第4話

 決着した。

 これ以上の言い逃れはない。雷槌の正体が、誰かの魔法だったと認めていたなら、その人間だけを処罰すればよかったかもしれない。あるいは、たまたま城を襲った無法者のせいにして、手配をかけることもできたかもしれない。

 だが、嘘は露見した。偽りを口にしたと知られた以上、この先の弁明はもはや聞き入れられることはないだろう。グロノーツは顔に手を当て、嘆息した。

 彼と同じような考えがあったわけではない。あるいは臣下の見せた悲観の様子を察しただけだったか……とにかく、最初に言葉を発したのはリィンだった。

「全ての責任はワタクシにあります。どうか、この身をもって……」

「何だなんだ? せっかく呼ばれて来てやったのに、どうして誰も出迎えねぇんだよ! まったく……失礼な話だっつーの!」

 王座に繋がる真っ赤な絨毯の先。両開きの扉の向こう側から、大きな声が響いてきた。それは、あまりにも場違いなもので、緊張感の欠片も感じられないもの。だが、彼女の心を落ち着かせるには充分だった。そして、扉が開く。

「ああ? なんだ、ちゃんといるじゃねぇか」

「どうして……どうして、ここにいらっしゃったのですか?」

「おいおい、ふざけるなよ。お前が『会いたい』って手紙を寄越したんだろうが。健気なお姫さまから頂いた恋文に、真摯な俺は応えるべく、わざわざ来てやったわけだ!」

 マーカスは一枚の羊皮紙をひらひらと振ってみせる。

「な……それは今朝したためたもの! なんで今になって……そもそも恋文なんかじゃありません!」

 言い切って、リィンは気付く。自分が普段とはまるで違う言動をしていること……ではなく、目の前にいる少女が、表情を青くしていることに。

 だが、マーカスの位置からは、少女の顔は確認できないのだろう。そのまま歩みを進めてくる。

「で、だ。ちょいと聞こえちまったんだがな。城の上で雷がどうのって……俺の魔法の話しだよな? 悪かったな、タイミングが。まさか、バッチリ見られてるとは思わなくてよ」

「今さら無駄じゃよ。もはやお主の出る幕ではない」

「あん? そうなのか? 何だよ、せっかく出向いてきたのに、仕方ねぇな……」

 ガシッッ!!

 マーカスは少女の腕を掴んだ。その手にはナイフが握られ、あわや腹に刺さろうとしていたからだ。

「エルメロード様! いきなり何をなさるのですか!!」

「エルメロード? あれ、何だっけな……聞き覚えが」

「貴様……キサマがどうしてここにいる! 大罪人マーカス=フェルドミラー!!」

「ほほう、俺のことを知って……あれ?」

 一度はニヤリと笑ったマーカスだったが、少女の顔を見てきょとんとした表情になる。

 マーカスが襲われるのを見て、リィンは大声を上げた。

「衛兵ッ! この者を取り押さえなさい! 早くっ!!」

「ああ、いや……大丈夫だ。問題ないぞ、お姫さま」

 マーカスの一言に、今度はリィンがとぼけたような表情を浮かべてしまう。

「マーカス殿、それはどういう意味かね?」

「こいつ、知り合い。つーか、昔の仲間」

「「「はいぃぃぃっっ!!?」」」

 その場にいた全員が、聞いたこともないような素っ頓狂な声で驚きを表現してみせた。

「いや、そんなに驚くことか?」

「ふざけるな! 誰が貴様の仲間だっ!! それは大昔の話で」

「まあ、たしかに大昔だ」

 マーカスは少女の腕をくるりとひねる。すると、少女は持っていた短剣を手放し、そのまま羽交い締めにされてしまう。

「昔のお前にゃ、こんな立派なものは付いてなかったからな」

 むにゅうぅぅぅっ!

 マーカスは空いていた右手で、少女の胸を思いきり掴んでみせた。服の上からでも、充分な弾力と大きさを感じられる。

「わあああぁぁぁぁっ!!! 貴様、キサマ何をするんだ、やめろやめろっ!!!」

「あっはっは!! 相変わらず背は低いが、こっちは立派になったもんだ」

 むにむにむにゅむにゅと繰り返し手を動かさせるうち、少女は恥ずかしさから顔がみるみる赤くなる。

「ま、マーカス様っ! 一体何をなさっているのですか!!」

 たまらずリィンが文句を言い出した。

「何って、こういうのは『旧知を温める』って言うんだろ?」

「それを言うなら『旧交を温める』だ、バカッ! じゃなくて、いい加減、手を止めろっ!!」

「あはは、相変わらず物知りだな、ミーシャのおチビは」

 ニヤニヤと笑いながら、少女の胸を揉みしだく男の姿を見て、リィンは思った。やっぱり、この人は人でなしかもしれない、と。

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