回想「ある男の怒り」

「この者を死罪とするっっ!!」

 老人の声が場内に響き渡った。

 細やかな装飾が施された大きな机にふんぞり返る老人の後ろには、女神の姿が象られた巨大なステンドグラスがある。

荘厳な空気が満たす裁きの場。だが、男は自分の上に投げられた言葉を受け入れる気にならない。

「なんだよ、そりゃ……ふざけるんじゃねぇぇぇっっ!!」

 カンカンッ!

 老人は木槌を叩きつける。

「抗弁は許されぬ! 被告はただ、裁きの時を懺悔と共に待つべしっ! 我らの国に……いや、この大陸全土に災いをもたらした罰を受けるのだな!」

 会場は拍手で包まれる。同時に、男への罵声が次々に吹き出してきた。美しい服や装飾品を身に着けた傍観者達は、姿に似合わない汚い言葉を惜しげもなく口にする。

「勝手なこと言ってんじゃねぇぞっ! お前らだろうがっ!! 俺がやってきたのは……ぜんぶ、全部お前らがやらせたことじゃねぇか!! それが……今さら罪だと!! 罰を受けろだとっ!! こんな……ふざけた話があってたまるかぁぁ!!」

 男は叫ぶ。だが、会場を埋める非難と罵倒の声に掻き消されるだけだった。

 男は叫び続けた。無駄なことだとわかっていても、どうしても受け入れることはできなかた。

「俺のしたことが罪なら! 俺らは何のために苦しんだっ! アイツは……何のために死んじまったっていうんだよぉぉっっ!!」

 男の声に応じるものはない。むしろ、声を上げるほどに、聴衆の騒ぎは大きくなる。しまいには、手に持っていたものを男に向かって投げ出した。

 ガツンッ!!

 ぶつかったものが何なのかはわからない。しかし、かなり固いものだったからか、男の額に傷がつく。

 ツーっと流れてくる血。男は額から口元へと流れる血を、ゆっくりと左手で拭った。赤く染まる手を見つめ、男は誓う。

 ――この国は救えるさ……だが救わねぇ。救いなんざ、くれてやらねぇ!

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