第13話 ……今日は色々あるなぁ(前半)
時間は過ぎて翌日。伯爵家には昨日の段階でリュートさんが今日行く事を伝えてある。特に着飾る必要はなく、いつもの服装で良いそうだ。
俺は能力値だけで十倍は差があるステラに捕まっているので物理的に逃げる事は不可能。と言うか、すっぽかしたら何を言われるのか分からないので(ミアさん達的にも伯爵的にも)逃げるつもりは無いんだが。
「……別にこの期に及んで逃げ出そうとか考えてないよ」
そう言うとステラは頭を突き出して来る。……確認の為に撫でろ、という訳か。撫でるとステラは首を振って頬を差し出して来る。…………そっち?
頭も良いけど頬にしろ、と。今日もステラは平常運転なようです。言う通りにすると顔をうっとりとさせる。それを見たミアさんがうんうんと頷いている。……やっぱり、アンタか。
ちなみにこの間、ステラは掴んでいる手に自分の指を絡めて来ていた。こっちが本題なんだろう。つまり、ミアさんは二重の意味で頷いていたという事か。
「さぁ、行きましょう」
そう言ってミアさんもリュートさんと腕を組んで歩き始めた。
そんなこんなで伯爵の家に着いたわけなんだが……まず、色々とデカい。屋敷だろうし、大きい事は予想していたが思った以上にデカかった。それに敷地も予想以上に広かった。貴族って凄いんだなぁ~(棒)。
…………ん? 道の途中? 察してくれ。……自他ともにイチャついてた自覚があるよ。周りからの視線がね、温かかったんだ…………それに何となく祝福されてたんだよ、ステラが。二年前の事は意外と広まっていたらしい。
門に近づくと門兵らしき人達がやって来て、ミアさん達を見ると即座に門を開けた。……既に顔パスなのね。二人なら納得だぁー。
外からは見えなかったが敷地内は緑豊かでとても癒された。良かったぁ。無駄に金ピカだったらどうしようかと。あらゆる手を使って逃げる算段もあったんだよ……。
屋敷内に入るとまず大きな広間があった。荘厳な造りでデザインも非常に凝っている。地球の中世のヨーロッパと似てるなぁ。
前方と左右に扉があって、ちょっと螺旋な感じの大きな階段が二つあった。そこから二階に行けるそうだ。
ちなみに前方の部屋は大広間。主にパーティを開催する時に使用する。右側には廊下があり、その奥に食堂がある。左側は恐らく使用人たちの部屋に繋がっている。二階以降には伯爵の家族の個人部屋、書斎、控え室、会談室、執務室など様々な部屋がある。……と、ミアさんが教えてくれた。
屋敷の前で待っていたと思われる執事らしき人物に(ミアさん曰く)会談室に案内された。てっきり控え室とかに案内されると思っていたのに。
部屋自体そんなに物は置いてなく、二つのソファとテーブル、それと少々の置物くらいだった。ソファが五人くらい座れそうな大きさだったけど。
「……大きいなぁ」
「私たちも最初はそんな感じだったわ~。要は慣れよ」
自分の部屋みたいにサクッと座ったミアさんは俺にそう言った。ステラはあまり興味が無いらしく、甘えて来る。……伯爵と言うか貴族は凄いけど……ミアさん達も十分スゲェよ。
端に座ろうとしたらステラとミアさんから今回の主役だから、と真ん中に移動させられた。ねぇ、ミアさんに変わるから端にさせて?
「ダーメ。私はあくまでも口添え。主役はユートくんなんだからドーンとしてなさい」
「……でもほら、僕って慣れてないから」
「じゃあ、今回で経験しましょ? 大丈夫。伯爵は普通に良い人だから」
そんな事言われましても……。
ミアさんは何を言っても自分でやれ、ステラは基本大人しくしていて、リュートさんは最初から我関せずと言った感じで緊張していた。味方はいないらしい。……毎度、こんな感じになってる気がするんだが……俺の味方は何時現れるのだろう?
そんな話をしている内に伯爵がやって来たらしい。扉が開かれ、そこには先日、黒ゴブリンから助けたであろう姉弟と、四十代くらいの男性がいた。この人が伯爵なんだろう。
三人が反対側のソファーに座ると早速、伯爵が話しかけて来た。
「まずは二人を助けてくれてありがとう。私はディルキス・アルトネア・リベルターレと言う。リュートたちから聞いていると思うが、この都市を治めているよ。二人の様に親しい者たちはディルと呼ぶので気軽にそう呼んで欲しい」
いやぁ~それは無理かな、と。俺はミアさん達みたいに度胸がある訳じゃないし…………伯爵で良いや。ミアさんとリュートさんは構わないんだが、ディルおじさんって……勇気あるね、ステラ。伯爵は気を良くしてるけど。それで良いのか貴族。
「僕はユート……フォーハイムです。別に大した事はしてないですよ」
名前だけにしようとしたら左右から物凄い寒気がしたので一応そう言っておく。寒気は消えた様なので何よりだ。ステラも自己紹介を済ませると伯爵はとんでもない爆弾を落としやがった。
「いや、ユートくんは十分に大したものだよ。王子と王女を助けたのだから」
……………………へ?
「紹介しよう。リベルターレ王国第五王女クロロリーフェ・フォン・リベルターレ様と、第七王子フーラ・フォン・リベルターレ様だ」
「……あ、あの、先日は助けて頂きありがとうございます」
「兄ちゃん、助けてくれてありがとな!」
「……どういたしまして」
はぁ? …………いやいや嘘だよね? こんなテンプレ展開知らないよっ!? 助けた人が偶然王家の人とかそんな……厄介事が増えたよ! 無理無理無理無理っ! これは流石に容量オーバーだって! ミアさんヘルプ!
ミアさんに変わって貰おうと体を向けたその時、右からの圧力が強くなった。見ると、ステラが王女の方を向いて警戒心剥き出しの状態で睨んでいた。王女の方もこちらに熱い視線が来ているような気もするが……知らない。ミアさんも笑顔がちょっと怖い。
……取り敢えずこのままじゃ話が進まないのでミアさんの肩を叩く。
「……ねぇ、母さん。この後お願い。流石にこれは無理」
「分かったわ。しっかりしめて上げる」
「いやいや話を任せたいんだけど!? 王女しめたら大変だよっ!」
結果……拒否された。この状況でそれはないんじゃないかな、と。
片や頬を染めて恥ずかしそうに、片や警戒心剥き出しで。テーブルを挟んで青い火花がバチバチ言っている。こんな
「さて、報酬なんだが……私としては金貨五十枚だそう。残りは王都で貰ってくれ」
ねぇ、伯爵。この状況でそれを言えるのは流石貴族なんだろうけど……俺はそれに答える余裕は微塵もないからね? と言うか王都!? 厄介事が次から次へと……やっぱり厄日だった……。
「えっと、それを断るのは……」
「「「「「無理」」」」」
一先ず王都への要請を断ろうとしたら王子のフーラ君を除いて全員から否定された。そもそも俺に拒否権なんてないそうだ。……行くだけ行って、その場で断ろう。報酬は要りません、って。
ちなみに拒否権が無いと言ったのは王女だった。
王都行きは確定。ならば後は日程を決めるだけだと言って、ミアさんとリュートさん、それに伯爵の三人で予定を詰める事になった。その間、俺たちは特に何もする必要が無いので伯爵の子供たちと遊んで欲しいと伯爵自身にお願いされた。
ステラと王女のキャットファイトと言うか、女の戦いと言うか……バトルは始まっているのに余計に激化させようとしている伯爵。よく見ると口角が少し上がっている。……この野郎、楽しんでやがる。まったく何て奴だ。
その子供なんだが、伯爵には男子が三人、女子が二人の計五人いるそうだ。そして、今日は丁度、全員屋敷にいるので相手をして欲しいと。……絶対、仕組んだ。あの伯爵ならしかねないじゃなく、絶対する。さっきので確信した。ミアさんとは絶対に組ませないようにしないと。
「……ユート様。私の事はクロエ、と」
「いえいえ。それは恐れ多いと言うか……」
「そうだよっ! お兄ちゃんに気安く触れないで!」
俺と王女の間に立って
ちなみに王女は九歳、フーラ君は八歳と年下だ。
「……フーラ君はお姉さんを止めないのかい?」
「ボクは姉ちゃんが大好きだし尊敬してるから、姉ちゃんには幸せになって欲しいんだ。その為の努力ならボクは惜しまないよ!」
姉思いの良い弟なんだよなぁ……この状況でさえなければ。本当、凄い良い子なんだけど……。
案内してくれる執事さんはこの状況を見て見ぬフリと言った感じで……俺って、本当に味方がいないのかなぁ。フーラ君と話しながら少し進むとある部屋の前で執事さんは立ち止まった。どうやらここがその部屋らしい。
扉を開けて中に入ると、そこには五人の少年少女が楽しく談笑していた(一人青年と言えるけど)。その中に二人……いや、三人見覚えがある。
男性陣では青年の人がにこやかに手を振り、残りの二人もそれぞれの反応を示している。女性陣では片方の少女がフーラ君を見て舌なめずりをし、もう一人は俺を見て……口元に手を当て、目一杯に目を見開いていた。
「あ、あ、あ……」
その少女は唐突に立ち上がると一瞬で消え、目の前に現れるといきなり抱き着いて来た。
『祐人君、祐人君、祐人君!!』
流石の光景にステラも王女様もフーラ君もポカンとしている。俺? 部屋に入る前から高速多考を使ってたから、直ぐに処理できたよ。二人の内容が偶に大変な事になったりしたからね。ちなみにフーラ君はもう一人の少女に連れられて行った。驚きよりも慣れが見えていた事に何と言うか……同じ空気を感じた。リュートさんの気持ちが分かったかもしれない。
残りの伯爵の子供たちは少女の行動を特に気にしていない。それよりも祝福している感じがある。
だが、一番気になるのは……日本語だと? この世界にはそんな言語あるはずが無いのに……まさか……
『……まさか未来、なのか?』
『うん……うん! また会えた! やっと会えた! ……もう絶対離れないから!』
日本語で返すと……未来は二度大きく頷いて、溢れる涙を拭いもせずにもう一度抱き着いて来た。
……気付くと俺も未来を抱き締めていた。片腕だけだけど。もう片方はステラの腕の中だ。それでも俺の方も無意識的に…………嬉しいらしい。
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