んで来たんだが……昨日のを見ていたのだろうが? 関わらない様にしてくれる事が一番だ。互いの平穏の為にも。

 残りも自己紹介は済ませ、今日は解散となる。明日からが授業の開始なので筆記用具とかは準備してくるように、との事だった。




 ミト先生からの話も終わり、若干二名からの殺気から逃げる様に隠蔽コンボを使って教室を出ようとした時、逆に扉が開いた。入って来たのはステラである。後ろからはミレナとクロエが一緒になってやって来る。……あぁ、嫌な予感。

 三つの魔法を同時に使って、しかもそれが隠蔽系なのにステラは迷いなくこっちにやって来た。俺は色んな意味で混乱している。他の生徒達も突然の出来事に混乱している。……何故分かる。

 特に男子。ステラ達は美少女なのでそれが何故来たのか、後お近づきになれるチャンスなのに互いを牽制しているのか動く気配がない。一方、女子は何かを察したらしく直ぐに雑談に戻って行った。……いやぁ、精神が強い。


 ステラは俺のすぐ目の前までやって来て、ギュッと抱き着き、上目遣い。そして、一言。


「お兄ちゃん帰ろ!」


 俺の使ってるのはあくまで隠蔽。バレたら効果なんて無く、視線それも男子のが一気に集中した。揃っているのは素晴らしいまでの殺気。いっその事、見事である。

 ……あと、何で分かったのステラ? ちょっと前までは気付かなかったよね? ミレナたちは特に気にした様子もなくこっちにやって来る。ただし、片方は何やら笑みを浮かべて……


 何か教室の空気が不穏な物へと変わっていくのを肌で感じながらステラを見る。当のステラはキラキラと期待した目でこっちを見ている。周りの視線など何のその。流石はリュートさんとミアさんの子供である。……今は本当に止めて欲しかったが。


「早くぅ~」

「……はいはい」


 ステラが促して来るのでここでの事は後で聞こう。どっちみちそうするつもりなんだけどね。ミレナの顔がミアさんと同じだし。急いで帰らないと俺の精神的なダメージが何倍も膨れ上がってしまう。下手すると物理的ダメージも。


 逃げる様に教室を出て、学園の門を出ようとしたら後ろから声を掛けられた。振り向いた先には男子諸君が。その数はDクラスだけじゃない。明らかに他のクラスも混じっている。そして、それに対してミレナの笑みが一瞬深まったのが俺には見えてしまった……。


「おい、そこのお前! 何故ステラさんやミレナさん、それにクロロリーフェ様と一緒にいるんだ!?」


 その中から一人の男子が出て来て、俺を指差しながら叫んだ。他にも生徒がいる中、そんな事を言われたら当然注目される。いつの間にか囲まれ、良い見世物になっていた。後ろの門の方向にのみ、逃げる事が出来る。

 俺は答えず逃げる準備をステンバイ。だが、走って逃げようとする前にミレナに腕を掴まれ、止められた。……何故逃がしてくれない?


「だって……ユートくんは私たちの大切な人だし。ね?」


 ミレナは流れる様に腕に抱き着いた所から首に自身の腕を伸ばし、頬にキスして来た。それからステラとクロエに目を向けるとその通りだと言わんばかりに二人は頷いた。

 ……煽ってやがる。ミレナの奴、煽ってやがる。男子諸君の視線には途轍もない殺気が籠り、既にその視線だけで俺は死にそうです。


「ねぇ……何で煽るの?」

「早く私も婚約して欲しいな。してくれたらこんな事は二度としません」


 小声でそう問い掛けると楽しそうに返して来た。その内容は脅迫と同様……。とうとう手段を選ばなくなったね。いや、近々しようと思ったんだよ? 俺の命が消えそうだから。……だからって、これは無いんじゃない?

 先頭の男子は額に青筋が浮かび、後ろにいる男子達も殆ど似たような状態だ。とても怖い。だが、ミレナに続き、ステラとクロエも近くにいて逃げる事が出来ない。


「よし、ユートとやら。今ここで決闘をしろ。貴様には分不相応と言うものを見せてやろう」

「あら、良いの? ユートくんは強いよ?」

「ふん、Aクラスでも無いのに負ける訳があるか。良いか? 俺が勝ったらその三人と別れろよ?」

「ねぇ、ちょっと話を……」

「じゃあ、ユートくんが勝ったらここで私達に愛の告白でもして貰おうかな?」

「良いだろう。ミレナさん達に相応しいのは俺たちの方だ、という事を教えてやる」


 俺の言葉は一切聞いて貰えず、決闘する事が決まっていた。……ねぇ、何で? 何で俺の話を全く聞いてくれないの? それと……ミレナさんや、何故俺が貴方達に告白をしなければならないのでしょう? 俺にメリットなんて何一つないんだけど。勝とうが負けようが針の筵になる事に違いないよね?

 俺が何か言う前にどんどんと話は進み、あっと言う間に話が着いた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る