第2話
赤髪のメイドが用意してくれたのは、白いシャツと紺色のズボンというシンプルな服。それを身に着けたマーカスは腰に、少女に案内されながら廊下を歩いている。
「少し小さい気がするが……まぁ、さっきの服よりはずっといいか」
キツキツの服が気になってしまうマーカス。だが一番の問題は腰に差した剣。愛用の剣をベルトに引っ掛けているのだが、重みでズボンが下にずり落ちそうになる。
「申し訳ありません。ここにはマーカス様ほど体の大きな男性はいらっしゃいませんので……」
赤髪のメイドは、マーカスのほうに視線を向けることなく告げる。その態度に、マーカスは少し苛立ちを覚える。
「さっきから、どうして俺のほうを見ないんだ? そんなに俺のことが嫌いか? ま、急に汚い男が転がり込んできたんだ。別に好かれると思っちゃいないが……それでも客に対する態度としちゃ、どうなんだ?」
マーカスの言葉に、メイドはギョッとした表情で振り返る。
「いえ、別に……! マーカス様のことを嫌っているとか、そういうのはなくてですねっ!むしろ逆というか……じゃなくて! マーカス様は寝る時もグローブをされているんですね!」
頭が混乱しているのか、メイドの少女は訳のわからない発言をする。だが、すでに引っ込みがつかないのか、ジッとマーカスを見つめたまま立ち止まっていた。
「あ、ああ……こいつは、な。俺の左手は傷だらけでな。どいつもこいつも、目にするだけで嫌な顔をするのさ。面倒だから隠すようにしてるんだよ……ていうか、そんなことを気にしてたのか、お前?」
「え、いえ、そうじゃなくて、ですね。あのマーカス様のはだ……じゃなくてっ! 私の名前はシエラと申します! そうお呼びくださいませ!!」
そう言うと、赤髪のメイド・シエラはそのまま廊下を駆けていった。
「おいおい、俺の案内は……って、行っちまった」
ポツンと取り残されたマーカスは、周りを見渡す。
長い廊下には様々な調度品が置かれ、床には真っ赤な絨毯が敷き詰められている。高い天井は、この建物の大きさを感じさせるものだ。右も左も同じような光景で、マーカスは完全に道に迷ってしまう。
「こんなところで置き去りにされて……どうしろって……お?」
マーカスは、自分の鼻先をかすめる微かな香りに気づいた。何かの肉を焼いた香ばしい匂い。まるで釣り餌に誘われる魚のように、マーカスは匂いを追って足を進める。
「ここか……匂い出処は」
マーカスが見つけたのは大きな両開きの扉。同じ廊下にある他の扉とは明らかに違うゴテゴテとした装飾品が付いている。
ギイィィ……。
マーカスが扉を押すと、重々しい音と同時に視界が開けていく。
大きな部屋の中に、長い机がある。マーカスの歩幅にして二十では足りないほどの机には、左右に十のイスが並べられていた。そして、かけられている真っ白いクロス。
「ここは……食堂か?」
マーカスは呟きながら部屋の中を見回した。真っ白な壁で囲まれている部屋の中には、大きな暖炉が一つ。今は火が入っていない。廊下とは違い、高そうな花瓶だの絵画だのは飾られていなかった。代わりに、一つだけ小さな絵が見えた。そこには幸せそうに笑っている親子が描かれていて……。
「おはようございます、マーカス様。昨夜はゆっくりとお眠りになられましたか?」
背後から聞こえた声にハッとするマーカス。振り返ると、そこには昨晩出会った少女――リィンの姿があった。
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