第17話 え? ……違うの?
翌日。ステラもミレナも昨夜の事を忘れてるんじゃないかと思うぐらいにいつも通りだ。試しに聞いてみるとうっすらと顔が赤くなったので完全に忘れた訳じゃないらしい。
うーん。それにしても今日はどうしようか。今回は王都で少し過ごしてアルトネアに戻るんだが、リュートさん達はリュートさん達で予定があるらしく、俺たちも自由に過ごして良いと言われている。それに昨日の段階で金貨を五枚ほど直接貰っているので過ごす分には申し訳ないんだが……昨夜があれだったので特に何も考えていない。ちなみに残りはリュートさん宛でアルトネアにある家に送られる事になっっている。
「ステラとミレナはどっか行きたい所はある?」
「……まずはお出かけしましょ? あとは気分に合わせれば良いんじゃない?」
ミレナがそう提案する。ステラも賛成のようだ。俺も何も無ければ部屋でダラダラするつもりだったので否定は無い……が、何か予感がする。面倒事の予感が。外れてくれる事を祈ろう。
早速、〈憩いの緑鳥〉から出る。やはり王都は町並みも含めてデカい。それに人通りも流石は一国の首都、とても多い。……裏を返せばそれだけ面倒事が起こりやすいとも言えるんだが。
物騒な考えは置いといて、受付の人から聞いた市場がある場所へ向かう。
着いた市場もアルトネアより賑わっている。取り敢えず朝食をまだ食べてないので近くにあった串焼き屋で串焼きを一人二本ずつ買う。その串を食べながら他も覗くと全体的に見て食べ物、飲み物系がやっぱり一番多い。次に服や雑貨、一番少ないのは指輪やネックレスなどのアクセサリー系。
ステラもミレナも女の子。服やアクセサリーを見てテンションが上がっている。それで要望を聞くと真っ先に指輪と断言して来たで……頬が引き攣った。ミレナさん。貴方、この世界じゃまだ十歳なんですが。ステラも。いくらなんでも早過ぎやしませんか?
流石にそれはまだ個人的にはキツイので二人に合いそうなネックレスと耳飾りで勘弁してもらった。その間、売っている女性から興味深い視線を頂いた。それと値下げまでして貰った。
結果的にプレゼントする事になり、よりテンションが上がった二人を連れ、市場を後にする。少し歩いて広場に着くと手頃なベンチで休憩を取る事にした。二人はまだまだ元気なのだが俺が……精神的に疲れた。ここまでステラとミレナが視線を浴びる浴びる。当然注目が凄く、それと同時に俺への視線も増えた。怨恨を除くと「何でお前なんかが!」といった感情を込めた鋭い視線が送られていたのだ。普通に疲れるだろう。
気持ちいい陽光に三人で和んでいると誰かやって来るのが見えた。……俺に「休む」という事は難しいのかもしれない。
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やって来たのはガラの悪そうな五人組。言うまでもなく全員男。ルドラス君に続いて今度は……広場にでも呪われてるんじゃないだろうか、俺。
「おいおいおい。お前みたいなガキが両手に花とはいい度胸じゃねえか」
「ええ、本当に。とても自慢です」
一先ず話には乗っておこう。こういう輩は暴走した時が一番面倒だ。隣でくねくねしてる二人は知らん。
話しかけて来た五人の中でリーダーらしき男が予想してなかったのだろう、少し呆けている。謙遜すると思ったか? 一度経験済みの事を繰り返して堪るか。それにステラもミレナも超がつく程の美少女なのは見たら分かる。
その間にミレナに空間魔法で〈憩いの緑鳥〉へ戻ろうとしたが、出来なかった、何故だ?
「ははっ。魔法は使えねえよ。そう言う道具があるからな」
「……」
黙っていると都合よく解釈してくれたのかベラベラと喋ってくれる。道具の名は「魔封じの領域」。効果は使用者を中心とした一定範囲内の味方以外の魔法が使えなくなる、と言うもの。控えめに言って強力だ。壊れやすい、魔力消費が大きいと言った弱点があっても普通に強い。
一番疑問なのは何故こんな奴らがそんな物を持っているのか、普通は持ってない筈なんだけど……。
「何故俺らが持ってるかって? そりゃあ、俺らは王都の冒険者の中でも指折り付きの実力を持ってるからな。“
「いえ、全く」
全然、全く、これっぽちも。クラスは熟練クラスと凄いが生憎ながらリュートさんの方が強いと思う。リュートさんのクラスは聞いてないけど。帰ったら聞いてみようか。
流石にこれは驚きが強かったのか、男は暫く硬直している。これなら逃げれそうだが、熟練クラスなら実力で帰る事は不可能。空間魔法も使えない。まずは……誰か助けてぇ~。
ステラとミレナは五人を視界に入れた時からずっとくっ付いていて、顔が見えない。傍から見れば怖がってみれば怖がってると思うが、実はチラチラと五人を見ては殺気を出しているし、真実は俺が守っているんじゃなくて、守られているんだ。
男としては何とも情けない限りである。実際、二人よりも弱いので(ミレナは分からないけど)話すぐらいしかやる事が無いのだ。
「にしても……俺らを見て震えるどころか、知らないと来た。それに怖がってる感じじゃねぇ。面白いな」
「いえいえ。内心ビクビクですよ。とは言っても二人を渡す気はないですが」
「胆力も十分。良いねぇ。いっちょ、俺と戦わねぇか?」
「……は? ステラとミレナを強引にでも連れて行くんじゃないんですか?」
あれ? 流れがおかしい。予想してた状況と違うぞ。ルドラス君と似た様なものだって思ってたのに……。
「ステラとミレナ目的じゃないんですか?」
「ん? ……あぁ! 俺らをそんな三下と一緒にするなよ。お前がどうしてもってんなら良いけどよ。他人の連れを奪おうだなんて、俺もこいつ等もそんなに小さくねぇ」
ガラが悪いと思ってたけど……まさか実は良い人だった? 今の話を聞く限りそんな感じがする。えぇ……?
「お、そう言えばまだ名乗ってなかったな。俺は“五竜牙”の頭張ってるバルガー・エルドリッヒ。お前は?」
「……ユート・フォーハイムです」
「だったら、ユート。試合しようぜ」
その言葉にステラもミレナも俺も全員、呆然としている。まさか本当にただ戦いたかっただけ?
「……戦うだけですか?」
「おう。昨日、ユートたちリュートと一緒にいたろ? だったらそれだけ強いと思ってな!」
「そのリュートって……リュート・フォーハイムですか?」
「あぁ! 何てたってリュートは最高位の竜クラスだからな。出来れば本人に手合わせ願いたいがユートでも十分だろ」
「実はその人……僕とステラの父です」
正確には俺は義理のが付くけど。その言葉を聞いたバルガ―含む五竜牙全員は完全に固まっていた。さっきまでの俺たちみたいだ。
まぁ、流石は実力者なのか一瞬で元に戻り、逆に詰め寄って来た。ステラもミレナもその暑苦しさにマジで嫌がっている。具体的には俺の前にいたのが後ろに行くほど。
「……本当なのか?」
「ええ。僕は小さい時に拾われたので育ての親ですけどね」
「いや、それはいい。こりゃあ、もっと楽しみになって来た!」
取り敢えず離れて貰った。バルガーは他の四人と凄いハイテンションだ。二人と合わせて結構引いた。
「という訳で模擬戦やろうや。別に勝ったら~って条件つけるわけじゃねぇ。普通に戦うだけで良い。リュートの息子と言う点でもユート本人と言う点でも戦いてぇんだ」
「お兄ちゃんのメリットは?」
「まぁ、熟練クラスを倒したとなりゃ、相当スゲェんじゃねぇか? 知名度だけなら軽く王都全体に広がるぜ」
「「よし、やろう!!」」
「ちょっと待て。俺はまだやるとは言って無いぞ!」
バルガーの言葉を聞いて即座に受け入れる二人に軽い拳骨を降ろす。やだよ。知名度なんて広げたくないし、それをリュートさん達が知ったら……恐ろしい。第一、俺が勝てるわけないだろ? まだ、二人の方が可能性はあるわ。
「だって……ユートくんが活躍するところが見たいし……」
「お兄ちゃんの凄さを皆に知って欲しいんだもん……」
「「ねー!」」
恨みがましい視線を向けつつ、完全に息を合わせているステラとミレナ。バルガーも少し同情しているようだ。俺の気持ちが分かってくれるのか……!
「それで」
「何処でやるんですか?」
「あ、あぁ。近くにギルドがあるからそこでやろう。模擬戦できる場所がある」
二人から強引に立たされ、両腕を掴まれる。一応は抵抗してみたが、やはり無理だった。行動的にも言動的にも。
良き友人になれそうな気がするバルガーに付いて行って、本来は来る気が無かった王都のギルドに着いた。
バルガーが受付嬢らしき女性と多分、模擬戦をする事を話してるんだろう。残りの四人は俺たちの近くにいて、何と言うか……見張っている。そもそも逃げられないので……意味は無いんだが。
それから直ぐにバルガーが戻って来た。
「直ぐに使えるそうだ。行くぞ、ユート、嬢ちゃんたち」
「「おおー!」」
「お、おぉ…………はぁ」
ズルズルと引き摺られるようにしてバルガーの後を付いて行く。
そこは所謂コロッセオみたいな所で模擬戦場と言うらしい。ギルドの直ぐ真後ろにあって、耳の早い冒険者たちが既にスタンバイしていた。そこから聞こえるのはリュートさんの息子とバルガーが戦う的な事だ。
既に注目され、これから活躍するという事に一切の迷いがないステラとミレナは非常にキラキラとした視線を送って来る。
二人に気付いた冒険者の二、三割ほどが期待から怨恨へと視線が変わっていったが。
俺が武器を持って来てないとバルガーに言うと訓練用の木製の武器を使うとの事で、それで怪我をしたとしてもギルドが模擬戦終了後に治してくれるそうだ。模擬戦をする上でそう決まっているらしい。
俺は短槍をバルガーは大剣を選んで会場に移動する。最初に見た時は十人程度だったのがこの数分で百人近かった。それでもまだまだ人が入って来る。いつの間にそこまで広がったのか……一体誰が広げたんだろうね、ミアさん?
来ている人の中にリュートさんとミアさんの姿があった。前にもいたよね。どれだけ耳が良いのさ。
真ん中まで来るとさっきバルガーと話していた受付嬢の女性がやって来て、模擬戦の説明をしてくれる。
「これからバルガー・エルドリッヒとユート・フォーハイムの模擬戦を行います。制限時間は三十分。通常は時間無制限だが、ユート君の事を考え、そうさせて貰います。試合はどちらかの敗北宣言か、試合続行不能となった時点で終了します。また、時間制限が過ぎた時は引き分けとなります」
模擬戦を行うだけで結構時間が掛かっているなぁと思ったらそういう事を決めていたのね。俺としては結構有利なんだけど……それくらいのハンデは必要って事だろう。とは言ってもリュートさんの下では時間は無制限で、気絶も条件に入って来るだけでそんなに変わらないんだけど。後、勝った方が一つお願いできる事か。
「ようやく出来るな。ユートの実力、しかと見せて貰うぜ」
「は、はは。お手柔らかにお願いします」
握手を交わして十メートルほど離れる。観客のボルテージが上がる中、受付嬢さんの言葉で試合が始まった。
「始めっ!」
……その結果として……大変な事になった。
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