第3話
「あら? シエラは……赤髪のメイドはどうなさいましたか? マーカス様をお迎えに行かせたのですが……?」
「あ? あのガキなら、俺を置いてどこかに走っていっちまったよ。おかげで道に迷うところだったぜ……」
「そうだったのですか。姿が見えないものですから、てっきりマーカス様が食べてしまったのかと」
「……お前、朝っぱらからなんてことを言いやがるんだ。それでよくお姫様がやれるもんだ」
「訂正してください。ワタクシは『お姫様』ではありません。それに、何が問題なのですか? マーカス様は竜さえ食べると聞きましたが……人間は食べられないのですか?」
「ああ、そっちの噂か……竜なんか食えるわけねぇだろ。ていうか、メイドの娘を食うっていう言い回しは……ああ、もうどうでもいいや」
リィンは首を傾げ、不思議そうにマーカスを見つめている。だが、彼は無視することに決めた。
「んなことより朝飯だよ、朝メシ! 俺は腹が減ってんだ。うまそうな匂いがしたから、ここまで来たんだぞ!」
「そうでございました。朝食ならテーブルの上にございます。さあ、こちらにお座りください」
マーカスに席へと着くよう促すリィン。彼がイスに座るのを確認してから、向かいの席へと移動していく。向かいと入っても、長いテーブルの遥か反対側なのだが。
そこでマーカスは気付く。リィンが一人ではないことに。彼女の後ろには、背の高い黒髪のメイドがいた。しかも、とんでもない顔でマーカスを睨みつけている。どうやら、先ほどの二人のやりとりが気に入らなかったらしい。
だが、マーカスはその視線を意識の外に置き、目の前の料理へと目を向けた。
「こいつは焼き魚か? それに……こりゃクロノ鳥の卵だな。お、白いパンなんざ久しぶりだぜ!」
机の上に用意された皿を一つずつ確認していくマーカス。そして、それを手ずから口の中に入れていく。脇にあるナイフやフォークは一切使わずに。
「うん、うまいな! うん、美味い。うんうん、こいつもうめぇ!!」
「うふふ。マーカス様、そんなに慌てて食べなくても、食事は逃げたりしませんよ」
マーカスの食べっぷりを見て、リィンは思わず笑ってしまう。だが、後ろに控えているメイドの表情はさらに曇っていく。まるで、害虫でも見るような視線をマーカスに向けた。
「ぷっ……はぁ!! ああ、食った食った。ごっそさん!」
「それは何よりです。ではマーカス様、お約束通り、ワタクシのお願いを聞いていただけますね?」
リィンの言葉を聞いて、マーカスは一瞬、彼女に鋭い視線を向けた。だがすぐに頬を緩める。
「いいぜ。約束だからな。お姫様のお願い、聞いてやろうじゃねぇか」
ガンッ!
マーカスは両足をテーブルの上に投げ出し、座っていたイスに深くもたれかかった。つまり、足の裏をリィンに向けている状態である。
ここでついに、黒髪のメイドが怒りを爆発させた。
「貴様っ!! どういうつもりだ!! リィン様自らがお呼びになられたお客様だと思い、多めに見ていたが……これ以上の狼藉はこの私が許さないわよ!!」
「おいおい……こっちはお願いを聞いてやる立場なんだぜ? 俺の態度が気に入らねぇっていうなら、今すぐ出てってもかまわないぞ?」
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