第7話 久しぶりの休日なのに……

 さて、ステラからの求婚を延ばしてから早くも二年経った。好感度については下がるどころか寧ろ年月が過ぎる毎に上昇していて、しかもステラの容姿が良くなるから手に負えない事もあった。

 そんなある日の一日。リュートさんに連れられて俺とステラ、ミアさんの三人は武器屋に来ている。二年修練を続けて来て、リュートさんからも合格をもらったので実戦用の武器を買いに来たのだ。今はまだだが、これからは狩りだったり、魔物を討伐する事もあるとリュートさんは言っていたのでその為と、いざという時の護身用に。


「え~と、ユートは短槍、ステラは小剣だったな。だったらこれが良いか」


 馴染みの店なのだろうリュートさんは何処に何があるか分かっている様子で迷わず動き、鉄製の短槍と小剣を持って来た。

 両方ともザ・初心者みたいだが、これで命を奪う事が出来ると思うとその重さがより伝わって来る。今まで話を聞いたり、リュートさんのを持ったりした事は何度かあるんだが、そんな生易しいものじゃない事が良く分かった。……今の気持ちをしっかり心に残していこう。命を奪うと言う非情さを。

 まぁ、湿っぽい話ここまで。どうせ後で強制的に遮断されるんだろうけど。


 メインの武器を選んだら防具を見繕って貰う。防具と言っても俺もステラも革製なので俺たちの大きさに合わせる様に採寸するだけだ。物自体は数日後に家に届くと店主が言っていた。

 後は解体用のナイフみたいな小物だったり、店内の品を見てリュートさんが解説をしてくれたりした。買っては無いけど。


 武器屋にいた時間は小一、二時間程度。時間帯が昼前くらいでこの後は特に何もない。これから何をする……と思った瞬間、ミアさんの表情が一気に変わった。期限を延ばしてから二年間、気付いた中で大きな点と言うとミアさんは面白い展開に運ぶ時は笑顔になる事だ。

 いつもはおっとりで子供っぽいのだが、(主に)イチャつきたいイベントなどを起こす前に一度笑顔になるのだ。無意識だろうが、変化が一瞬なので気が付いたのはついこの間の事である。


「うふふ。じゃあ、ここからはデートの時間としましょう。ステラちゃんはユートくんと楽しんで来てね」

「うん!!」

「「あの……拒否する事は……」」

「しても良いけれど、後でどんな目に会うか想像して覚悟が出来たらね♪」

「「……」」

「ちなみにリュートさんは逃げたら……分かりますね?」

「お兄ちゃんも逃げたら二年後を楽しみにしてね」

「「……喜んでさせていただきます」」


 事前に打ち合わせしたんじゃないかって言うぐらいに完璧な母娘おやこ。こっちもこっちである意味完璧なんだがそこは置いといて。……リュートさんの方は気付かなかった事にしよう。

 最近気付いたんだけど、この世界の女性って積極的な人が多いよね。……証拠がステラとミアさんの二人だけだから半別のしようがないんだけどさ。貴族の人達は慎み深いってリュートさんからよく聞くんだけどなぁ。


 お小遣いとして銀貨一枚を貰い俺はステラに、リュートさんはミアさんに腕を組まれながらデートが始まった。

 ……今更なんだが今日のメインって絶対こっちだよね? ここ最近、本当にこの二年間、魔法の練習とか大事な事がサブでこっち方面がメインだってのが定着してきてる。十中八九、ステラの好感度を維持どころか上昇させるのが目的だろうけど単にミアさんがリュートさんとイチャつきたいってのもありそうだなぁ。




 そんなこんなで始まったデート。そのデートを画策したのがステラとミアさんの二人なので何かしら案があると思いきや、特に何も考えてないとステラは言う。ただ単にしたかっただけ、だと。

 それはそれでどうなんだ! と心の中でツッコみ、ステラに軽くチョップしておく。された所を擦りながらはにかむ姿は可愛いのだが……口に出したら面倒な事になるので絶対言わない。と言うかこの年でこの可愛さなら成人である十五歳ではどれ程なのか、末恐ろしいものである。


 ……他人の将来の前に自分のを心配しろよ! というツッコミは予め却下するとして、とりあえずは昼飯を探す為に屋台でも探そうか。

 街の通りには色んな屋台があるけど祭りという訳ではなく、(将来的には俺もしたい)旅をする人や強い相手を求める戦闘狂、爵位を継げない貴族の次男以下等の冒険者がいるので武器や防具、食料などが売られている。他にも市場としての意味合いもあるらしい。


 暫くステラと相談しながら歩いていると某ハンバーガーチェーン店の様にパンで具材を挟んだ物が売られているのを見つけた。俺もステラもぐぅ、っとお腹の音が鳴った。

 顔を真っ赤にさせ恥ずかしがるのは良いんだが、そろそろ周りからの視線が(生温かくて)痛いのでさっさと向かう事にする。ちなみにステラはこの間、器用に片手で顔を隠しながらも腕からは離れていない。


「おにーさん、二つ下さいっ!」

「二つで銅貨四枚だ。さっきの可愛らしいお嬢さんじゃないか」

「うぅぅ……」

「おっと、これは失礼。お詫びと言っちゃなんだけど、銅貨二枚で良いよ」

「……ありがとう」

「良いんですか?」

「良いんだ。それよりも彼氏君はしっかりフォローしてあげてね」

「(ピクッ)」

「っ! はい、ありがたく受け取っておきます」


 彼氏、と言う言葉に反応したステラを見て少し早足で近くにあった広場へと向かう。……フォロー以前に、責任自体はあんたにあるよね?


 問題が連発しそうな場所から離れて、広場に幾つかある木の下でさっきの所から買ったハムガと言うのを食べる。

 野菜とパンにしっかり肉汁が染みていて、肉も赤みと脂身のバランスが良い。なのにさっぱりとしているのでペロリと平らげてしまったが、ボリュームはあって満足のいく物であった。……味は良い。良いんだが、二度と行きたくない。特にステラと一緒の時は。


 包んでいた紙を丸め、ステラに焼いてもらう。それからそう時間が経つ前にステラがうつらうつらと船を漕ぎ始め、俺の肩に頭を預けて眠り始めた。

 確かに今日はいい天気だしなぁ。日頃はゆっくりするのは寝る時くらいだけど、久しぶりに昼寝でもするかぁ。そう言えば寝る事が好きだったのに最近はこういう事が無かったんだよなぁ。……主に隣で呑気に寝てる人のせいで。


 気温も丁度いい感じになってきて、昼寝をするには絶好の時間。こんな時間に昼寝をしないなんて俺は考えられない。

 目を閉じると直ぐに意識が落ちていく。俺もステラの頭を枕にして眠りについた。目を瞑る直前の視線は仲の良い兄妹だなぁ、と見られていて欲しい。間違っても恋人とは…………



  ♈♉♊♋♌♍♎♐♏♑♒♓



 …………………………ん? 誰か来た?


 寝る前に水魔法で半径一メートル範囲で誰かが近づいて来るのが分かるようにしてみたんだが本当に来た。遊び半分だったけど……誰だろうか。

 いやまぁ、こういう場合のお約束は外れないと思うんだが念の為な。


 そう思って目を開けてみるとお約束通りだった。正確には俺の目の前には三人いて、それぞれが不良です、と自己主張している様に堂々としている。年は俺たちより少し年上くらいで真ん中の少年は他の二人よりも豪華な服を着ている。

 貴族の子供とその取り巻き? 尊大な態度を取るんだろうなぁ……と結論づける。何かを言われるのは確実だろうから、何を言われるのかちょっと待ってみよう。

 少し経ってからステラも「……んにゃ?」という声と共に目を開ける。基本的に甘えたがりのステラ。いつも寝起き直後は甘えて来る。ほっとけばいずれ目が覚めるので今は無視。この間、律儀に待っていたのにちょっと崩れそうになった。何か仕掛けて来ないの!? と。


「貴様っ! 名前は何という?」

「僕ですか? 僕はユートと言いますが」

「違うお前じゃない! そっちの娘だ!」


 と、敢えてボケてみると凄い人相でツッコまれた。初対面の人にその態度は無いと思うけどなぁ。……初対面だよね?

 未だに寝ぼけ眼状態のステラの頬を軽く掻くとくすぐったそうに体をよじらせる。そして、目が覚めたステラは目の前の三人を見て首を傾げる。

 その可愛い仕草を見て顔を赤らめた三人は直ぐに元の表情に戻ると再び聞いてきた。


「貴様、名前は?」

「? ステラだよ~。お兄ちゃん、この子たちは?」

「さぁ? 貴族の息子なんだろうけど……」

「お前ら! この方を誰だと思っている!?」

「知らないけど……」

「この方はこの街を治めておられるアルトネア伯爵家三男ルドラス・アルトネア様だぞっ」


 あぁ、うん。貴族で伯爵様ね。その子供ですか。それで? 俺らに関わるような人種じゃないでしょ?


「それで僕たちに何の用で?」

「うむ。ステラを将来の嫁の一人にさせてやろうと思ってな。光栄だろう?」

「やだっ!! 私はお兄ちゃんのお嫁さんになるの!」


 ステラ……まだそうなると決まった訳じゃないからね? あくまで現段階は提案だからね。上から目線だけど。

 周りからはおぉ~と感嘆の声が響く。それを取り巻き二人が睨んでいた。個人的には同じ事をしようと思っていたので心の中でグッジョブと言っておく。

 ステラに即断で断られた伯爵家の三男君。今度は恨めしそうな顔でこちらを睨みつけて来る。あれ? 何かした、俺。


「貴様っ、俺と決闘しろ! 勝ったらステラは頂くからな!」


 えぇ~。面倒くさいよ。


「良いよ! でも、お兄ちゃんは負けないもん!」


 ステラ、何で君が決めてるの? 確かにステラを賭けてる様なものだから意見は言えるだろうけど、最終的に決めるのは俺だからね? そもそもこんな面倒な事、したく無いんだけど。


 そう思い口にしても、やはり俺に拒否権は無い様であっと言う間に条件が決まっていった。全てが整うまで野次馬でも見ようか、と見渡すとリュートさんとミアさんを見つけた。

 二人も俺に気付くと微笑み返して来た。特にリュートさんは決闘と聞いて口パクで頑張れと応援している。ミアさんは……また良からぬことを考えているようだ。


 そして、決まった決闘の内容はこうだ。俺とル~何とか君が素手で一対一を行う。どちらかが降参するか、気絶した時点で勝負は終わり。魔法は使っても良い。そして、勝った方がステラを嫁にする権利を得る、と言う事になった。

 勝利条件……これ完全に自分を嫁にする事を公で認めさせる気だよね? ……一体誰の差し金だ? ミアさんか……。

 俺たちとル~何とか君達が距離を取ると犬歯を剥き出しにして犬の様に威嚇いかくするステラ。「がるる~」とか言いそうだ。


「がるる~」


 ……本当に言っちゃったよ。犬かお前は。偶に動物みたいな所はあるけどさ。


 一先ず頭でも撫でながら落ち着かせると頬ずりしながら甘えて来るので即座に剥がす。流石に今回は大人しく後ろに下がっていった。


 何かル~何とか君が仇敵の様にこちらを見るのだが……どうしよう? 殺されないよね? 殺される前にル~何とか君がステラから殺されそうだけど……。




 決闘の審判を買って出たのはさっきのお兄さんである。こっちに視線を向けるとサムズアップして来た。応援してくれてるんだろうけど、あれ絶対方向性を間違えてる奴だ。


「じゃあ、行くよ。……始めっ!!」

「ふっ!」


 合図と同時にル~何とか君が飛び込んで来て鋭いストレートを放つ。他にもジャブやキック、肘などを加えた怒涛どとうの連続攻撃が次々と繰り出される。ステラに及ばないまでもこっちは防御で手一杯だ。流石は決闘を提案しただけはある。

 ……まぁ常日頃、才能の塊であるステラや圧倒的な戦闘力を誇るリュートさんに比べたら、防御しながら反撃を狙う余裕くらいはあるんだけどさ。

 ちなみにステラの方ははじっとこちらを見続けていて、リュートさんはミアさんに連れられどこかに消えて行った。




 ル~何とか君の攻撃を受ける時に一応怪我をしない様にこっそり攻撃の衝撃を殺す。貴族に傷をつけたった事でイチャモンつけられるのは御免だし。……あとは攻撃って意外と体力を使うから勝手にダウンしてくれないかなぁ~と希望を抱きつつ、防御に専念しているとル~何とか君が苛立った様子で一度、距離を取った。


「くそっ。何で当たらない!」


 ずっと攻撃が当たらず拮抗状態にル~何とか君はかなり苛立っている。それでも流石と言うべきか、放り出さず、直ぐに戦法を変えて今度は魔法を使ってきた。火の球をこちらに打ち出しながら恐らく風を纏った拳で再び仕掛けて来る。


 ……さぁ、どうしようか? 単純に手数がこっちも練習になるから良いんだけど、もう片方はなぁ……後ろから何か殺気が漏れてる気がする。見たくはないけど。風の拳は不味い。主にル~何とか君が。

 あれ、間違いなく皮膚がズタズタになる奴だし。そうなったらステラが一体どんな行動を取るか……違う意味で難易度が上がった。……余計な手間を増やさないでくれよ。


 なので魔力の消費が激しいけど仕方ない。「濡れ翅」って、まだ三十分くらいしか持たないんだよね。この決闘ならそれで十分だろうけど。




 その後ニ十分近く続き、ル~何とか君の体力と魔力が尽きて気絶した所で勝負は着いた。その直後、何処からともなく兵士たちが現れ、ル~何とか君を連れて行った。多分、家に帰ったんだと思う。

 と言うか、対応が迅速だって事はこの手の事は日常茶飯事って事かな。


 ……それにしても疲れたぁ。決闘のお陰で残っている魔力は最大の半分も無い。だから立っているのもちょっと辛い。面倒だし、座ろう。


 軽い立ち眩みもするので座って休憩しようと思ったら後ろから何者が飛んで来た。言わずもがなステラだ。見なくても分かる位に「喜」のオーラが凄い。だけど、よく考えてみて欲しい。後ろから衝撃が来たという事は俺は前に倒れる事になるんだ。

 前に倒れながら、ふと視線を感じたのでそっちに向くといつの間に戻って来たのかミアさんの姿が。リュートさんは見えない。しかし、いつにも増して笑顔が素晴らしいのでこの後に何が起こるのか心配で心配で仕方ない。


「これで否定できなくなったね、お兄ちゃん?」

「……母さんか」

「うん。ママがね外堀から埋めなさいって言ってたの」


 外堀は外堀でもちょっと違うと思うんだが……。まぁ、確実に街中に広まるだろうな。俺たちの事を良く知る人たちなら良い話の肴になるだろう。ミアさんが見ているという事においては確かに外堀は埋めた。




 ……この後の事は精神的に大変だったので割愛するとしよう。主に周りの視線が生温かったり、誰かからの口撃が凄かったけど。


 今日こそはゆっくり出来ると思ったのに……







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