第5話

「ふ……ふざけるなぁぁぁ!!」

 リーダーは剣を抜き、マーカスに斬りかかる。その剣閃を見て、マーカスは初めて構えてみせた。

「ほう……良い太刀筋だぜ。もしかして、本当に竜と戦ったことがあるのか?」

「……っるせえんだよ、ダボがぁぁああ!!」

 チンピラ達のリーダーは、叫ぶと同時に体を引き、剣を腰の横へと構え直す。そこから大きく踏み込みながら、横薙ぎを放つ。

 が、マーカスは先読みし、相手の刃を剣の柄で下に叩き落とす。すると、リーダーは.は剣が落ちるより前に剣を手放し、大勢を低くして足払いをかける。

 マーカスは足を取られ、そのまま横倒しになる……かと思った瞬間、彼は自分の剣を地面に差し、それを軸にくるりと空中を一回転した。そして、地面に降りると同時に、リーダーの腹に強烈な蹴りを御見舞する。

「がはっっっ!!」

 うめき声を上げ、地面を転がるリーダー。だが、彼を見つめるマーカスの目は、それまでの嘲笑するようなものとは異なっていた。

「驚いた……本当に驚いたぜ。持ってる獲物にこだわらねぇっていうのは、なかなかできることじゃないんだがな。お前、一体どこにいた?」

「何だよ、テメェはなんだよっ! ぐぅ……!」

「あのな……質問してるのは俺なんだぜ? もちろん、答える気がないなら、別にいいけどな?」

 マーカスは、リーダーの持っていた剣を持ち上げると、そのまま鼻先目がけて、地面に突き立てた。リーダーの額にはたらりと冷や汗が流れる。

「俺は……俺達は、ローデリアの傭兵だよ」

「傭兵? あそこはもう、そういう奴らを雇ったりはしてないだろ?」

「傭兵『だった』んだよ! どこかのバカが、竜王を倒しちまったせいで、俺たちゃお払い箱になっちまった! どこへ行っても、俺らみたいなのは、よそ者でしかねぇ……なら! 俺らが何しようが勝手だろうが!」

 痛みと恐怖のせいで、余計なことまで口にする男。行き場のない不満をマーカスにぶつける。意味がないとわかっていながら。

「別に文句はねぇよ。お前らが何しようが、俺の知ったことじゃないからな」

「……はぁ? じ、じゃあ、テメェは何がしたいんだよ。なんで俺らをボコりやがったんだ!」

 リーダの言葉に、マーカスは頭を掻きながら、反対の手で地面を指差す。

「お前は話を聞いてないのか? 俺はココに用があるんだよ。この場所に。だから、どいてくれって頼んでただけだぞ。そしたら、お前らが襲ってきた。んで、仕方なく身を守っただけだ」

 仕方なくと言いつつ、ニヤニヤと笑っているマーカス。その顔に、リーダーは心底怒りを覚えたが、抵抗できるとも思わなかった。

 ゆっくりと上体を起こし、周りを見渡す。倒れている仲間達。気絶している者、うめいている者さまざまだ。

「……ここから出ていけば、見逃してくれるのか? なら、二度とここには来ねぇって約束する」

「最初はそのつもりだったんだが……それはダメだな」

 マーカスは地面に刺したリーダーの剣を抜く。その姿を見て、リーダーは諦めたように目を瞑った。が……。

「ほれ、返すぜ」

 マーカスの声に驚き、目を開いてみれば、剣の柄が自分のほうに向けて差し出されていた。

「お前、名前は?」

「あ、俺はカッツェ……って、これはどういう意味だ!」

「お前らがここにいたほうが、人が寄り付かなくて助かるんだよ。俺は、誰も来ない静かな場所を探してたんだ。必要なときに貸してくれるなら、それでいい。どうだ?」

 リーダーもといカッツェは、口が半開きになったまま、呆気に取られてしまった。

「おいおい、なんだ? そのアホ面は。どうすんだよ? 別にお前ら追い出してもかまわないだけどな」

「あ、いや……それでお願いします」

 思わず敬語が出てしまったカッツェ。だが、自分でもそのことに気付いていないようだった。

「よし、それじゃとりあえず、今晩はここを借りるぜ。連中が起きたら、連れてけ」

「わ、わかりました……」

 ウンウンと頷くマーカスは、ひどく満足そうな表情を浮かべていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る