第27話 性格……変わり過ぎない? ‐学園の受験Ⅱ‐

 試験を始める前に審判をしてくれる騎士っぽい人から説明を受ける。話を聞くのって重要だよね。しっかり聞いておかないと失格とかあり得るし。うん、大事。凄く大事。

 さっきまでの威勢がとても恥ずかしくて穴があったら入りたい気分です。


「お前たちの審判をさせて貰うレド・アーガスだ。普段は騎士をやっている。手短に行くぞ。まず試合時間は十分。基本的に何でも使って良いが、重症以上の怪我を負わせたらその場で失格だ。勝った場合にのみ、追加点があってそれ以外の結果では特に変動はない。あとは……俺の独断と偏見で試合の内容次第で追加点がある。まぁ二人とも頑張ってくれ」


 質問はあるか、と聞かれたけど俺は特にないので首を横に振る。対戦相手の女の子の方も特にないようだ。

 俺はここに入ってくる前に選んで持って来た木製の短槍を構える。女の子の方は短剣が手元に一つ。左右の腰に二つの合計三つ。見るからに軽戦士。だとすると風系の魔法が来そうだなぁ。それと間合いも若干、不利。近づかれたら槍での対処が難しい。まぁ、素手で戦えるので問題は無いけど。

 女の子はさっきまでオロオロしてたけど、構えると瞳からはオーラみたいなのを感じる。あぁ……強いんだろうなぁ。俺もまだまだ読みが浅いらしい。課題が一つ増えたね。と言うか、性格変わったよね? 


「では、これからシュリィ・ツェルガとユート・フォーハイムの試合を行う! 始め!」


 レドの合図と共にいきなり襲って来る、という訳じゃなくシュリィはゆっくりと歩いて来る。取り敢えず俯瞰全視を発動して視界を確保。高速多考で脳の処理能力を上げる。まずはこれで様子見かな。


 俺とシュリィとの距離が十歩を切った時、シュリィが目の前から消えた。同時に真後ろより少し右からバックスタップの要領で短剣を刺して来る。勢いを見る限り、下手したら殺されそうなんですけど……。

 位置を特定したら前に数歩移動する。それと大きく短槍を振った。シュリィはそれに気付くと攻撃を止め、バックステップで距離を取った。……すげぇ反応速度。もしスキルとかを使てなかったら化物だわ。それに今のは「失位」。相手の認識外、つまり死角に高速で移動する魔法だ。風魔法の初級の魔法である。

 それに動きと言い、攻撃の仕方と言い完全に斥候系じゃん。下手したらステラ並みのスピードがあるし、対処が面倒なんですけど。


「……凄い。まるで位置が分かってたみたい」

「あはは、ありがとう。それにあなたもあの反応速度、スキル使ってたりします?」

「……元々、反応速度は良かったの」

「それは凄い」


 本当に恐ろしい。「失位」って初級の割に難度がかなり高いんだよ。水魔法の「濡れ翅」より難度は上だ。って事は風魔法は相当使えるよな。多分俺よりも上だろう。最悪、雷魔法すらも使えるかもしれない。何で俺の会う人って、皆あり得ないくらいの強さを持ってるんだろうか? 常々疑問だ。それと何か口調も違う。

 まぁ、俺の目的は最初から引き分けなので基本的に防御しかしない。と言うか、攻撃はまだまだ訓練が必要なのでこの手の場合は防御に専念する事にしている。下手な攻撃して悪い評価でも受けたら堪ったもんじゃない。攻撃したら即負けるからしないだけなんだけど。


 次は真正面から物凄い速さで寄って来て、さっきの逆手で持っていた短剣を順手にして素早い突きを放って来る。速くない? それと確実に殺す気が来てるよね?

 その攻撃を風を起こして後ろに移動するとシュリィはさらに大きく踏み込んで来て、空いている手で腰の短剣を抜き取り、切り上げる。……高速多考のお陰でこんな余裕があるけど、普通なら滅茶苦茶危ないよね。いや、俺も危ない事には変わりないんだけどさ。それと一瞬感じたけど殺気があるよね?


 死にたくないので俺は即座に槍でその短剣を弾く。シュリィはその弾かれた反動を利用して今度は蹴りを入れてきた。……動きが可笑しい。とても十歳程度の少女とは思えない。何て反射神経、何て運動能力。素手だけならステラと同格かもしれない。ステラの場合は能力値によるゴリ押しだけどね。


「……あなたも凄い反応速度よ」

「そういうスキルがありますから。スキル無しで、の方が凄いです」


 実際、一回目の攻撃の後から超感覚も使っているので余程の実力者じゃない限り、反応出来ないなんて事はない。それはバルガーで実験済み。身体を張った甲斐があったよ。じゃなかったら、確実に敗北してたね。


 三度シュリィが向かって来る。俺の顔のすぐ左側・・に。予想外過ぎる動きだった為、思考が少し追いつかなかった。左側まで来たシュリィは空中・・で逆の方向へ向かう方角を変え、膝打ちしてくる!

 ほぼ超感覚頼りでしゃがむ。すかさずシュリィは方向転換して短剣を振り下ろして来る。低位置から全力のバックステップで何とか逃げ延びたけど、次は両手を地面に突き、俺の顔面へ向けてドロップキックをして来た。風魔法で補助してるのか速度が今までで一番速い。

 ギリギリ上半身を逸らす事で避けたけど狙いすませたように短剣が襲って来る。槍で弾いて脱出しようと思った次の瞬間、地面が目の前にあった。


「ガハッ!?」


 地面にぶつかった事で肺から空気が強制的に吐き出され、ちょっと意識が薄れかけた。咳込みながら何とか立ち上がる。

 頭を両足でしっかり摑まえられた所は覚えているのでそこから空中を一回転して地面に叩きつけられたのだろう。違ったとしてもあの状態から反撃してくるとか、十分にステラ達とやりあえるよ。というか、勝てる可能性も十分にあるよ。


「ゲッホッ、ゲッホッ。……強すぎません? ゲホッ」

「……あなたも。今のだって私の奥の手の一つ」

「もしかして…………スキル?」

「……そう。空間機動ってスキル。空中を一瞬だけ自由に動けるの」


 だから、あそこまでの三次元的な動きが出来たのね。正直、今の俺じゃ打つ手はそんなに無いかな。魔法も一属性は併用しないと時間まで持たない。……水属性で行こう。駄目だったら降参って事で。

 「泡沫」からの隠蔽コンボを使おうと思ったらレドから終了の合図が下った。


「そこまで! 二人とも十分に見せて貰った。そこまでで良い」

「……はい」

「了解です」


 ちなみにあとどれくらい時間が残っているのか聞くと、半分近く残っているそうだ。うへぇ、そんなに残ってたのかよ。コンボがダメなら降参だったな。


「……あ、あのぉ」

「はい?」

「……とてもお強いですね、フォーハイムさんは」

「いえいえ。ツェルガさんの方が強いですよ。あのまま行ったら確実に僕が降参してました」

「……私の事はシュリィで良いです。それよりもフォーハイムさんは……まだ本気を出してませんよね?」

「僕もユートで良いですよ。それと間違いなく本気でした。これでも防御には自信があったんですけどね」


 あれだけで本気を出して無いって分かるのか。凄い観察力だな。まぁ、シュリィも本気は出して無いだろう。さっき、奥の手の一つって言ってたし。まだまだ強力な物が隠れてると思うと……敵に回したくない。これからは良好な関係を気付けたらと思います。そして、口調が元の戻った。どうやら特殊な条件下で性格が変わるようだ。

 レドから俺とシュリィは評価を受けて他の組が終わるまで雑談でもしながら待つ。評価と言ってもよく頑張った、とかそんな感じ。シュリィは加えて勧誘されていた。まぁ、あの身のこなし方を見る限り、普通に有り得る話だよね。何故か遠慮してたけど。


「……でも、あれほどの実力があれば複数の女の子に好意も持たれますね」

「あれはですね…………実は、彼女たちの方が強いんです。頑張っても引き分けに持ち込めるかどうか……分野は違いますけどね。あぁなったのは……色々あったんですよ」


 で、シュリィには教室での件を少し説明しておく。ここから全員の誤解が解けたら良いと思うんだが……期待はしないでおこう。

 シュリィは納得したようなので安心した。因みにステラ達の事は恋人とか婚約者みたいな関係だと伝えている。もしステラたちが今回の話を聞いて俺が問い詰められる……なんて事にならない為の対策だ。まぁ、馴れ初め程度は聞かれたけどね。


 それから五分くらい経って他の組もぼちぼち終わっている。予想通り、男子諸君は試合の様子を見ていたシュリィも含めた女子たちに視線でどうだった? と問い掛けて来る。

 二人の女子がパチパチと手を叩いて貰った事で男子が小さくガッツポーズしている。その後、俺が貰ったんだ! 俺だ! と言う感じの言い合いになっていった。ただし、女子たちからの視線は呆れた様な興味がない様な物だったので、全く靡いてなかったらしい。ご愁傷さまです。






 次は魔法の科目で弓道場みたいな所に来た。何十メートル先だろうか? 距離は兎も角、ある程度離れたところに五つずつ、的が等間隔で置いてある。説明を受けなくてもあの的に当てる事が内容だろう。詳しい事は聞かないとどうしようもないが。


 それとレドを含めた四人は戦闘の科目の補助としてきたようだ。騎士なら当たり前だよな。他の仕事がある訳だし。

 着いてすぐに俺たちを案内している男性職員の人から説明が始まった。


「次は魔法科目だ。皆も見えるだろうあの的に当てる事が試験内容だ。当てるだけなら中心が百ポイント、一番外側が一ポイントだ。的を破壊した場合は場所に応じて最大百ポイントの加点がある」


 つまり、最大で二百ポイント。戦闘と魔法は全体の割合が大きいし、戦闘も二百ポイントが最大かも。筆記も合わせると合計で五百か六百ポイント。……四百弱あればいけるか? 一応は四百中盤を狙って魔法はやっておこう。

 あとは注意事項などを聞く。ちなみに魔法は左から一人ずつ順番に撃っていくそうだ。まぁ、五人同時になんて正確に分かる訳無いよな。


 十人いるので二列に並ぶ。俺は「240」なので当然後ろだ。シュリィは前だった。別にどうでも良いか。


「始めて下さい」


 男性教員の開始の合図と共に前の四人は魔力を集中している。魔法の発動には詠唱するタイプとしないタイプがる。詠唱って言っても「其は~」みたいな呪文じゃなくて、魔法の技名を言うだけだ。

 基本的に詠唱ありでは癖になっている人もいれば、魔法を具現化させるのに一役買っている場合もある。それと詠唱しないと言ってもそれは口に出さないだけで思ってはいる……と思う。俺しか使う人を見た事がいないので比較の仕様が無いが。

 シュリィだって小声で言ってたしな。超感覚があれば容易に聞ける。ちなみにシュリィは他の四人とは違って、他の事に集中しているのか、あまり魔力への集中が無い。


 まずは一人目の男子だ。俺と同じ水属性に適性があるようで水の球を作り出して的へ向ける。当たった場所は中心からちょっと離れている。得点的には八十ポイント後半くらいか? それにしても俺と比べると甘い気がするけど、そもそも教えて貰っている人が人なのでそれは仕方ない。ミアさん適性ある属性全部、上位まで使えるからな。

 二人目と三人目も一人目と似たり寄ったりって感じ。これが平均とするともうちょっと落としても大丈夫かな。


 次はシュリィ。さっきまで下を向いていた顔を上げる。こっちからは後ろ姿しか見えないのでどんな表情しているのか分からない。ただ、雰囲気が戦闘の時とちょっと似てる。

 戦闘科目の時の短剣を許可を貰って借りて来ていて、腰の横で構えた。そこから目に見えない速さで切り上げた。数瞬後には的が短剣を振り上げた軌道と同じ所で真っ二つに斬れていた。綺麗に真ん中が切れている。これは確実に二百ポイントが確定だな。他のと合わせてたら確実に合格だろう。筆記は知らないけどAは固いに違いない。


「つ、次、お願いします」


 少し呆けていた職員さんは慌てて気を取り戻し、次の男子に声を掛ける。その子もビクッと反応したあと的と対峙した。



 ♈♉♊♋♌♍♎♐♏♑♒♓



 ……ようやく来た。一人目から待って十分くらい。ようやく最後の俺まで来た。意外と時間が掛かったよね。多分、シュリィのインパクトが強くて色々あったんだろうけど。

 俺なんて結構前から準備は終わってたから暇で暇でしょうがなかったよ。寝たりしたら即失格なので結構怠かった。


 職員さんから合図を受けて魔力を込める振りをする。それから右手を前に出す。他に人達がやっていたので真似をしておかないと目立っちゃうからね。既に遅い? ははは、それはそれ、これはこれ、だ。

 それと皆詠唱してたので俺も適当に何か言っておこう。これ、初級ですらないし。基本のだからね。……風の弾丸みたいな形だし「風弾」で良いよね。


「……『風弾』」


 勢いよく発射した風の弾丸は中心と外側の間くらい、五十ポイントよりも少し外側を貫いて霧散させる。一応、これも壊したって事だし、百四十くらいは入ったよね。違っても最悪Eくらいには入ってるかな?

 職員さんは一人目からと同じ様に手元の紙に恐らく点数を書き込む。それ以外で特に可笑しな所は無かった。男子諸君も最初の頃の嫉妬の視線が薄くなった。なるべく目立たない様にしてたお陰か、気に入らなくなったようだ。よし、目標達成。


 全て終わった俺たちは担当の男性職員から結果は三日後だとか、合格した時は受験票を再び見せる事とかの注意事項を聞いて解散する。

 俺はステラたちが終わるまで待つ必要があるので、来た時に門の近くにあったベンチに向かう。男子達は女子の注意を引こうとしてるが、成功の道筋は見えない。……頑張ってくれ。シュリィは戦闘と魔法の科目での凄さからか、男子から絡まれるような事にはならなかった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る