第15話 うちの知り合いは皆……
伯爵の屋敷で騒動があってから三日後。俺たちは都市の中で王都に最も近い東側の門に馬車で来ていた。
王都へ向かうメンバーは俺とステラ、ミアさん達に、王女とフーラ君、ミレナの合計七人。ミレナが来た理由をミアさんに聞くと、「婚約者が一緒に行くのは当然じゃない?」との事。……あ、御者さんも含めると八人だ。
何かを言った所で無駄なのはよく分かっている。伯爵はこないのが疑問で聞いてみてもはぐらかされた事からも明白だ。あ、ミアさんがステラたちに幾らでも機会がある、って言ってる。……より一層の警戒が必要そうだ。
今回の馬車は五人乗り用なのだが、殆どが子供で基本的にくっ付く事が自然になっているので少し広く感じる。フーラ君なんか、リラックスして船を漕いでいるくらいだ。
くっ付いている側はミアさんとリュートさん、俺の膝の上にステラ、右にミレナ、左に王女様となっている。
「……乗った時から思ったんだけど、膝は無いんじゃないかと」
「私とステラちゃんがユートくんの隣に座ったら、クロエちゃんが可哀そうじゃない」
何を当たり前の事を、とミレナは言うが当たり前じゃないからね。それに俺と王女は助けた助けられたであって理由なんて……無い訳がないです。
えぇ、分かってますよ。屋敷で会った時、こっちへの視線が熱い事くらい。それはもう二人に負けないくらいには。あの時を物語にすれば姫の窮地を救った騎士か、王子ですか? ……俺はそのどちらでもないけどね。
そもそもね、ステラとミレナの二人でも限界な訳ですよ。最低でも三人またはそれ以上で協力して嵌めて来るんですし。そこに王女も加えるとなると……加える気なんて最初から無いんだけどさ。一歩も手が出そうにないよ。と言うか、王族なら他国に政略結婚で嫁に行くんじゃないの? 知らんけど。偏見だけども。
俺が心の中で自問自答してる間、ステラ、ミレナ、王女の三人は楽しそうに喋っている。ステラなんか最初は警戒してたはずなのに……と言うのは実は演技で俺が倒れた時から仲が良くなったそうだ。警戒したのは演出だと。
既にミアさんとリュートさんの許可は取ってあると言うが……何の許可とは聞いても無駄だ。予想もつくから聞く気もないけど。
そんな諦め十割ほどで三人の話を聞いていると話の主題が王女へと移り、こっちに視線が向いた。……今度は何をしようと言うのかな?
「……何?」
「お兄ちゃんはクロエと仲良くならないの?」
「……遠慮しとくよ。もうステラたちが仲が良いんだし」
「クロエは?」
「……仲良くしたいです」
王女は薄く顔を赤くしながら俯きがちに答える。そして、向けられる二つの抗議の視線。向けているのはステラとミレナ。……ステラは一体どうしたいんだい? 少し前まではある意味敵同士だったよね?
「お兄ちゃんはクロエと仲良くならないの?」
さっきと同じセリフなのに物凄く圧が強い。誰が犯人なのかは予想はつくが……順調に成長しているようです。
ステラの成長に戦慄を覚えながら如何にこの状態を抜け出すかを考えてみる。……今まで失敗しかなかったが。
「王女様とは王都でお別れだろうし、ステラたちだけで十分じゃないかなと」
「私とクロエちゃんは仲が良いよ。クロエちゃんが都市にいたのも遊ぶためだったし」
「王族は……難度が高いなぁ、と」
「もうフーラ君と仲が良いよね? じゃあ、クロエちゃんも良いはずだよ」
「ねぇ、何でそこまで近づけたがるの?」
「じゃあ、何でそこまで遠ざけたがるの?」
我ながら何と言うか……反論に力がない。隙ありまくりである。最後の質問に至ってはブーメラン。それに二人なら何を言っても普通に答えるだろう。
だが、毎回流されているのにここでも流される訳には……
「ユートくん、諦めたら? どうせ私たちが逃がすつもりは無いんだよ?」
「……」
言い切りやがった。はっきりと言い切りやがった。逃がすつもりは無い、と。まぁ実際、物理的にステラから逃げる事は不可能。精神的にもある程度は耐えれても最後にはミレナに敵わない。ステラから逃げきれてもミレナに即見つかるだろうし。逃げ切ってもそれで泣かれでもしたら戻って来てしまいそうだ……どうしよう?
リュートさんよりも状況が酷いよ。八方塞がりだよ。助けを求めても……加担してくれる人がいないよ!? むしろ嬉々として便乗してきそうだよ!?
「…………もう、煮るなり焼くなり好きにしろ……」
結局、流されました。ここ最近、思うようになったんだけどこの世界の女性って、かなり積極的だと思うんだ。比較対象はまだ少ないけど。具体的には四人くらいだけど。
「と、ユートくんから言質を頂いたので、クロエちゃんどうする?」
「……い、今は手を繋いでいただくだけで十分です」
顔を赤く染めながら、言っちゃった的な感じでもじもじする王女。ステラやミレナに比べると何とも可愛らしい。でも、今って……続きがある前提なのね。
「「ねぇ、お兄ちゃん(ユートくん)」」
あ、やべ。二人が凄い笑みでこっちを見てる。てか、なんで俺の考えてる事がピンポイントで伝わるんだよ?
「「国王様の前で私達にキスして貰うけどそれで良い?」」
「それは勘弁して下さい」
お詫びとして一日デートが確定した。それも三人。王女も加わった理由は折角なのでと可哀そうとの事。拒否権? そんな物、何処に存在してたの? とはミレナの弁だ。
昼間はそんな感じで、夜寝る時は流石に離れて頂いた。「未婚の淑女が……」と言う理由で三人を持ち上げて言うと少し頬を染めながら(ステラとミレナの二人は満足そうに)頷いた。
王都までは馬車で十日ほど。途中に衛星都市があり、そこで三日ほど滞在し(この時に名前呼びを強制された)、今はそこから馬車で一日ほどたったある日。テンプレと言うか、何と言うか……盗賊に襲われていた。
「おい、そこの馬車! 荷物を全て俺らに渡しやがれ!」
突然の事に驚いて何も出来なくなる御者さん。盗賊の対応にリュートさんとミアさんが出向いて行った。直後、一部から歓声が上がった。多分、ミアさんを見て上げたんだろうけど……無謀だなぁ。
取り敢えず俯瞰全視で人数を確認……三十人、見えない所からは二十人弱で合計すると五十人ちょっとか。リュートさんだけでも数分あればいけるかな。
状況が伝わるとクロエが少し震え、身を寄せて来る。ステラとミレナの二人は警戒モードに入った。クロエは少し前の魔物の大行進の時のトラウマだろう。二人の異常なまでの警戒は以前の様に俺が倒れない様にとの事だった。
俺は盗賊が来た時から俯瞰全視と風魔法で外の様子を見ていたのだが、何とも面白くて笑い転げそうになった。
――――――――――
『おい、そこの馬車! 荷物を全て俺らに渡しやがれ!』
『だ、ダメです!』
『んだとぉ。……死にたくないなら早くしろ!』
『ひ、ひぇぇ』
『どうしたんですか?』
『おい! お前の隣にいる女を寄越せ! 俺らで楽しんでやるよ』
『ははっ。ご冗談を。何故俺の妻をあんた等の様な下種に渡さないといけないんだい?』
『良いだろう。テメェの前で犯しまくって絶望を見せてやるよ! 行くぞ!』
『『『おぉー!!』』』
――――――――――
とまぁ、こんな感じだ。テンプレ過ぎて実際に目で見て見たかったよ。テンプレじゃなくてもリュートさんに敵うのはミアさんくらいかな? 今のところ俺が知る中で。
リュートさん達が片付けるまで気楽にしておこうと思ったらリュートさん達が戻って来た。
「ユート、聞きたい事がある」
「どしたの?」
「盗賊の数は全部でどれくらいだ?」
「うーん……隠れているのを含めると五十人程かな」
「意外と多いな……。他には?」
「……近くにはいないみたい。父さんなら楽勝じゃない?」
リュートさん曰く、対処した後が面倒だそうだ。……た、確かに。それと何で俺に聞いたのか聞くと魔物との実戦の時、あそこまで戦うには相当の観察力や状況把握能力が必要で俺ならそれを補える力があると思っていたから、と答えられた。……この時、三人程から熱い視線を貰ったのは言うまでもない。別に何もしてないんだけどなぁ。
ここにいて大丈夫なのか、と聞くとミアさんが食い止めてるらしい。前に一度使った水と風の結界で。
リュートさんが戻って行くと、ようやくステラとミレナが警戒を解いた。かなり警戒していたので少し疲れているようだ。言葉を掛けるとニコッ微笑み、労うと身を摺り寄せて来る。……こういう所は可愛んだけどなぁ。
二人の様子を見てクロエも何かを考えたらしく、目を閉じる。少し経って目を開けると袖をくいくいと引っ張って来た。
「……どうした?」
「あ、あの……何か近づいてきます」
不思議に思って観察してみると確かにクロエの言う通り結構な数の集団が近づいて来ていた。よく見ると今、リュートさんが対処している盗賊と同じ格好をしている。数は百近い。
……もしかして本隊とか? 今のを別動隊として考えても盗賊団として結構な数だなぁ。リュートさんに報告しよう。
いざという時の為に対策を作って、リュートさんに報告しようと立ち上が……れない。ステラが全体重を乗せて来て、ミレナも右腕を抑えている。二人の視線は俺とクロエに向いていた。
「ねぇ、ユートくん。クロエちゃん、凄い情報を伝えてくれたよね?」
「そうだな……」
「私たちの時みたいにしないの?」
確かに情報は素晴らしいのだが……そうするとなぁ……第一、リュートさんじゃない?クロエを労うのって。ステラとミレナは俺の事を心配して警戒してたんだろうし。自惚れじゃなければ。
色々考えていると段々、ミレナの表情が笑顔になって来る。……あ、これ不味いヤツだ。
「アルトネア家ってね、王族ととても仲が良いの。それは分かるよね? 主要都市を任されている事や、私とクロエちゃんが仲良しな事からも分かるでしょ?」
ニッコリ笑顔で俺も知っている事を確認する様にミレナは話す。俺もつられて苦笑いになったのが分かる。
「だから、相談しようと思うんだけど……」
「……な、何をですか?」
「クロエちゃんをユートくんがきずものにしたって」
つまり、こういう事ですね。クロエを三人目の婚約者にするか、それとも今お礼をするか。脅迫ですね。だが、この程度で……この世界では罪にならない。そして、ミレナなら実際にする。……と言うかね、既にする気満々だよね? 結果的に早くするか、遅くするかの違いだよね? 結局は一択のダブルバインドだよね?
……選択肢って言葉知ってる?
「知ってるよ。でもね、ユートくんはこういう事に関して選択肢は無いよ?」
「当たり前に心を読むなよ…………それでどうしたらいいんだ?」
後半をクロエに向けるとすまなそうに頭を突き出して来る。普通は罪悪感があるならしないと思うけどなぁ。まぁ、クロエもフーラ君も良い子なんだよ。原因はミレナにあるだけで。……何て言おうものなら何をされるか分からないので言わないでおく。
「……な、撫でて下さい」
「はいはい」
さっきした様にやってる様に撫でると「んっ……」と声を漏らしながらクロエは気持ち良さそうにしている。
ステラやミレナからの圧が消えてから手を離すとクロエは一度頭を下げて反対方向に向いた。耳が真っ赤なので今どんな感じかは丸分かりだ。
「さて、報告に行くか」
意識の切り替えのために一言呟いて、立つ。今度は特に何もせずに退いてくれた。
馬車から出てリュートさんの方に向かうと五十人はいたはずの盗賊が一網打尽にされていた。流石リュートさん。相変わらずの強さですね。
「父さん」
「どうした、ユート?」
俺はリュートさんに本隊であろう盗賊団が来ているというのを伝える。それを聞いたリュートさんは面倒臭そうな顔をしていた。まぁ、合計で百五十人を超えたら倒せる実力を持っていても面倒だよな。
リュートさんは視線を上に向けながら何かを考え、案が思い浮かぶとミアさんの方へ……ちょっと、リュートさん? 嫌な予感が物凄くするんですが気のせいでしょうか?
ジト目を向けると少し反応したものの、見向きもしないでミアさんに何かを話している。それを聞いたミアさんが物凄く良い笑顔になった。……こちらを向きながら。……やっぱり。
何を聞いたのか、ミアさんへ確認する前に馬車の中へ入ってしまった。……今、向こうへ行ったら確実に(主に面倒な意味で)何かが起きる。行かなくても起きるんだけど。
それから直ぐにミアさんとステラたちが降りて来た。ステラたちの表情は全員こちらへと向けられていて、期待の眼差しが強い。……何だろう、この短時間で厄介事が
「さて、ユートくん」
「ねぇ、母さん? なんで話が進んでる方向で話し始めてるの?」
「盗賊の数が多いので皆にも手伝ってもらうんだけど、三人のご褒美としてデートとデートとデート、どれにする?」
当然の様に俺の意見はスルー。そして、提示された選択肢は全て同じ。どうしろと? どう反応しろと?
今までで最大のジト目と非難の視線を向けるがミアさんは柳に風と受け流して、普通に返事を待っている。……何か、前よりも強情になってない?
「母さん。選択肢って言葉知ってる? 全部同じ選択肢は押し付けと同じだよ?」
「それがどうかしたの? それにしてもどれにする、ユートくん?」
どうやら俺の意見を聞き入れてくれるつもりは無いらしい。まるで間違った子供に諭す様に話しかけて来るミアさん。内容はそれよりも酷いし、質が悪い。何がって? 断ろうものならどうせ何かを盾にするんだろう?
「……はぁ。どうせ何言っても無駄なんでしょう? 王都ですればいいですか?」
「えぇ。じゃあ、頑張りましょう」
「「「おー!」」」
さくっと話し終えたミアさんはリュートさんの元へ戻った。そのリュートさんは……声を出さずに笑っていた。よし、王都に着いたら見てろよ。とっておきをプレゼントしてやろう。
……全員とのデート回数が二回に増えた。これはどうしよう?
一段落すると盗賊団がやって来た。どうやら数が多いだけで俺たちでも倒せそうだ。ミレナとクロエの実力は知らんけど。
「はい。これが私のね」
当然の様に俺の心を読んだミレナとクロエが(片方は黙って)能力値を見せて来た。
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『ミレナ・アルトネア 女 十歳 能力‐17
【体力】‐402/402
【力】‐469
【耐久】‐267
【敏捷】‐522
【魔力】‐748
【精神】‐690
【スキル】‐適性、空間機動、礼儀作法、感情爆散、格闘術、感知、視野拡大
【魔法】‐空間属性、精霊属性
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『クロロリーフェ・フォン・リベルターレ 女 九歳 能力‐12
22
【体力】‐203/203
【力】‐100
【耐久】‐77
【敏捷】‐209
【魔力】‐459
【精神】‐511
【スキル】‐適性、魔力高速回復、礼儀作法
【魔法】‐光属性、闇属性、自然属性
――――――――――――――――――――――――――――
……第二、第三の~ってこう使うんだなぁ、という事が分かりました。俺の周りって結構チートだよね。
なお、本隊だった盗賊団はステラたち三人の活躍も合わせてあっと言う間に終わりました。正直、俺が出る必要は無かったです。
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