第9話 マジかよ……

 ユートが魔物の存在に気付き、リュートとミアに伝える為、作戦を練っている時、二人は門の前で大量の魔物を相手にしていた。


「グラァァァァ!!」

「おらっ! リーグ、フルエトそっちはどうだ!?」

「数が多すぎる!」

「六人が脱落したぞ!!」


 リュートは昔からの冒険者仲間で今でもパーティを組んで依頼をこなしたりしているリーグとフルエトから自分以外の状況を知る。魔物は数だけでも百体以上屠ほふったはずだが、森からはその倍以上の数が押し寄せてきている。

 リュートは二つの意味でその事に舌打ちしつつ、自身の愛剣であるスパーダグリオでアザダダを切り捨てた。アザダダは森に生息する魔狼の一種でとても素早く、熟練者以上でないと倒すのは難しい。切り捨てる事からそこからリュートの実力が垣間見える。

 他にも周辺にはゴブリン、コボルド、オーク、オーガ、クルエ、ドグゥなど弱い魔物を含めた様々な魔物の死体が転がっていた。


 それでも尚、まだ何百体といる魔物に対してリュートたちの戦力は門で見張りをしていた冒険者が三人、偶然近場の依頼を行っていた者が八人、リュートたちの様に駆けつけて来た者が十四人の合計二十五人だ。いや、さっきの脱落者を引いて戦闘可能な者は二十人を切っている。正直、心許ない。

 さて、アルトネアを含む主要都市には東西南北に門が四つある。これはいざという時には敵が来る方向とは反対の門から逃げると言う意味なのだが、この状況では戦力が分散してしまう為、恨めしい。

 リュートも精一杯なのだが他の冒険者達もまた同じだ。伯爵家の兵士達が向かっているとの報告はあったが、それで状況が好転するとは考えにくい。


 それを確認したリュートは一度唇を噛み締め、ミアに声を掛ける。


「ミア! 頼む!」

「了解! …………『蒼塵』!!」


 ミアが魔法名を叫ぶと前方に青白い炎が現れ、多くの魔物が塵と化した。それでも焼け石に水らしく、奥から魔物は湧いて来る。

 先ほどミアが使った魔法は「蒼塵そうじん」。火魔法の上位版に当たる青火魔法に属する魔法だ。上位版の魔法は威力はケタ違いだが、その分消費も激しい。現に一発撃っただけで豊富な魔力量を誇るミアが軽い息切れを起こすぐらいだ。

 魔力回復薬を飲んだミアは「炎槍」や「炎球」と言った魔力の消費の少ない火魔法で攻撃を支援し、水魔法でリュートたちの傷を少しずつ回復させていく。






「すまない、遅れた!」

「謝るなら後にしろ。それよりも他はどうなった?」


 少し経ってようやくやって来た兵士たちにリュートは他の門の状況はどうなっているか聞いた。勿論、魔物を切り捨てながらだ。


「一番酷いのは西側のこの門と南側の門だ。北と東は後ちょっとで駆逐できると聞いている」

「それは良かった……で、増援はあるのか? こちらもかなりキツイ状態だ」

「あぁ。駆逐が終えたらこっちには北から増援が来る」


 増援に来た兵士が十人ほどで心配だったリュートだが、それを聞いてそっと安堵の息をつく。それは兵士たちも同じだったようだ。流石に少な過ぎる。


「くそっ。今度はハイクラスかよ!」


 今度はリーグがやけくそ気味に言葉を放つ。森から先ほどまでの魔物とは皮膚の色や体の大きさが異なった魔物が現れる。こいつ等は高難易度ハイクラスの魔物と言われ、通常の魔物よりも強く硬い。増援に来た兵士でも複数人で一体が限度だろう。それが少なくとも百体はいる。

 リュートが使える風魔法の「音響探知」でそれが分かると舌打ちをする。だが、リュートが舌打ちをした理由は他にあった。


「ミア! デモンズも来る! 『灰刃かいじん』の準備を頼む!」

「デモンズまで来るのね……分かったわ! リュートさんも気を付けて!」


 リュートが言った「灰刃」とはミアが使える魔法の中でもトップクラスの威力を誇る魔法の一つだ。「灰刃」は青火魔法の「蒼刃」と「灰燼」を組み合わせた魔法で超高温の蒼の刃に灰を纏わりつかせた物だ。これは触れた敵を溶かし、塵にする。範囲はそこまで広くは無いが、デモンズ以上を倒すことが出来る数少ない魔法だ。

 その分魔力の消費は蒼塵よりも激しいし、翌日以降に危険な場合もあるが。その魔法をリュートは指示を出す事、ミアは実行する事に躊躇いは無い。特にミアは折角の誕生日兼告白パーティを潰されてかなり怒っている。

 ちなみにミアには感情爆散と言うスキルがある。このスキルは元々、リュートを想って使えるようになったスキルではある。効果は思いが強くなるほどに能力値が上昇するのだが、感情が高ぶるほど魔力が上がり、魔法の威力が上がるという副次効果も持っている。


 そもそもデモンズとはユートやステラが持っている数字や「魔術師」といった才能を持っている魔物の事で、ハイクラス以上のスペックの高さに加え、どんな能力か分からないパンドラの箱まで付いて来る。リュートでも流石に一撃で、とはいかない。


「来たぞ!」

「―――――『灰刃』!!」


 リュートの合図でミアが魔法を放つ。ミアの前に現れた蒼く仄暗い刃達がハイクラス、デモンズの魔物に向かって行く。ハイクラスは一撃で、デモンズも二、三撃で塵へと変える。

 その結果、ミアの「灰刃」で倒せた魔物はハイクラスが五十弱、デモンズが十強とかなりの戦果だった。


 「灰刃」を使った為、その場に崩れ落ちる様に倒れるミアをリュートは風魔法でゆっくりと寝かせ、自分は残っている魔物を仲間と一緒に狩っていく。

 リュートはデモンズへ向かって行く途中のハイクラスの魔物も通常の魔物と同じ様に一撃で屠っていく。何故ならこの中でデモンズとまともにやりあえるのはリュートか、リーグとフルエトが力を合わせて、ぐらいだからだ。

 しかし、ハイクラスの魔物も残っており、冒険者の数も少ない。よって、リュートは二人にハイクラスを頼むことにした。


「リーグ、フルエトそっちは頼んだ!」

「「おうっ!!」」

「こっちも黙って見てられねぇ。行くぞっ!」

「「「オォォォーッ!!」」」


 三人の動きを見て満身創痍の冒険者たちもやる気を見せる。そうは言っても満身創痍、二人掛かりでやっとだ。兵士たちも二、三人で魔物と戦っている。




 増援に来た冒険者も含めた全員の活躍により残っているのはハイクラスの魔物が十二体、デモンズが三体。終わりがすぐそこにある事にリュートだけじゃなく、全員がやる気を更に見せる。


 その瞬間、リュートとミアに突然声が聞こえて来る。声の主はユートだ。



“父さん、母さん! 家の近くに魔物が現れた! 数は少ないけど凄く強そう。キツイと思うけど、なるべく早く帰って来て!”



 今のは風魔法の「導き《リード》」の応用だ。この魔法は本来、敵が近づいて来たかどうかを調べる魔法なのだが、習熟すると一方通行ではあるが声を届かせられる。


 その声を聞いた瞬間、リュートの剣速が上がり、倒れていたはずのミアが起き上がった。


「ふっ!」


 今までの戦闘で疲労していたとは思えない程の速さでデモンズ三体を倒した。その光景は正に瞬殺。既にハイクラスの魔物を倒し、加勢しようとしていたリーグとフルエトは呆れ、納得した感じで二人を見ていた。

 意味がよく分かっていない他の冒険者や兵士たちはポカン、としている。


「「ははっ。……親バカどもめ」」


 つまりはそう言う事らしい。二人はリュートにサムズアップする。


「二人とも後は任せた!」

「「任された!」」






 今回の魔物の大行進を退けた事に雄叫びを上げながら喜びを表す冒険者を尻目に消耗しているリュートとミアは少し休むことにした。

 リーグとフルエトに威勢良く言ったは良いが休むことになったリュートは少し頬が赤い。しかし、その姿もミアと話し始めると直ぐに無くなった。


「ユートの言う魔物って……間違いなくボスだよな? しかも高確率で占魔だろうし」

「そうねぇ。今回の規模だと最低でもそれくらいじゃないとありえないわ」


 二人とも今回の魔物の規模から占魔クラスが最低でも一体はいると睨んでいた。そもそも魔物の大行進は一方向から百体前後が普通だ。多くても二百を超える事は無い。何事も例外は付き物だが、それを含めた上での話だ。

 それが今回は少なくとも合計で千体は超えている。しかも四方向同時に、だ。こんな異常事態、誰かが意図的に起こさない限りあり得ない。


「って事はあそこかぁ」

「ええ。間違いなくそうでしょうね」

「目的は……宣戦布告か? だが、あそこなら北側が近いはずだし……」


 二人は誰が今回の黒幕か分かっているようだが、目的までは分からないらしい。二人とも溜息をつきながらこの騒動が終わった後の事を話し始めた。


 ♈♉♊♋♌♍♎♐♏♑♒♓


 話し合いを終え、休憩も終えた二人はダッシュで家に戻る。


 家に戻って見た光景はユートが占魔を含む魔物四体を相手取っている、というものだった。

 その後ろには二人の少年少女がへたり込んでいる。






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