回想「ある男の喜び」
「あなたが噂の魔法剣士様ですか?」
声をかけてきたのは少女だった。翡翠色の長髪が印象的な少女は、白と青に彩られた美しいドレスを纏っている。ドレスといっても、踊りを踊るためのものではなく、動き安さを優先したデザインをしている。
「ああ、多分な」
突き放すような返事に、少女は、顔いっぱいを使って不満を表現してみせる。
「もう少し愛想をよくされたほうがいいですよ! これから一緒に旅をする仲間なんですから!」
「笑ってドラゴンが消えてくれるなら、俺だってそうするけどな。むしろ、消えるのはお前のほうかもしれないし。これから死ぬヤツに愛想振りまいてどうす……ぐふぅっ!!」
男は股間に強烈な衝撃を受け、言葉を失った。もんどりを打って石畳の上を転がりまわる。
「姉様に失礼な口を聞くなっ!」
男の宝物をしこたま蹴り上げたのは、もう一人の少女――いや幼女である。緑の髪を後ろで束ね、真っ白なマントを羽織っている。
幼さを残した顔立ちと小さな身長に似合わず、言葉には威圧的な響きがあった。
「こんの……なんてことしやがんだ、チビ助が!!」
「……もう一発喰らいたいのか?」
「ま、待ちなさいミーシャ! そういうことをしてはいけないの。私達はこれから仲間になるんですから」
姉と呼ばれた少女は、幼女――ミーシャを慌てて止める。
「ステラ姉様、こんな失礼なヤツ、ここで消してしまいましょう。わたし達だけで充分です」
「もう! そういうこと言わないの!」
男は二人のやりとりが終わるのを待たず、勝手に立ち上がり、歩き出す。
「ちょっと……どこを行くんですか!」
「新しい仲間が来るとは聞いてたけどな……こんな弱そうな連中だって知ってたら断ってたよ……あのオッサン、何を考えてんだか」
ミーシャは男を追いかけ、正面に立ち塞がる。避けようとする男に合わせ、左右にステップを踏み、道を開けようとしない。
「お前なぁ……邪魔するじゃねぇよ!」
「邪魔ではありません。ただ挨拶をしようとしているだけです」
「だから、そんなの意味ねぇって……」
男の反論を聞くことなく、少女は近づいてきて、彼の手を取った。予想外の出来事に、男は目を見開いてしまう。
「私の名前はステラ。ステラ=エルメロードと申します! これからよろしくお願いしますね」
ニコニコと笑う少女は、無防備に顔を近づけてくる。男は、わずかに漂うバラの香りに心臓が一気に跳ね上がる。
――今、自分はどんな顔をしてんだ?
一瞬、冷静さを取り戻した男は、軽く咳き込む。そして、できる限り表情を押し殺した。
「よろしくなんてするか! まあ……お前らが勝手についてくるのまで止めやしねぇけど」
男の言葉を聞き、ステラはますますニッコリと笑ってみせる。
「なら、そうするわ! あと、あっちの子はミーシャ=ノーティスね。家名が違うのは、母親が違うからなんだけど。ミーシャと私は、とっても仲良しだから、あなたも気にしないで!」
恐ろしく重たい話を、初対面の人間にあっけらかんと話してみせる少女。だから、男はこれからの旅について考えると、気が重たくなった。
――面倒くせぇことになった。
心の中で呟く。直後、目の前に緑髪の幼女が歩いてきた。
「アンタ、なに笑ってるの? 気持ち悪い」
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