第12話 ……何か、ね。……うん。
さてさて、ミアさんが公(?)に味方になったお陰か、ステラも凄い強気だ。さっきまで落ち込んでいたと言うのに。
それに何かキラキラした目で信じてるよ! と、訴えかけられると何と言うか……反論しずらい。この状況で美少女と言うのは卑怯だと思うんだ。
「ユートくんが隠してる事教えなさい!」
「……分かった分かった。でも、その前に父さんは何歳? 聞いた事が無かったよね」
「二十六歳よ」
「なるほど。母さんもそれと同じぐらいの年齢の理解で良い?」
「ええ」
ミアさんもステラも凄い真剣な表情になる。俺を同士と言った感じで見ていたリュートさんも真剣な表情になっていた。……いや、別にそんなに真剣になるような事じゃないんだけど。これから言うのは普通だと頭が大丈夫か疑うレベルだからね?
「……まず言っておくけど、僕はこの世界の人じゃない」
「「「え?」」」
リュートさんはいやいや嘘だろと軽い現実逃避を。ミアさんは固まっていて、ステラは思考がループしているようだ。思考停止って言うかもしれない。まぁ、三人が共通しているのは全員、現実逃避をしているという事だね。予想通りだったよ。
その後、畳みかける様に前の世界を含めると精神的に二人よりも年上だという事、恋人とも言える人がいて今も忘れられないという事、本物の両親を亡くし、その人とも別れる形になり家族とか大切な人を作るのが怖い事を伝えた。後半は聞いていたかどうか怪しいけど。
「以上が理由になる訳だけど、どうかな?」
まぁ、実際には他にもあるんだけど、今は必要ないし。
ミアさんとステラはさっきまでの威勢の良さはどこ行ったのかと思うぐらいに意気消沈している。リュートさんは背景に溶け込もうとしている。心なしか結界も弱まっている気がする。今なら脱出できそう……。
「……納得が行ったわ。リュートさんが拾って来た時から大人びている感じがしたのはその所為なのね。それにずっと敬語だったのもそう。それだけ沢山抱えていたら……直ぐにはい、なんて言えるわけないわ」
ステラもリュートさんもコクコクコクと何度も頷いている。話を最後まで聞いていたのは良いんだけどさ、三人とも……理解度速くない? 普通は疑問を抱くと思うんだけど。俺なんか最初そうだったし。
まぁ、三人が信じてくれてるのはとても嬉しいんだけどさ。最悪、一人になる覚悟もあったんだよね。
「……分かった。私とリュートさんは全てを含めてユートくんを受け入れる。あとはステラちゃん次第ね」
そう言って、ミアさんは何かの合図をすると水と風の結界が消え、二人とも部屋を出て行った。外にいると言う感じじゃなく、本当にステラ次第のようだ。
肝心のステラは何かを決心した様に表情を引き締める。両手で俺の右手を掴み、自分の頭の上に置いた。そして、押し付けて来る。撫でろ、という事らしい。要望通り撫でてやると引き締めた表情が緩んだ。おいおい。さっきの覚悟は何だ? ……調子狂うなぁ。
一通り堪能したらしく、今度は抱き着いて来た。
「ぎゅ、ってして」
再び要望通りに抱き締める。ステラは幸せそうな顔をしながら頬を擦りつけて来る。一体ステラは何を伝えたいんだろうか。俺としてはただ甘えて来るようにしか思えないんだが。
そう思っているとステラが顔を上げた。
「……お兄ちゃんに頭、撫でて貰うの……すき。……凄く安心するから。……抱き締めて貰うのも……すき。……包まれてる感じが全部受け入れてくれるみたいで……凄く幸せだから。だから……お兄ちゃんを受け入れる。まだまだ未熟だけど、受け入れたいの」
瞬間的に悟った。これは横槍を入れてはいけない事を。それに重なって見えたんだ。あの時の未来と。
「三十歳前のおっさんだよ?」
「いい」
「十年も引き摺ってるんだよ?」
「私もずっと想ってるの」
「ステラは妹としてしか見れてないよ?」
「これからは分からないよ」
「俺は――」
「だからっ! お兄ちゃんの全部が好きなの! 大好きなの!! だから、だから……」
……ここまで勇気を出してる、かぁ。ステラは最後の方が言葉に出来ないみたいで口をパクパクさせるだけで、何も言えてない。
……何だろう。あの時の様に何も拒否する言葉が見つからない。疑問を投げかける事は出来るのに。突き放すような言葉は出るのに。決定的な言葉が浮かばない。疑問も突き放す言葉も良く考えるとただ確認してるだけだ。本当なのかどうかを。
どうやら俺は世界が変わってもとことんヘタレなようだ。なんせ、同じ事を繰り返しているんだから。
「…………全く、どうして未来もステラも……」
「それって……」
どうやら最後の方は聞こえなかったらしい。ステラは目をパチパチするのを繰り返している。……聞かれなくて良かった。
「ステラの想像通りだと思うぞ。それに……はぁ。約束だしな……」
そう言ってステラの手を掴んでベットから降りる。……何ならちょっとは気障っぽく行こうじゃないか。
外はまだまだ暗い。光は月明かりと星明り。光が入ってくる窓を背景にしてステラを移動させる。俺とステラの横から光が入って来る感じだ。
ステラの片手を取って跪く。騎士が主君に忠誠を誓うポーズみたいな。実際にやると凄く恥ずかしいので手早く済ませよう。
「……俺と結婚してくれますか?」
「っ!? ……うん、うんっ!」
十歳の子供が何をやってるんだというツッコミは悪しからず却下しよう。今はその冷静さは要らない。……というか、言われると精神的に来るので言わないで欲しい。
即座に了承したステラは俺を引っ張り上げて飛び込んで来た。涙を流しながらぐりぐりぐり。ステラの顔と互いの服が大変な事になるのだがお構いなしらしい。
「ただし、成人してからな。当然だけど」
「いつでも良いよ。今は…………ただうれしいの」
♈♉♊♋♌♍♎♐♏♑♒♓
翌日。テンションが異様に高いステラを見たミアさんは俺に向かってサムズアップして来た。リュートさんは肩に手を置いて、無言のまま。何も言わずとも結果は分かる、と二人とも言っている。特にリュートさんは同士へ向ける目をしていた。
まぁ、無理もない。昨夜の流れからステラのテンションが高ければ成功、低ければ失敗、という事は誰が見ても明らかだし。
「それで……いつ結婚してくれるのかしら?」
朝の開口一番、ミアさんは俺に向かってそう言い放って来た。ニヤニヤしながら興味深そうにこちらを見ている。さっきまではステラを見て優しそうな……正に母、と言った感じだったんだが……今はいつものミアさんだ。もうちょっと……母して欲しかった。
「……少なくても成人して、安定した収入が得られるようになってから。それと僕の気持ちの整理がつくまで」
「ふふふ……そうね」
そこで一旦この件は終了のようで、ミアさんからあの魔物の大行進の事後処理について話を聞いた。
今回この都市に攻めて来た魔物は全部で千百四十四体。西側と南側で合わせて九百近かったそうだ。普通は例外があったとしても全部で二百もいかない。それに普通は一方向なのに全方位同時に来た事や、占魔の行動などから人為的な物を感じるらしい。
最後のは気になるがスルーされた。続いて魔物討伐数はミアさんとリュートさんの二人で全体の
幸い、都市自体に被害はなく、魔物の数が多かった西と南門と周辺の外壁が多少、壊れただけらしい。功績として参加した人一人当たり、金貨十枚の配当があり、倒した魔物の数もプラスされる。今回で二人は金貨百枚以上の資金を得たとミアさんは言った。普通に暮らしても年単位で生活できる額だ。
そんな大金を丸々俺とステラの結婚資金にするそうだ。何と贅沢な……
「……今回の騒動ね、私たちは意図的に起こされたものじゃないか、って思ってるの。隣国にスカイヘア王帝国っていう国があるんだけど、そこが仕掛けて来た可能性があるのよ」
あ、スルーしてた奴だ。ミアさんが言うにはスカイヘア王帝国は俺たちのいるリベルターレ王国以外の隣国を吸収、合併させていて、この国もそうしようと企んでいるらしい。しかも、権力者たちが幅を利かせ……簡単に言うと俺の知るテンプレの国だった。
しかも、今回の狙いが俺かステラ、または両方の可能性があるそうだ。……まさか、考えていた事が意外と当たってた?
まぁ、兎も角そういう事であくまで二人の推測ではあるんだが一応気に掛けて欲しいとの事だった。俺としては特にステラは気を付けて欲しい。美少女だし、凄い才能があるし。美少女だし。
「それと最後にもう一つ」
まだ何かあるんだろうか?
「ユートくんが助けたあの少年少女二人よ。実はあの二人、貴族のの子供らしくて、アルトネア伯爵がお礼をしたいから暇な時に来て欲しいそうよ」
「えぇ……」
…………マジで? だって、伯爵だよ? 四つある主要都市の一つを任されるくらい偉くて、俺みたいな平民からしてみれば雲の上の存在だよ?
良い意味でも悪い意味でもロクな事にならないような気がするんだけど……と言うか面倒事の匂いがプンプンするんだけど。はっきり言おう、行きたくない。
俺が悶々としている間もリュートさんとミアさんは喜んでいる。以前に何度か会った事があるそうだ。そして、話も合うらしい。より一層行きたくありません。拒否しても良いですか?
中でも不思議なのは……ステラ、何で君まで手放しで喜んでいるんだい?
「……だって、お兄ちゃんの凄さが分かってくれたんだよ? お兄ちゃんってそういう事を知らせようとしないし……」
頬を膨らませるステラ。まぁ、注目されるのが嫌いだからね。小市民な俺としては平々凡々に生きるために努力してるつもりなんですが。未来と関わる時からその傾向は特に強くなったし。
……結局、リュートさん達と一緒にいる以上、ある程度注目されるのは仕方ないんだけど。それじゃあ……ダメですか?
「だめ」
「ダメねぇ」
表情に現れていたらしい。ステラとミアさんから同時にダメ出しを食らった。ステラ曰く、俺の凄さを皆に知って欲しくて、ミアさん曰く、家の息子である以上注目されるのは最低条件だそうだ。
……俺、そんな度胸無いです……。
「だから、明日は私たちが一緒に行ってあげる。同行者じゃなくて、ね?」
あぁ、口出しするんですね。分かります。さっきの下りからどれだけ俺を持ち上げようとしているのか、想像したくも無いです。
つまり、明日は厄日って訳だ。はぁ……やだなぁ。
「そう言えばユートくんとステラちゃんにの二人には見せた事無かったわよね。私たちの能力値」
「……確かに。良い機会だし、見せようか。ステラには良い目標になるんじゃないか?」
今日は一日中ダラダラ過ごすそうで昼食が終わって
確かに見た事は無いんだけどさ。特に気にもならなかったんだよなぁ。言ったら何されるか分からないから言わんけど。
ステラも特に気にしてないようだったが、皆見せ合おうとミアさんが提案すると即座に寝返った。……おいおい。
最終的に多数決で二人+ステラのを見る事になった。そう言えばあいつ等との戦闘の後は誰にも見せてないんだっけ。見て貰う必要も無いんだけど。
「まずは私ね」
そう言ってミアさんが俺たちに見せて来る。
――――――――――――――――――――――――――――
『ミア・フォーハイム 女 二十五歳 能力‐148
「恋人」
【体力】‐7391/7391
【力】‐3898
【耐久】‐6348
【敏捷】‐7008
【魔力】‐26415
【精神】‐30628
【スキル】‐魔力操作、万能、感情爆散、高速思考、杖術、合成魔法(同)、
【魔法】‐火属性、水属性、風属性、青火せいか属性、氷属性、雷属性』
――――――――――――――――――――――――――――
能力って百を超えるんだなぁ。てっきり、百が最高だと思ってた。レベルみたいなものだと思ってたから。「恋人」って事はやっぱりタロットが加わってるのか?
スキルもたくさんあるなぁ。多分、高速思考と策略で嵌められたんだなぁ。
「……母さん。魔力と精神の数値があり得ないくらい高いんだけど」
「そうねぇ。お陰で魔法職としては仕事に困らなかったわ。それにリュートさんを支える事も出来るし」
「じゃあ、スキルの合成魔法(同)ってのは? ステラのとどう違うの?」
「多分ステラちゃんは違う属性でも出来るんじゃないかしら? 私は同じ属性しか出来ないけどね」
結論。ミアさんは十分に凄い。いや、本当に凄いと思うよ。リュートさんへの想いがこれを作ってるとも言えるんだから。
リュートさんに伺ってみるとちょっと恥ずかしそうに頬を掻いていた。……ご馳走様でした。ステラも尊敬の視線を向けていた。……策略スキルに。見なかった事にしよう。
「次は俺だな」
――――――――――――――――――――――――――――
『リュート・フォーハイム 男 二十六歳 能力‐174
「恋人」
【体力】‐9470/9470
【力】‐6480
【耐久】‐11490
【敏捷】‐8919
【魔力】‐16845
【精神】‐22763
【スキル】‐
【魔法】‐風属性』
――――――――――――――――――――――――――――
類は友を呼ぶってか? ミアさん同様、化け物じみたステータスである。全能力値平均一万越えってどうやったらそうなるのか聞きたい。聞いても実践しようとは思わないけど。
それに戦闘スキルのオンパレード。これなら三ケタなんて余裕余裕。
「父さん。この……剣ってスキルは何?」
見当はついてるけど一応聞いてみた。そしたら案の定、最初は剣術だったけど、マスターしたから剣になったそうだ。……武器系のスキルはマスターできる気がしない。
「次は私」
今度はステラなわけだが、こっちに向かって褒めて褒めてオーラを振り撒いている。
――――――――――――――――――――――――――――
『ステラ・フォーハイム 女 十歳 能力-51
「魔術師」 7 「処女」
【体力】-3842/3842
【力】-3052
【耐久】-4076
【敏捷】-4018
【魔力】-6740
【精神】-1748
【スキル】-合成魔法、剣術、魔力操作、
【魔法】-火属性、水属性、風属性、土属性』
――――――――――――――――――――――――――――
「……えらいえらい」
「♪~」
撫でられてご機嫌のステラ。リュートさんとミアさんはステラのを見てうんうんと納得している。娘の成長が嬉しいようだ。
……でもね、十歳でこのステータスは異常だと思うんだ。だって、一部のスキルがミアさんに届きそうなんだよ。いくら近接戦闘と遠距離戦闘のエキスパートである二人の娘だとしてもね、限度があると思うんですよ。
このステータスの二分の一くらいなら納得……そう言えば、才能の部分に「処女」って新しいのがあった。これが原因なら納得が行くなぁ。と言うか、そうしよう。精神的な平穏の為に。あと、ステラのステータスがどうなろうが、もう気にしない。……「処女」を持ってる事はスルーの方向で。
このまま流れてくれないかなぁ、と思っていたんだがステラが甘えモードになる直前に気が付き、リュートさん達も元に戻った。
特にステラは目がキラキラしている。正直、三人の後だと見劣り感が半端ないんですけど。どうすればいいの?
「……最後は僕なんだけど……正直、ステラの方が凄いよ」
――――――――――――――――――――――――――――
『ユート(四ヶ谷祐人) 男 十歳 能力‐26
9 愚者
【体力】‐365/365
【力】‐194
【耐久】‐214(+30)
【敏捷】‐287
【魔力】‐934
【精神】‐705(+50)
【スキル】‐超精密操作、俯瞰全視、高速多考、感知、槍術、交渉、家事、自己補修
【魔法】‐水属性、光属性、風魔法』
――――――――――――――――――――――――――――
「……流石ユートくんねぇ」
ミアさんがため息交じりにそう言うがどこが凄いのだろうか? ステラの方は眩しいほどの視線を送って来る。が、何時もの事なので軽く無視。という事で、リュートさんに聞いてみることにしよう。
「ねぇ、父さん」
「どうした?」
「僕のってどこが凄いの?」
「スキルだな。数だけなら俺たちと同じくらいある。それに三つくらいマスターしてるだろ?」
「……うん」
「スキルをマスターするには結構な時間が掛かるんだ。だから、数年でマスターするなんて普通は凄い事なんだぞ」
他にも色々と言って貰ったんだが、要約すると実戦がとても強いという事らしい。ステラはまだ数値に頼っている部分が多いのでそれに比べると、だそうだ。
半分以上は十倍くらい差があるのに引き分けもあった訳はそういう事ね。それでもゴリ押しで勝つステラもステラだけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます