第四章「罪人と呼ばれる男と危機に立たされる少女」
第1話
城の中は慌ただしい雰囲気に包まれていた。走り回るメイド達の中をゆっくりと歩くマーカス。大きな欠伸をしながら、のんびりと廊下を歩いていると、メイド達とは違う人影を目にする。
「これはマーカス殿、女王陛下とお会いになられたのですかな?」
「会う? まあ、会うっちゃ会ったか。けど、爺さんが期待するようなモンじゃなかったと思うぜ」
グロノーツは、顎に蓄えた髭を撫でながら、片方の目だけを大きく開いてみせる。
「はて、弱りましたな。できれば、ここで説得してみせたいところですが……そうも言っていられない状況。しばし、城に留まっていただけると大変助かるのだが……」
「悪いが宿に戻らせてもらうよ。面倒に巻き込まれるのは御免だからな」
マーカスは言いながら、グロノーツの脇を通って立ち去ろうとする。だが、グロノーツは彼の腕を掴んだ。
「やめとけよ、爺さん。俺は年寄り相手でも容赦はしないぜ」
「だろうな。だが、一つだけ。ここで間違えれば、リルムウッドは立ち行かなくなるかもしれぬ。危うい橋を渡っておるのだよ、我々はな」
それだけ言うと、グロノーツは手を離し、マーカスに背を向けたまま歩いていく。
マーカスは彼の姿を見送ってからしばらく、その場で立ち尽くしていたが、やがて宿への帰路についた。
コンコンッ。
サヤは丁寧に扉を叩く。
「……どうぞ」
部屋の中から返事が聞こえると、扉を開き、メイドとしてゆっくりとお辞儀をする。
「失礼したします。お茶をお持ちいたしました」
サヤの左手には、ティーポットとカップが乗せられたトレーがある。どれだけ深く頭を下げても、トレーは全く傾くことはない。メイドとしての彼女の経験を感じさせる。だが、そうした仕事ぶりについて、来賓室の主が反応を見せることはなかった。
「いつまで待たされるのかしら? こちらも暇ではないのだけれど」
「大変申し訳ございません。女王陛下は支度の最中でございまして……何分、このような真夜中の来客は考えておりませんでしたので。今しばらくお待ちいただければ、と」
「それではまるで、我々に非があるように聞こえるわね。あくまで、任務として赴いているだけなのだけれど?」
メイドの一言に、棘を感じた女はすぐさま応じる。だが、サヤは眉一つ動かさず、微笑みながら返事をする。
「いいえ、そのようなことは……気分を害されたのなら失礼いたしました。あくまで事実を申し上げたまででございます。ただ、引っかかるところがあるのなら、何か自覚がおわりなのでは?」
サヤはトレーの上のカップをテーブルに起き、ティーポットからお茶を注いでいく。女はそれをゆっくりと持ち上げ、口元へと運んでいく。
「……美味しいお茶をありがとう、メイドさん。お会いする女王様が、あなたくらい舌の回る人であることを祈っているわ」
自分に目を向けようともしない女に対し、頭に血が昇る感覚を覚えるサヤ。しかし、それ以上は何も言うことなく部屋を立ち去っていく。
バタンと扉が閉じると、女は改めてお茶で喉を湿らせた。
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