第30話 何で分かるんだろう……

 目的の場所では数人の女性の方たちが受付を行っていた。正直に言うと、助かった。男性の方だったら絶対嫉妬とか殺気の嵐を浴びてただろうし。なんせ、女性の場合でも苦笑いなんだぜ? 何と言うか……申し訳ないです。本当すいません。


「……すいません」

「いえ、お気になさらず。仲がよろしい事は良い事です。では、受験票を見せて頂けますか?」


 俺たちは自分の受験票をその女性に渡す。それを見て何かの資料と確認したら返してくれる。俺たちのクラスを確認したんだろう。さて、俺は何処のクラスだろうか。


「ありがとうございます。皆さんのクラスはユート・フォーハイムさんがDクラス、残りのお三方はAクラスとなりますね」

「分かりました」

「「「……」」」


 それと合格した生徒は明日に行われる歓迎式に出る必要があり、明後日から授業が始まるそう。授業形態などの詳しい事は明日以降に説明される事をその女性から聞き、怪訝な表情の三人を連れて行った。

 三人とも分かりやすいほどに気分が落ち込んでいる。そこまでして同じクラスが良いんだろうか? 俺としては流石に学園まで一緒ならば俺の精神的なダメージが限界突破しそうなので遠慮して頂きたい。その分、それ以外では許可は出してるんだし。


 それ以上に意外と合格してから始まるまで期間が短いな、と思った。まぁ、国自体の考えがあるのだろうと直ぐに隅に置いておく。あの国王なら…………そんな心配は無いからね。他の奴らはどうか知らんけど。

 気分が落ち込んだら落ち込んだで今度は機嫌が悪くなって来たステラ達。君たち、もうちょっと自制心を持とうよ。特にミレナ。貴方は面白半分でやろうとするからステラ達以上に質が悪いんだよ?


 取り敢えず三人を落ち着かせる為にもクロエの別荘に連れて行って貰う事にした。下手したら俺があの場で旅立ちそうだからな。……精神的な意味で。というか、ここ最近精神的なダメージ量が多くないか?

 もう少し自重して欲しいステラたちである。どう見ても彼女たちが殆ど原因だからね? 内でも外でも。


 クロエの案内が始まって十五分ほど。アルトネアの屋敷と比べると多少は落ちるがそれでも普通ならあり得ないくらいの豪華な別荘である。しかもこの屋敷、クロエ専用なんだぜ? ……ちょっと頭が痛くなって来た。誰か頭痛薬を持って来て。


 パーティやるような大広間が無かったり、食堂が思ったより小さかったり、部屋数もそんなに無い事は僥倖だった。ここでも同じだったら俺は金が掛かっても〈憩いの緑鳥〉に戻るつもりだったよ。

 その場合は心休まる時が無いからね。俺はゆったりとした一軒屋でゆったりとした空間を楽しみたいのだ。王族だし、メンツとかプライドとか面倒くさそうな物を保つ必要があるのは分かるが、ここが最大限かな? 俺の場合は。本当に無駄に大きな屋敷を建てて……見栄を張りたいのは何故なんだろうね?

 そういう意味ではクロエの屋敷はぎりぎり大丈夫だったと言える。




「……もうちょっと一人にさせて欲しかったよ」

「だ~め。私たちのやさぐれた心を治す必要がユートくんにはあるのです」


 ベットに横になって(精神的な)疲れを癒していた所に突然やって来た三人衆。一人は勝手に膝枕をし、もう二人は人の腕を枕にしている。全員の機嫌が良い事なのは喜ばしいのだが、あと少しは……一人にして欲しかった。日頃の疲れを癒す機会はそんなにない。今まではそれを目一杯堪能していたというのに……

 さっきまでクロエの別荘に関して復唱・・していたのもいつもの現実逃避だ。人って、つい現実から目を逸らしたくなる事ってあるよね? 俺なんか特にそう。


 膝枕をして俺の髪を撫でながらとても機嫌がいいミレナ。こういう時は膝枕を大体一回はする。どれだけ好きなのだろうか。ステラとミレナは俺にくっ付いたままで軽く寝入っている。……そんなに安心して貰えるのは光栄なんだが、まだお昼前ですよ? ……俺も一眠りしたい。学園で嫉妬の嵐だったし。正確にはちょっと休みたいんだけどさ。


「……実は私、ちょっと怒ってます」


 唐突にミレナは俺にそう言う。いや、某古典部の人じゃないんだから……とネタに走ってもしょうがない。それにしても何に怒っているのだろうか? 流れからなら学園で違うクラスになった事か? ……う~む、よく原因が分からん。特にミレナが俺に対して怒る事なんて無いと思うんだが……?


「…………何に対して怒っているのでしょう?」

「ユートくんが手を抜いた事に怒ってます」

「まさか。俺は全力で頑張ったんだけど」


 手を抜いたって……。別に手は抜いてないよ? EかDクラス、B以上には行かないように全力を尽くしたんだから。全力で頑張った事も嘘じゃないし。まぁ、これを言ったら怒られるので言わないけど。


「あ……間違えた。ユートくんが下位のクラスに行こうとした事に怒ってます」

「……」


 な、何故分かった!? ……だからネタに走るな。だけど、本当に何で分かったんだ? そんな事は全く、それも今まで以上に見せない様に、それにミアさんすら分からなかったはずだぞ。あの人はその手の事が分かると即座に仕掛けて来るからな。

 ミレナは視線を俺の目に完全にロックオンしており、両手で顔を固定されてしまっている為に顔を動かす事も出来ない。もし、視線を動かせば動揺した事がバレてしまう。…………さっきの事に答えられなかった時点で既にバレてるんだけどね。だから本当に何で分かったんだろう……


「それで返事は?」

「……ごめんなさい」


 むふっ、とドヤ顔をするミレナにちょっとイラっと来た。だが、両手が塞がれている以上特に反撃なんて出来ない。魔法とか怪我を負わせる可能性があるから無理。それ以前に効きそうにないけど。


「何で分かったって思ってるでしょ?」

「…………思ってる」

「だってユートくんをずっと見て来たんだよ。それくらい分かるよ。だからね、もっと頼って欲しいな」

「今だって十分に頼ってるだろう?」

「まぁね」


 ちょっと不貞腐れるミレナ。頬を膨らませるその仕草を狙ってやってるんだとしたら、凄いよね。普通に可愛いし。自分自身をよく分かってらっしゃると思う。

 するとミレナはステラに一声掛ける。ステラは寝惚け眼の状態で俺の上に登って来てムフーッと満足そうに息を吐いてすぅすぅとまた寝入る。そういうミレナはステラが今までいた場所に素早く移動した。合わせて俺の手を軽く叩いた。


「……何をしろと?」

「それはもう甘えてますから……」


 分かるでしょ? と言いたげな瞳は悪戯っぽく輝いている。……腕を曲げて頭の位置まで持って来て、軽く撫でてやると満足そうに目を閉じて、表情を弛緩させる。

 どうやら話の方は一旦終わりか、保留にされたらしい。存分に振る舞っているミレナは甘える事以外で特に声は出さなかった。ステラとクロエも自分たちの好きなようにしている。俺がまともに扱えるのが左足くらいで(右足はミレナが捕まえてる)……もう諦めて俺も寝ようと思った。






 目覚めると良い感じに空が紅かった。近くにメイドの方がいて、リュートさんとミアさんは既に食堂で寛いでいるそうだ。……彼女の視線が生温かいのは気のせいだろう。そう思うことにしよう。

 現在の俺はステラ、ミレナ、クロエの三人から揉みくちゃにされてると言った感じ。ステラは俺の上で器用に丸くなってるし、ミレナとクロエは左右からくっ付いている。あとミレナは俺の右足を捕まえていた。


 まぁ、傍から見ればほのぼのとした光景だろうな。特に事情を知ってる者が見れば余計に。多分、リュートさんとミアさんはこれを見てるだろうから、あのメイドさんの表情もその二人から知ったのかもしれない。

 特にミアさんはそういう事は嬉々としてする人だから……


 取り敢えず、ミレナとクロエの頭を揺すって起こす。素直に起きてくれた事で両腕が空いたので起き上がりながらステラも起こす。ステラは寝起きが悪いというか……甘えて来る。今だって半分目が開いたと思ったら全身を俺に押し付ける様にしている。いつもステラの寝起きは思う事がある……お前は動物か。


「……ぉはよ、お兄ちゃん」

「おはよう」

「おはようステラちゃん。そろそろ起きましょうか?」

「!? はい!」


 さっきまでの寝ぼけ眼は何処に行ったのか。目は完全に開いていて、眠気もどこかに行ったらしい。完全に目が覚めているステラ……しっかり訓練されている。ミレナに。

 いつの間にしたのか気になる所だが……追求するのが怖いので聞かないでおこう。




 メイドさん曰く、夕食の準備が出来てるとの事で食堂に向かう。食堂では既にリュートさんとミアさんが待っていた。どうやらまだ夕食に手は付けて無いらしく、何か豪華な皿に丁寧な盛り付けをした料理が俺らを含めて人数分、用意されていた。


「「ぅへぇ……」」


 声のした方を見てみるとステラとミレナがちょっと苦手そうな顔をしていた。確かに俺もそっち側なのだが、その前に……ステラともかく、何でミレナまでそんな表情なんだ? 貴族ならこれくらいは慣れてるんじゃないの?


「……我慢してたの。テーブルマナーとか面倒だったけど」


 そう答えた何となくミレナの気持ちは分かった。そりゃ、面倒だろうな。特に貴族って場合は。まだ地球でのマナーの方が幾分か柔らかかったのかもしれない。やった事無いから知らないけど。……当然の様に心を読んで来る事は大分諦めてるよ。

 一方、クロエは澄ました状態で自然に席に着く。いつものオロオロとしたものは何処へやら。その自然な動作は流石王族と言える。クロエのまともな王族らしい行動はこれが初めてなきがする。……いや、ステラの件の時にちょっとだけ見たっけ。あの時は機嫌が悪い事も重なって少し寒い感じがしたけど。


 まぁ、堅苦しい事は無しという事でリュートさんは気を遣ってくれたのか普通に出来る。メイドさんも異存はない様で特に何も言ってこない。だってさ、この空間に入った時にちょっとだけ、本当に違和感レベルの小さな変化だけど、メイドさんの雰囲気が変わったんだ。流石王族に使えるだけはあると思ったよ。


「それにしても本当にユート君たちは仲が良いわね」


 夕食が始まって少ししてミアさんがいきなりぶち込んで来た。何を言っているのか、無論先ほどの事だ。やっぱり、俺たちが固まって寝ている所を見ていたのだろう。お節介オーラが滲み出ている。


「皆ユートくんの事が大好きですから」


 おくびにも出さずミレナは言う。ステラもクロエもちょっともじもじしながらコクリと頷いた。ミアさんは俺に向かって「愛されてるわね~」などと呑気な事を言う。原因は貴方だろうが! と言いたいところだが、突けば藪蛇になりそうなので特に何も言わない。

 ミアさんのお陰でステラとクロエの雰囲気がちょっと可笑しくなった所にリュートさんからの援軍が。……そして、クロエはさっきまでの王族らしい姿が形無しです。クロエらしいと言えばその通りなんだけど。


「それにしてもどうだったんだ、合格したのか?」

「皆合格したよ」

「それは良かった」


 それに俺は即座に便乗。ミアさんが悔しそうな顔をしているが知らない。それがリュートさんに向かった時にリュートさんの顔が少し青ざめたが…………ありがとう。

 そこから一気に話が開いた。俺のクラスがDだというのが気に入らないとか、本気を出して欲しかったとか、三人がAクラスなのは凄い事だとか。


「それで本当の所はどうなの?」

「本気は出したよ。だけど、同じ所にステラたちと同じくらいの実力の子がいてさ、残念ながらそっちに注目が行ったんだ」


 それからはシュリィの話に移り、また一悶着あったんだが……それはさておき。明日にはアルトネアに帰ってしまうリュートさん達と楽しい時間を過ごせたのは良かった。恐らく次に会えるのはリュートさん達がこっちに来るか、俺たちが卒業、もしくは長期休暇じゃないと無理だろうしね。

 あとは他の連絡事項を伝えて、普通に雑談と言った感じになった。






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