第4話

 城下町から西にある丘。そこは元々、小さな砦が立っていたが、今はボロボロに崩れてしまっている。かろうじて、一階部分だけが残っているものの、ならず者の溜まり場と化していた。

「ふ~ん、眺めはいいところだな。街が一望できるのか」

「なんだ、テメェは!?」

 マーカスは砦の中に足を踏み入れるのをためらわなかった。ズカズカと自分達の縄張りに入り込まれた男達は、当然の如く怒声を上げる。ところが、マーカスは彼らの言葉など意にも介さない。

「ここ、空けてくれないか? 困るんだよ、人がいると。ここは静かで良さそうだ。君達がいなくなれば、俺は大変助かる。そして、お前らも助かる」

「おいおい、兄さんよぉ。頭がイカれてんのか? 俺らにケンカ売って、生きれ帰れると思ってんだろうな!」

 ペタペタと大きな足音を立てながら、がに股でマーカスに近付く男。右手に持ったナイフを自分の頬に当てながら、威嚇するように睨みつける。

「さっさとここから消えぶおあぁぁぁぁぁぁああっっ!!!」

 マーカスは、男の右手を取ると、そのまま相手の膝に押し付けた。当然、ナイフがざっくりと刺さってしまう。

 その瞬間、ならず者達の空気が一気に変化する。相手を舐めてかかるような表情は消え、ハッキリとした殺気をマーカスに叩きつけた。

「なるほど、竜と戦ったことがあるって触れ込みは、まるきり嘘ってわけでもなさそうだ」

「おい、このバカ野郎が! 自分が何したか、わかってんだろうな? あぁっっ!!」

 市場でリーダーと呼ばれていた男が問いかける。マーカスは、飄々とした様子で応じた。

「もちろん! 俺はここが静かな場所になるように、害虫駆除をしに来ただけだぜ」

「っ!! 殺せ!」

 リーダーの言葉で、男達は一斉にマーカスを囲む。手際が早い。ただ包囲するだけではなく、きっちりと退路を塞ぎ、マーカスの死角を押さえるように位置取りをする。

「ははぁっ! こいつは驚きだぜ。とても街の人間を脅して食い繋ぐ野盗もどきとは思えないな!」

「うるせぇっ! 今さら詫びても遅いぞ、テメェは!」

 リーダーの言葉に合わせるように、マーカスの背後に陣取った男が二人、同時に襲いかかる……だが。

「けど、俺の敵じゃねぇな」

 マーカスは左側からの剣戟を鞘に納めた剣で受け、もう一方の男には剣を振り切る前に、みぞおちに蹴りを食らわせる。続いて、止めていた剣を受け流し、バランスを崩した相手の横をくるりと回り込みながら、後頭部に剣の柄尻を叩き込む。

「なっ……!?」

 一瞬にして二人が倒されたことで、ならず者達は動揺する。そして、マーカスはその隙を見逃さない。すぐに他の敵に向かって走り出す。

 振り下ろされる剣を躱し、相手の頭に回し蹴りを食らわせる。次の相手には背後に回り込んで膝を蹴飛ばし、バランスを崩したところに顎を抑えて地面に叩きつける。

 そうして次々とならず者達が倒されていく。リーダーはまともに指示を出すこともできないまま、慌てるばかり。気付けば、自分以外の仲間は全員、倒されてしまった。

「て、テメェ……一体、なんだ? 俺達に何の恨みがあるってんだ!!」

「だから、お前らに興味はないって。ただ、ここからいなくなってくれればいいんだよ、わかった?」

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