第6話 ……結果的にこうなった
模擬戦でステラに完敗して求婚された。……まぁ、それを一時間以上かけて説得させて期間を延ばす事に成功した後。今は今日のサブである魔法の練習だ。
メインは求婚の件だそうだ。立案者は意外にもステラだった。具体的な計画を立てたのはステラから話を聞いたミアさんだけど。
メインとサブが逆だって? 気にするだけ無駄。リュートさんもそう言ってたし。
それと魔法の練習も街の外なのは魔法の初級以上からは威力が強く、被害が大きくなる可能性がある為、街の中だと他の人に迷惑が掛かるからだそうだ。主に火魔法と土魔法が。
「ステラちゃんはまず火魔法を使えるようにしましょう。ユートくんはステラちゃんが怪我をしてしまった時の治療をお願いするわ」
ステラが魔法の手ほどきをミアさんから受けている中、俺もミアさんから水魔法の初級に当たる「濡れ翅」と中級の「水の
で、何でミアさんがあんな事を言ったのかと言うと、俺が休ませられている時に初級の「消毒」と「治水」を教えてもらったからだ。「消毒」は解毒ができるし、ある程度までの傷の応急手当てもできる。「治水」は軽い傷ならば治すことが出来る。
この二つがあれば骨折とかの重傷でなければ大体治るので治療を任された訳なんだが……そもそもミアさんが使えるので本当は必要無い。狙いにステラの好感度を維持しようとしているんだと思う。
……閑話休題。現在俺は「濡れ翅」と「水の付与」の二つを練習している。「濡れ翅」は一言で言えば「消毒」と「治水」を合わせたものだ。薄い水の膜が体全体を覆っていて、火魔法を初級まで防ぐことが出来る。難点としては魔力の消費が他のよりも激しい。
「水の
それに二つとも難易度が高いので習得には時間が掛かってしまう。しかも魔力は消費すると気分が悪くなり、最悪気絶する事もあるので何度も失敗をして魔力が残り少ない今は休憩中だ。ちなみにその目安として貧血みたいにふらついた時から危なくなってくる。
「はぁ、はぁ……難しいなぁ」
「いやいや、六歳で初級が出来るだけでも凄いものだぞ。ミアも魔法が使えるようになったのは十歳からだって言ってたしな」
「まぁ、み……母さんが大切なのはイメージって言ってたし。僕はそれがしやすいだけだよ。それよりもステラだよ。僕よりも長く魔法を使って、それにもう『火の
「まぁ、火魔法は軒並み魔力消費が多いが、代わりに全体的に難度は低いからな。それでも自分の娘ながら末恐ろしい」
「だよねぇ~」
模擬戦の後ステラの能力値を見たリュートさんとミアさんはちょっと青ざめていた。何故か俺の方にもその一端があったんだが、指摘はしてない。
リュートさんと雑談でもしながらしばらく休憩する。それで魔力がある程度回復した所で練習を再開すると、ステラがとことこやって来た。
「お兄ちゃぁ~ん」
「ユートくん。ステラちゃんに『治水』を掛けてあげて」
「え? ステラは傷なんかしてないみたいですけど……」
「うふふ。『治水』の応用技で、魔力の回復も早めることが出来るのよ。自分には出来ないけれどね」
「じゃあ、……母さんがすればいいんじゃ?」
「うふふ……」
「あぁ……やれって事ですね。拒否権も無いと」
ミアさんは微笑みながら頷く。何となくなんだが、今日の目的って単に俺とステラをイチャつかせたいだけなんじゃないかと思うんだが……。無駄かもしれないけど後で聞いてみよう。
……確信した。絶対そうだ。ただイチャつかせたいだけだ。だって、そうだろう? 元々、「治水」は手で触れれば良いだけなのに、抱き着いた方が効果が高いとか、ありえない。教えて貰った時は手で触れるだけだって言ってたし。
ジト目でミアさんを見てもミアさんは逆に急かして来る。思ってみただけなんだけどね。それ以前にステラが既に抱き着いているから離す事もままならない。それでいて無理にならない程度の力でくっ付いているし。
「早くぅ~」
「はいはい。分かった分かった」
「治水」を発動させて暫くするとステラの表情が良くなって来ている。魔力が回復している証拠だ。普通に休憩していたよりも結構回復が早い。ただ、自分に出来ないのは残念だ。そう旨い話は無い訳ね。
まぁ、抱き締めてる訳じゃなくて頭を撫で出ているだけだけど。これ以上ステラの好感度を上げさせるものか。俺個人の将来の目的の為にもステラを縛るつもりはない。
そんな当事者一人であるステラは撫でられて凄い気持ち良さそうにしているが。ちなみにミアさんはリュートさんに膝枕をしてご満悦の様子。リュートさんは「何で俺まで……」と若干、困惑しているみたいだ。
「……はい。魔力は回復したろ。離れて」
「えへへぇ~。やぁ~」
「……あら、ステラちゃんの髪の毛、凄い綺麗ね。どうしたの?」
「にゅふふ~。お兄ちゃんがしてくれたの」
寝起き直後な感じのステラにミアさんが余計な口出しをする。しかも絶対に誰がやったか分かってるうえでやると言う確信犯的行動。質が悪い。
確かに俺がやったのだが、あくまでも魔法の練習だ。練度を上げるためにステラの髪を利用させて貰っただけなのだ。他意は無い。
俺が離そうとする手を自分の頭の上に抑えつけ、表情を弛緩させるステラ。合わせて撫でろと言わんばかりに頭を突き出して来る。最近、朝に構ってもらって無いので今の間に堪能しようとでも思っているのだろうかこの娘は。
この中で唯一味方とも言えるリュートさんはミアさんを膝枕させる体勢で、諦めた視線をこちらに向けている。
物理的にも精神的にも逃げた所で逃げられるはずが無いのは良く分かる。ので、この状態になったら最早、場に流されると言う選択肢以外は無い訳だ。と、リュートさんの視線は言っている。
俺も同意なので、なら徹底的にやってやろうという事でステラを撫でつつ、頭皮をマッサージでもして刺激してみるとより一層弛緩したステラがしなだれかかって来る。しかし、それでも抜け出せないのでもう完全に諦めて地面に身体を投げ出した。……にしても、頭皮マッサージして喜ぶ六歳児も中々に凄い絵面だよな。
俺の諦めたのが分かったのかステラは背中に回していた手を首まで持って来て何度か頬ずりし、胸の前で手を重ねるとすぅ、と眠り始めた。取り敢えず、一つ言いたい。お前は動物か!
「流石ユートくん。私が言わなくてもステラちゃんを大切にしてくれるなんて」
「うぐっ。結果的にそうなったとは言え、否定できない……」
そう言うミアさんもリュートさんに甘えて気持ち良さそうにしている。リュートさんは……もう何も言うまい。
かく言う俺も抱き着いたままのステラを引き剥がそうが、そのままでいようがどちらを取っても負けな気がするので、取り敢えず近くにあった木に移動して身体を預ける。ステラは起きているような動きで俺の膝を枕にしていた。
「うふふ。この調子だと四年間なんてあっと言う間ね」
「あははは……」
「うふふふ……」
片方は乾いた笑いを、もう片方は楽しいと言う感情を一切隠さない笑いをしている。当然、乾いた笑いは俺なんだが、二人は笑い、一人は無心になり、もう一人は寝ている。正直、どんな混沌カオスだと思った。
♈♉♊♋♌♍♎♐♏♑♒♓
気が付いたら俺も寝ていたようで目を開けてみると目の前には大空とステラの満足そうな顔が。
茜色の空はとても綺麗で…………この世界に来てから癖になってしまった現実逃避から戻って来て状況を確認する。何て事は無い。俺が膝枕をされているだけだ。
何か今日はイチャついている時間が長い様な……敢えて言及はすまい。
一つ言うのならば帰ってからもステラのご機嫌はすこぶる良かったとだけ言っておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます