第2話 五年経ったよ……
……よし、ちょっと待て落ち着こう。取り敢えずは現状の確認だ。確か……あぁそうだ。自称女神から違う世界に送られたんだっけか。そう言えば送られる世界について詳しく言ってなかったな。まぁ、赤ん坊ならこれから知れるだろう。
「*******」
この言葉を聞いて現状確認と言う名の現実逃避から現実に戻される。うん、言葉が分からない。何言ってるんだろう?
視線の先には二十代と思われるの女性がいる。少しスレンダーではあるが、それを補って余り余るほど容姿は良い。しかし、その表情は曇っていて、何かを考えている。
実は現実逃避には言語以外にもあって、さっきまでの状況もそうだ。雪が降り、大人でも少し寒そうな気温に「生まれて早々、死ぬのか……」と割と本気で思ったくらいだ。
森の中で放置された状態での始まり……本当にシビアだったよ。女神ぇ。
現在は先ほどの女性とその旦那さんと思しき男性、それと二人の子供が一人。俺と同じ赤ちゃんだ。これに俺を合わせた四人で一つの部屋にいる。
偶然、その男性に拾われてここまで連れて来られたが、その途中どうやら近くに街がある事が分かった。それもちょっと田舎っぽい感じで個人的には好きだ。まぁ、余り見えなかったけどな。雰囲気でそう思ったんだ。
……まぁ、散々現実逃避したが結果的には助かったと思うので良かったとしよう。
それから五年の時が過ぎた――
……まぁ、詳しくは聞かないでくれ。色々あったのだ、色々と。あぁ、思い出しただけで恥ずかしくなって来た! ……平常心、平常心。
「……ぁ、お兄ちゃんおはよ~」
「おはよう、ステラ」
寝ぼけ眼で抱き着いて来る女の子はステラ・フォーハイム。この家の長女である。俺が最初に来た時は赤ちゃんだった子だ。
性格はまさに
未だに離れようとしないステラの寝癖がついたワインレッドの髪を出来る範囲で整えてやる。やっと目が覚めて来たらしいステラは瑠璃色の瞳をへにゃっとさせ、幸せそうに顔も緩ませた。以前、
寝癖を直し終えてからステラを剥がす。ステラは物足りなさそうな表情をしているが、どうせ後からくっ付いて来るんだから気にしない。
服を着替え、当然の様にくっ付いて来たステラとリビングに向かう。リビングでは既に朝の用意をミアさんが行っていた。
「おはよう。ユートくん、ステラちゃん」
「おはようっ、ママ!」
「おはようございます」
「もう、気を遣わなくてもいいって言ってるのに」
俺の返しにミアさんは頬を膨らませた。母親がしても良いのかと思うが、何故か似合ってしまっている。おっとりした雰囲気を持っているから出来る芸当だ……断じて子供っぽいという訳ではない。
イスに座ると男性が奥の部屋から出て来た。
「ふぁ~。……ユート、そんな畏まらなくても良いって言ってるだろ? 家族なんだから」
「……はい」
そう言ってくれる彼はステラの父親でリュートさん。冒険者をやっていて、かなりの実力者だ。冒険者と言うのは依頼をこなしたり、迷宮に潜ったりと簡単に言えば何でも屋みたいなものだ。
それとリュートさんは既婚者なのだがかなりモテる。結婚すると男性も女性も魅力が増すと言うが……篠宮とは違った意味でイケメンだ。……ミアさんとも冒険者の途中で知り合ったらしい。
朝食を食べ終えるとリュートさんは冒険者として仕事に行った。
実力があるリュートさんは結構お金を持っていて余裕があるのでニ、三日に一度依頼を受けに行っている。
ところで異世界物では最強とか、無双とか、最弱からの成り上がりみたいなのが多いが、俺にそんな気はない。そもそも注目されるのが嫌いだし、俺としては平和的に過ごしていきたい。……どうしてそんな事をしたがるのか、理解不能だ。死ぬ時は死ぬんだし。
そう思う俺は惰眠を貪りたいのだが、如何せんステラの相手をする必要がある。家の中での手伝いは俺も一緒に行かなければならないし、それ以前にミアさんのスキルが高いので必要がない。
そんなミアさんも普段、午後には帰って来るリュートさんとイチャイチャしてるし、行かせた所で俺も一緒に相手をさせられる。いや、仲が良いのは結構なんだけどさ……子供の面倒を見ないのは如何なものかと。まさか六歳の子供に面倒を見させるとは……普通思わないよね?
とまぁ、必然的にどう転ぼうがステラと一緒にいる事は確定しているので、ならば数は少ない方が良い。それに今日は天気が良いから外で昼寝も良いな。天真爛漫な彼女だ、元気にはしゃぐステラの面倒を見ているととても疲れる。
今日も家の中ではあるがステラの相手をして、昼になる頃にはヘトヘトである。それでもステラはまだまだ元気いっぱいにはしゃいでいる。
昼食を食べ終えた頃、リュートさんが帰って来た。いつもの様に三人でリュートさんを出迎える。
普通であればミアさんと早速イチャつくのだが今回は俺とステラに用があるみたいだ。笑顔でこちらに近づいて来る。どうやら後ろにいるミアさんもリュートさんが何をするか分かっているらしく、微笑んでいる。
ステラはと言うと、若干怯えていた。……自分の娘に怯えられるとは……。
ステラが怯えたのが分かったのかちょっと肩をすぼめたリュートさんは直ぐに気を取り直して、一度咳払いをした。
「んんっ。……ユートもステラも成長しただろう。今日はな、自分の実力を知って貰おうと思ったんだよ。俺もミアも二人ぐらいの頃にしたものさ」
「自分の実力を知るって言ってもどうするんですか?」
「まったく、お前ってやつは……」
俺はリュートさんの小さな溜息を見ぬフリをし、リュートさんも何事もない様に続けた。
「簡単だ。自分の心の中に意識を集中させて、『展開《ステータス』』と言えばいい」
「……」
「……」
直ぐに俺とステラは目を閉じて意識を集中させる。心の中で『展開』と言うと、最初はぼやけていたものが鮮明に見える様になって来た。
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『ユート(四ヶ谷祐人) 男 六歳 能力‐1
9
【体力】‐50/50
【力】‐10
【耐久】‐15(+30)
【敏捷】‐24
【魔力】‐30
【精神】‐98(+50)
【スキル】‐
【魔法】‐水属性、光属性』
――――――――――――――――――――――――――――
……体力から下はその通りだし、恐らく能力はレベルみたいな物だろう。だが、名前の下にある数字は何だ? どんな意味があるんだろう。()プラスと言うのも気になる。
思考の海に入っていたとでもいうのか、肩を強めに揺さぶられて現実に戻って来た。どうやらステラが揺さぶっていたらしい。三人とも心配した表情からちょっと安心した感じになった。そこでステラが代表して聞いて来た。
「どうしたのお兄ちゃん?」
「ああ、うん。自分のをつい見すぎちゃったみたいだ。心配かけてごめん。ミアさんもリュートさんもごめんなさい」
「いいのよ。私もリュートさんも偶にあるから。それにしても何て書いてあったの?」
「名前の下に数字が書いてあったんだ」
「あっ。私も名前の下に何か書いてた」
「……二人とも、俺たちにそれを見せてくれないか。自分以外に見せる時は見せたい人を思い浮かべて『開示《オープン』』だ」
ミアさん、リュートさん、ついでにステラを思い浮かべて『開示』と言うとゲームのステータスみたいに表示された。違いと言ったら四ヶ谷祐人と言う文字が見えず、耐久と精神がプラスされていた数字との合計になっていた事か。
リュートさんとミアさんは最初に俺のを見て一つ頷き、ステラのを見て目を見開いていた。俺も釣られて見てみると俺とは圧倒的だった。
――――――――――――――――――――――――――――
『ステラ・フォーハイム 女 六歳 能力-10
「魔術師」 7
【体力】-215/215
【力】-137
【耐久】-350
【敏捷】-156
【魔力】-507
【精神】-64
【スキル】-合成魔法
【魔法】-火属性、水属性、風属性、土属性』
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