第16話 何とか無事に過ごせたぞ……!

 盗賊団を衛星都市の兵士達に連れて行って貰ってから四日。俺たちは無事に王都へ到着した。俺だけは精神をガリガリ削られたけど。


 ま、それは置いといて王都に着いて思った事、何もかもデカい。周囲を見渡すその様子は完全にお上りさんである。次に思った事は帰りたい、だ。だって、よく考えてみろ。別に観光目的で来た訳じゃないんだぜ?

 王城? 王宮? ……とにかく国王様がいる所にこれから行かないといけないんだよ。碌な事が起きる気配が無いし、一体どんな厄介事を背負わされるのか……。考えただけで早く帰りたい。……帰れないけど。観光目的だったほうがどれだけマシだった事やら……。


「お兄ちゃんどうしたの?」

「……これから王様に会うと思うとちょっと緊張してね(主に面倒事を押し付けられそうで)」


 ステラは一人納得顔になって体をこっちに預けて来た。続いてミレナも肩に頭を乗せて来る。クロエは行動には移せていないが、凄くしたそうだ。

 傍から見たら同性から私怨の視線を一身に受ける事間違い無しだろう。ま、ステラたちは緊張しない様に配慮してくれてるんだろうが。……くれてると思う。クロエは恥ずかしさと合わせて半分半分だろう。


「……ありがと」

「~♪」


 一応、お礼を言うと三人とも表情を綻ばせ、さらにくっ付いて来た。クロエは恐る恐るだったけど。

 宿に着いた俺達はそこで馬車を預け、歩いて向かう。馬車で行かないのは注目される事を俺が嫌ったからだ。理由は明白だな。俺は注目されたくない。

 歩いて向かう途中も相変わらずステラとミレナの両手に花状態だったので所々から怨恨の視線が刺さっていた。まぁ、それもミアさんと目が合うとすっと外すんだけど。ちなみにリュートさんやフーラ君を見て周りの人達はちょっとどよめいていた。……馬車の方が良かったか? クロエは安定のスルー。王女としてそれはどうなのか……?






 ……王城に着くと話は通っているみたいで殆ど顔パスで中に入る事が出来た。城内に入ると侍女さんが数人やって来て、クロエとフーラ君を恐らく二人個人の部屋へと連れて行った。

 寂しそうな表情をしたクロエたちと別れ、俺たちは来賓室みたいな所に通された。ここで準備ができるまで待っていて欲しいそうだ。


 リュートさん達は普通に寛いでいるんだが俺はこれから起こるであろう事に頭を抱えずにはいられない(心の中で)。再三言うが、王様と謁見だぜ? しかも俺にとっては厄介事が確定の。どう拒否しようかちょっと悩む所だ。


 気を紛らわせるために皆で他愛ない雑談でもしながら一時間ほど経った後、ここまで連れて来てくれた侍女さんの人が来た。用意が出来たから付いてきて欲しい、との事。

 侍女さんの言う通りに付いて行く。向かう場所は王座の間だそうだ。雑談の最中、リュートさんから如何どうすれば良いかは聞いたけど……これで何度目だろうか。早く帰りたい。


 そして、高さが五メートルくらいありそうな扉の前で侍女さんはすっと脇に退いた。ここが王座の間らしい。反射的にきびすを返そうとするとステラとミレナから肩をガシッと掴まれる。


「逃げるのは」

「だ~め」

「……はい」


 大きな扉が開き、見えたのはレッドカーペットの奥で玉座に座る男性。どう見ても国王だ。隣には王妃らしき人物と後ろにはクロエやフーラ君を合わせた少年少女たちが。

 カーペットの左右には騎士や貴族たちがいる。注がれる視線は俺以外の全員。どちらかと言うとステラやミレナに多いかな? 俺はちらりと向けられ直ぐに逸らされた。興味はないらしい。


 俺たちはリュートさんの後に続き、行動を合わせる。ある程度近づくと片膝をついて頭を下げる。「面を上げよ」と言う国王の言葉でリュートさんが顔を上げるのに合わせて俺たちも上げる。


「此度の騒動、ご苦労であったな。既に話は伯爵から聞いている」

「いえ、当然のことを下までです」


 おぉ~。こんなリュートさん初めて見た。任せて正解だったようだ。そんなリュートさんにミアさんは熱い視線を送っている。……それに気付いたリュートさん。額から汗が。うんうん。リュートさんはそうでないと。


 それからリュートさんと国王の間で決まった流れが進み、俺は特に何も言う事無く謁見自体は無事に済んだ。褒美の話に関しては別室で詳しく話すとの事でさっきの来賓室に戻る事となる。……つまり、本当の戦いはこれからだという事か。やだなぁ。


 心中逃げ出したい気持ちで満たしながら渋々と来賓室へ戻る。両隣にはステラとミレナがいるので逃げる事自体が不可能だ。

 二人の相手をしながら時間を潰していると国王と王妃、王子王女たちが入って来た。……なんかデジャヴ。そして、そうそうたる面々。頬が引き攣つりそうだよ。


「久し振りだなリュート。今回は俺の子供たちを助けてくれてありがとう」


 開口一番、国王はそう言ってリュートさんに頭を下げる。それに対してリュートさんは真っ先に否定した。至極当然の様に。


「いやいやラル。助けたのは義息むすこのユートだ。お礼を言うならそっちにしてくれ」

「む? それは済まない。して……君だね? 今回はフーラとクロエを助けてくれてありがとう」


 取り敢えず国王に頭を上げて貰って自己紹介をする事にする。国王の名前はライルハウト・フォン・リベルターレ。王妃はアルメア。王子王女はクロエやフーラ君を除くと第一王子のアルハウト、第二王女のノエル、第三王女のリリナの三人だった。


 俺たちの方も軽く挨拶する。国王はステラとミレナを見てクロエの方に視線を向けた。全てが短い時間の中だったので真意は分からないけど。分かりたくもないけど。


「さて、まずは金貨二百枚以外に……何か欲しい物はあるかな?」

「あ、金貨は確定なんですね……。じゃあ、それだけで」


 あ、やべ。ちょっと口調が悪かったかも。……だって、国王からリュートさん達と同じ感じがしたんだよ。親馬鹿と言う感じが。……大丈夫だよね?


「欲が無いな……だが、何かないか? これだけでは国王として示しがつかない」

「と言われましても……それだけ金貨があれば特に困る事は無いので」


 伯爵のと合わせて金貨二百五十枚は確定。なら、装備品とかを買い替えても暫くは必要ない。普通に暮らすだけならもっとない。それに余計な荷物は持ちたくないっ。

 という訳で遠回しに拒否しているのだが、国王は引く気配がない。と言うかむしろ押しが強くなって来ている。

 いっその事ミレナの空間魔法で逃げるか? 後々の俺の精神的ダメージさえ除けば大丈夫だろう。あとはリュートさん達が何とかしてくれるはずだし。……してくれるよね?

 一応、国王的に嬉しい提案を聞いてみよう。引き受けるつもりは全くないが。


「……逆に聞きますが国王様ならどんな事が良いんですか?」

「ふむ……例えば、クロエの婚約者なんかどうだ? クロエも満更ではなさそうだしな」


 他にはお金の額の増加、王都にある学園への編入許可、屋敷の進呈などだ。どれ一つとっても碌な事にならないので全て遠慮させて貰おう。

 国王サイドの提案は全て却下しても、食い下がる。どうしようか…………だったら、あれにしようか。これから色々な事が(主に俺以外の原因で)起こりそうだし。


「じゃ、じゃあ……僕への干渉を一切しない事、僕の周囲の人達を調べない事でどうです?」

「それだけで良いのか……?」

「えぇ。例えば何か功績をあげてても父さんに全てあげますので。僕を注目させにくくして下さい」


 訝しみながらも国王は承諾してくれた。よしっ。これで面倒事から更なる面倒事への流れをある程度は経ち切れたか……? リュートさんの方からジト目が来ている気がするが……気のせいだろう。

 その後は特に何もなく終了し、俺たちは王城を後にした。


 宿へ帰る途中、ステラがさっきの俺のお礼の内容について不思議に思ったらしく、聞いて来た。ミレナの方も同じ疑問があるようだ。


「何でお兄ちゃんはあんなことをお願いしたの?」

「私も気になってた。どうして、ユートくん?」

「まぁ……簡単に言うと将来の為、かな。将来的に王族とか貴族から絡まれると面倒だし。ステラは兎も角、ミレナだって離れる気はないんだろうし? だったら余計にね」


 実はそれ以外にも王族とかと出来るだけ関わりたくないとか……あるんだけど。それを聞いた二人はボッと音が聞こえそうなくらいに顔を赤くし、次第にニヨニヨし始め、最終的に腕に抱き着いて来た。

 行き同様、両手に花状態だが怨恨の視線は来ない。何故なら、ミアさんがこちらを見ているから。俺の視線に気づくと親指を立て、さっと前を向いた。いつから見られていたのか……知りたくないし、知ろうとも思わない。






 今回王都で止まる予定の宿〈憩いの緑鳥〉に着く。王城に行く前は馬車を預ける事しかやっておらず、今から部屋を取る。部屋は二部屋でメンバーはリュートさんとミアさん。俺とステラ、ミレナとある意味いつも通りだ。男女別じゃないのかって? 三対二と多数決で負けたんだよ。

 受付の最中、俺は受付の人がリュートさん達に「……防音はしっかりしていますよ」と言っていたのを聞こえてしまった。それにリュートさんは顔を引き攣らせ、ミアさんはお礼を述べていた。俺は見なかった事にした。


 それぞれの部屋で別れ、俺たちは泊まる部屋に入る。そこはベットが三つと小さなテーブル一つに、椅子が三つ。あとは壁にクローゼットや灯りを置くところがあるぐらい。

 部屋自体の綺麗さやある程度の広さからとても過ごしやすそうだ。……一先ずリュートさんには黙祷もくとうを捧げておこう。頑張って下さい……。


 夕食まで時間があるから一眠りでもしようとベットに腰掛けると同時にステラとミレナも隣に座った。遠慮気味に服の袖を握っている。

 ……ふむ。二人のこんな態度は初めてだ。どう対処しよう?


 今の状況を具体的に述べると、耳や首まで真っ赤にしたステラとミレナが無言のまま俺の服の袖を掴んで、俯いた状態で隣に座っている。

 普段の二人からするとあり得ないくらいに消極的だ。原因はさっきの言葉だろうけど……取り敢えず、声でも掛けてみようか。


「……ステラ?」

「……」

「……ミレナ?」

「……」


 うーん、一切の反応がない。こんな時、世の男性はどうしているんだろうか? 甚だ疑問である。

 それから夕食の時間直前に二人は元に戻った。まだ少し顔が赤いが、二人を連れ立ってリュートさん達と合流する。リュートさん達の方も色々と会ったようだ。詳しくは言わないけど。


 夕食はそこそこに済ませ、受付の人からお湯の入った桶を貰い、部屋を男女別に分け、体を拭く事にした。お風呂が無いのは残念だ。ま、結構な魔力か相当の労働力がいるし、コストが高いから仕方ないんだけどさ。別にした理由はリュートさん曰く、ミアさんが暴走するのを阻止する為だそう。「何で?」と聞くのは禁忌タブーだ。


 リュートさんと二人で雑談でもしながら体を拭いて行く。


「……ところで夕食の前、凄く疲れた顔をしてたけど何があったの父さん?」

「……いや別に特に何も無かったぞ」


 その雑談の最中にそんな質問を加えると分かりやすいくらいにリュートさんが動揺し、何事も無かったように答える。顔赤いし、口元が何を思い出しているのかにニヤけているから何も無い訳が無いんだけど。敢えて追及はしないでおこう。


「そっちこそ、二人と何かあったのか?」

「別に何も。強いて言うなら二人が無言のまま、くっ付いていただけだったよ」


 普通に答えるとリュートさんは悔しそうな顔で「ぐぬぬ……」と漏らしていた。その間に俺もリュートさんも体を拭き終え、服を着る。あとはミアさんが戻って来るのを待つだけだ。


 十分くらい経ってミアさんが戻って来たので俺は部屋に戻る。


「……後はよろしくね」


 部屋を出る時、ミアさんにそう囁かれ、嫌な予感が胸中を埋め尽くした。……ミアさん。今度は何を仕掛けたんだい?






 部屋内は既に真っ暗で外からの星明りでちょっと見える程度。小さい火を起こして、ベットへ向かおうとすると前と後ろから軽い衝撃が。視線を下げるとステラが抱き着いていた。そうすると後ろはミレナか。……何がしたいんだ?


 その二人に促されずともベットに放られ、左右にくっ付いて来た。


 ………………


 ……無言。ねぇ、何が目的なのか聞いても良いかな? 


 二人はおでこを押し付けながら物凄い幸せそうな表情で蕩けている。いつもならこちらの視線に気づくはずなのに気づく気配がない。ジト目なのに。……それは関係ないか。


 ……ちょっと待て。無言じゃなかった。ステラもミレナも小声だけど何か喋ってる。独り言ではあるようだけど……


『祐人君……祐人君……祐人君』

「お兄ちゃん……お兄ちゃん……」


 はい、何でしょう? じゃなくて! え、何? 連呼してんの? ずっと? 普通に怖いんだけど。……二人ともヤンデレとか持ってないよね? ミレナに至っては日本語だし……。本当何があった?


 二人とも意識がどっかに飛んでいるみたいなので頭を軽く叩いてみる。それで気付いたらしく俺と目が合うと凄い速さで飛び退き、正座する。


「えっと……どうした?」

「いやぁ……将来の事まで考えてくれてると思うと嬉しくて……恥ずかしくなっちゃった」


 幾分マシなミレナが現状について簡単に説明する。要約すると昼間のあの一言が物凄く嬉しかったそうだ。昼間のねぇ……あぁ。確かにそんな事言ったわ。そう取られても仕方ないわ。それに撤回とか出来無さそうだし。

 で、その言葉を意識し始めて凄く恥ずかしくなったそう。……おい。ステラは兎も角、ミレナはそんな時期じゃないだろう。


「だって……前の時はそこまで行けるとは思わなかったんだもん。あの時は私に合わせてくれてると思ったし……改めてユートくんから言われると恥ずかしいよぅ……」


 頬を染めながら体をくねくねさせる。ステラも大体そんな感じ。……つまり、嬉しくて恥ずかしかった、と? ……ふぅ。ヤンデレとかは持ってなかったのか。良かった。

 ……ん? 発言に対してはどうだって? はっ。もうとっくに諦めているよ。口は災いの元だって言うだろ?

 昼間、ミアさんの行動の真意が今ようやく分かったよ。既に逃げられる道はなくなったという事だ。あるとすれば皆の前から消えるぐらい。だが、この手を俺がとる気がない以上、決まったも同然。よって逃げ道は無いという結論にたどり着く。


 二人の原因も分かった事だし、寝よう。昼間の事で色々疲れた。凄く眠い。明日も続きそうだし……。

 俺が横になるとそろそろとゆっくりとした動作で横になる。俺としては他のベットに移ると思ったんだがそんな事は無いらしい。人の腕を枕にしてすぅすぅと眠り始めた。こいつ等……はぁ。もうどかす気力もない。


「ふはぁ~」


 俺も欠伸をすると同時に意識が混濁していき、途絶えた。







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