第5話 ……あ、あるぇ?
あ、あるぇ? ステラの体力の計算が合わないぞ。成長してるのも加味したうえで安全マージンも含めたうえで大丈夫だと決めたはずなんだけどなぁ。
ステラの方もかなり息が上がっているがまだ余裕はある。俺は木の槍を放り出して五体を草の上に放り出したまま、動けていない。
「お兄ちゃん。『何で』って顔してるね。私だって頑張ってるんだよ」
丁度俺の前にステラの能力値が現れる。
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『ステラ・フォーハイム 女 六歳 能力-20
「魔術師」 7
【体力】-67/644
【力】-440
【耐久】-757
【敏捷】-268
【魔力】-1286
【精神】-177
【スキル】-合成魔法
【魔法】-火属性、水属性、風属性、土属性』
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「ははは……。予想よりも大分上じゃねえか。そりゃ勝てねえわ」
最後の方は独り言みたく言ったお陰でステラに聞こえる事は無かった。一ヶ月弱で二倍以上成長するとか想像できねぇよ。まぁ、予想した段階でも引き分け狙いだったし。
俺も結構頑張ったつもりなんだけどなぁ。どれ一つ取っても勝てる所がないや。ここまで来るともう悔しさを通り越して諦めすらつくわ。
一応成長したかもしれないので見てみるとしよう。『展開』っと。
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『ユート(四ヶ谷祐人) 男 六歳 能力‐11
9
【体力】‐5/174
【力】‐91
【耐久】‐101(+30)
【敏捷】‐166
【魔力】‐435
【精神】‐157(+50)
【スキル】‐精密操作、俯瞰視
【魔法】‐水属性、光属性』
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……あれ? 能力が二つ上がってる。ついでに
まぁ、それは兎も角、俯瞰視って何だろうな。『俯瞰視』の方へ意識を向けるとスキルについての説明が表示された。
『俯瞰視』……視界が上空からの景色も映す。通常の状態と上空の二つの視界を同時に処理するのでスキル使用時は思考が高速化する。
……あぁ、うん。ステラとの戦闘中に違うこと考えたり、リュートさん達の表情を見れたのはこのスキルのお陰なのね。納得がいったよ。
また考え込んでいたのかと思ったのだが、スキルの効果が効いていたらしく、ステラが能力値を表示したまま自慢げにしていた。
「……じゃあ、お兄ちゃん。試合前の約束ちゃんと聞いて貰うからね」
「その時に言ったけど……限度はあるからな」
「じゃあ言うね……」
「……」
「えっとね…………」
「……」
「えっとね………………」
「……おい」
「私達の……『家族』になって下さい」
「ん? あ、あぁ。それくらいなら」
そう返事をするとステラの瞳が大きく見開く。あ、あれ? 変な事言ったか? 今だって家族同然のはずだし、まさかステラは俺が実の兄じゃない事は知らないはず。……もしかして遠慮するな、って事なのか?
ステラは俺の言った事を確認するみたいにゆっくりと問い掛けて来る。
「ほんとに?」
「あぁ」
「取り消しとかもない?」
「勿論」
「っ!! ……これからずっと一緒だね、『将来の旦那様』!!」
「はぁ?」
話の中で起き上がれるくらいには体力が回復していたので座っていたのだが、ステラが飛び込んで来た為、再び草原に寝転ぶことになる……そうじゃなくて。旦那様? 将来? どういう事だ? 別に俺もステラも告白したわけじゃあるまいし……いやいやまさか。
ステラに聞こうにも既に自分の世界に入っている様で抱き着いた状態から離れる所か、聞く耳も持っていない。仕方なしに二人を見るとリュートさんは顔に「やらかしやがった……」とミアさんからはステラへ「グッジョブ!」と書いてあった。
……もしかして、嵌められた? ミアさんに?
「ふふふ。良かったわねぇ、ステラちゃん」
「ママのお陰で成功したよ!」
今度はミアさんの下へ行き、最大級の喜びを見せるステラ。起き上がって混乱する状態から戻ろうとしているとリュートさんがこちらにやって来た。
リュートさんの顔だけではなく、仕草までもがやれやれ……と言っている。
「……今がどんな状態か分かるか?」
「いいえ、全く」
「簡単に言うとな……ステラがユートに求婚してお前がそれを受けた形になっている」
「ん……ん!? ちょ、ちょっと待って下さい。……求婚? そもそもそんな事をステラは言いましたか?」
「はぁ……言っただろう。『家族』になって下さい、と。ちなみに一度受けた以上は無くすことは出来ないからな。それに証人として俺とミアがいるし」
否定をしようとしたら先に潰された。と言うかよくよく見るとリュートさんの表情が同情している様に見える。
後で聞いた話なんだがステラが確認して来た時以外で断る事は原則出来ないそうだ。どちらかもしくは両方が死亡する事だけが唯一の例外だそうだ。ちなみに教会で再度行った場合は貴族や王族でも無くすことは不可能らしい。だから通常の結婚式などでは教会でよくある事だそう。
満足したらしいステラとミアさんがこちらにやって来る。ステラに至っては全身からハートマークでも出ていそうだ。そんな状態のステラは当然の事の様に抱き着いて来てオーラを全開にしている。
その様子を見ているミアさんは懐かしむような視線を向けていた。……懐かしむ?
「……もしかしてミアさんは以前にも同じ事をした経験が?」
「うふふ。これから家族なんだから遠慮は無しよ。それにミアさんじゃなくて……」
「あの、応えて貰い……」
「うふふ」
「あの……」
「うふふ」
「あ……」
「うふふ」
「……教えて、母さん」
「リュートさんも同じ事で夫になったわ」
この人、見かけによらず強情だ。それにリュートさんがこっちに向けていた視線はそういう意味だったのね。だから呆れたり、同情だったりした訳か。同じ手に引っ掛かりやがって、と。
そもそも、この世界の常識を知らない俺にそう非難するのは
……まぁ、後半は口が裂けても言えないけどさ。
まぁ、軽い現実逃避は置いといてまずは理由をステラに聞こうか。確かにブラコンが入っているとはいえ、この手段を踏み込む事はそう簡単じゃない筈。
模擬戦を見てる時みたいにイチャつきだす二人は隅に置いてステラに質問してみる。
「なぁ、ステラ。求婚する時に色々とこう……気持ち的に何かないか?」
「全然。……あ、お兄ちゃんに断られないか心配だったよ」
「あ、そう……」
つまり、自分の気持ちを伝える事に
「ステラ、兄妹で結婚は無理じゃないかな?」
「お兄ちゃんは本当のお兄ちゃんじゃないでしょ? だから大丈夫!」
「無駄よユートくん。ステラちゃんには小さい時にユートくんを拾ってきた事は言ってあるし、ユートくん自身もそれは理解しているでしょう? 確かに本当の兄妹なら無理だけどね」
得意げな表情のミアさん。何時から気付いてたんだろうか? そんな言動は無かった……訳ないよね。と言うかリュートさん達にあんな口調で話していたら普通はそう思うか。言語を覚えて話し始めた時からあんな感じだし、普段からも遠慮するなとかも言ってたし。
兄妹がダメなら……年齢的にとか?
「うふふ。ちなみに貴族の人たちはこの年から婚約者の話なんて普通にあるけど、私たち平民でも良くある話だからね。逃げ道は無いわよ。あらゆる面で私たちが支援するわ」
ふむ……俺個人の気持ちを除いて特に否定する物がない。……いや、延ばす事は出来るかも。流石に今の年齢は個人的に無理だし、あまり気持ちは無碍にしたく無いし……。
うぅん。流されてるなぁ、俺。未来の時もそうだったし。それにしても五年以上たった今でも忘れられないとは意外と未練がましいのかね。
「じゃ、じゃあこういうのはどうです? ステラが十歳になった時まで気持ちが変わらなければ改めて僕からすると言うのは。……確か、教会で行わなければただの口約束なんですよね?」
逃げられないのであれば延ばして気持ちが
「うふふふふ。良いわよ。たった四年。ステラちゃんなら出来るはずよ。ねぇ?」
「もちろん! お兄ちゃん、四年後を楽しみにしてるね!」
「あ、そうそう。実はリュートさんとは小さい時にも助けて貰ったのよねぇ。だから私は十年以上も努力したのよ? ステラちゃんなら四年くらい楽勝よ」
あ、あれ? もしかしなくてもこれって負け戦? そんなにミアさんが一途な事は初耳だけどステラも同じって事は無いよね? いかんなぁ、デジャヴを感じる。主に未来との時みたいな。
……本当にあれが分岐点だったのかも。
それから昼食を食べて午後から魔法の練習だ。
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