第6話
カッツェの仲間達から歓声が上がった。
「一人で、竜を殺した? そんなこと、できるヤツがいるなんて……いや、待て」
カッツェは呆けた顔をしていたが、急に表情が険しくなる。
「いた。いたんだ、一人だけ。剣術と魔法を同時に極めた男が」
「お、ようやくわかったみたいだな」
マーカスはカッツェの前まで来ると、ニヤリと笑ってみせた。
「あんた、ドラゴンスレイヤーなのか? 竜王殺し……マーカス・フェルドミラーなのか?」
「大当たりだ。ま、当てたからってご褒美はねぇがな」
カッツェはペタリと地面に座り込んでしまう。噂で聞いただけの『竜殺し』という存在。一人で竜に勝つことなど、ずっと不可能であり、単なるデマだと思っていたからだ。だが、たった今、目の前で起こった出来事がカッツェの思い込みを打ち砕いた。
「おい、大丈夫か?」
「……放っておいてくれ」
「何だよ、俺は命の恩人だぞ? それを……」
カッカッカッ!
足音が聞こえてきた。一つではない。駆け足で近づいてきたのは、リィンとサヤ、そしてミーシャだ。
「待ってください、リィン様! 危険過ぎます!!」
「いいえ! 危険なのは民達です。ワタクシにだってできることが……」
「二人共、ついてこないでください! 足手まといになるだけです!!」
「な……私は貴女についていくのではありません! リィン様に……」
口論をしながら近づいてくる三人の姿を見て、大きなため息をつくマーカス。
「何をやってんだ、アイツら」
「あ、マーカス様!」
「え? マーカス?」
ミーシャが足を速める。他の二人を置いて、マーカスの前まで来た。
「マーカス! ドラゴンはっ!? ドラゴンはどこにいったの?」
「ああ? 今しがた片づけたところだよ。ほれ」
マーカスは親指を立て、自分の背後を指した。横たる黒い巨体は、少しずつ消えていこうとしている。キラキラとした輝きを放ちながら、徐々に空気へと溶け込んでいくように見えた。
「また……エーテルを消費したのね」
「相手がドラゴンじゃ仕方がねぇだろ? 充分にお釣りがくるんだ、問題ないさ」
マーカスの言葉に、ミーシャは眉間にシワを寄せた。
「そういう話じゃない! これはルールの問題だ!」
「ローデリアが決めた勝手なルールの話か? なら、俺が従う義理はねぇな。俺に『死ね』と命じた連中のルールなんかには、な」
睨み合うマーカスとミーシャ。そこにようやく駆けつけてきたリィン。息を切らしながら、周りを見渡す。
「ど、ドラゴンは……倒れている? もしかして、マーカス様が?」
「俺も、だな。先に戦ってた連中がいたんだが、コイツらのおかげで、死人は出てないみたいだぜ。よかったな、お姫様」
「そう、なのですか」
リィンはマーカスの話を聞くと、座り込んでいたカッツェの前で屈み込む。
「どなたか存じませんが、この国の人々を守ってくださってありがとうございました」
「……いや、俺は何も。全部、あいつが……ドラゴンもアイツが倒したから」
「いいえ。あのような怪物と戦おうとしたあなた方のおかげで、多くの人が命を失わずに済んだのです。尊い行いに感謝を」
リィンは立ち上がると、ゆっくりとお辞儀をしてみせる。王族らしい優雅で美しい所作に、カッツェは思わず見惚れてしまう。
「聞こえていたぞ、貴様ッ! また魔法を使ったらしいな! どうして……この国の状況が理解できないのか! そこまで愚かなのか、貴様は!」
声を張り上げるのはサヤである。マーカスに掴みかからんばかりの距離まで迫りつつ、怒りを隠そうとしない。
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