第3話

「ちょっと待ってくださいませ!」

 マーカスの目の前に急に現れた影。それは、先ほどまで酒場にいた金髪の女、リィンである。

「なんだ……お前まだいたのかよ。誰だか知らないが、俺に関わるな」

「そういうわけにはいきません。あなたにどうしてもお願いしたいことがあります、マーカス=フェルドミラー様」

「……俺のことを知ってるんなら、なおさら近づくなよ。俺は」

「大罪人マーカス。そして大陸最強を謳われるお方でございましょう? だからこそ、あなたにお願いあるのです」

「断る」

 マーカスはリィンと目を合わせないように視線をそらす。それと同時に、彼女を躱して歩き始めようとした。

 しかし、リィンが再び前に立ちはだかる。今度は両手を広げて、精一杯道を塞ごうとしていた。

「お願いします。どうか、ワタクシたちをお救いください!」

「勝手に話を進めるんじゃねぇよ。お前の話になんか興味は……」

 ぐきゅるるるぅぅぅう~~~!!

 マーカスの腹が鳴った。旅の間、ずっと我慢していた……というよりも、無感覚になっていたが、食事を前に空腹を自覚したのだろう。

 しかし、ほとんど腹に入る前に、ゴミになってしまった。おかげで、空腹を告げる爆音が通りに響いてしまったのである。

「……そうだ。そこまで言うなら、話を聞いてやらないこともないぞ」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ、だが条件がある。メシだ。それもただの食い物じゃダメだ! 誰もが唸るようなうまいメシ! それに酒もだ。口に含むだけで芳醇な香りが鼻を抜ける最高級の酒! ついでだからデカいベッドで眠りたいね。俺が両手両足を広げても、余りが出るような……そう! 王様が寝るようなヤツだ!」

 マーカスは自分が思いつく限りの贅沢について語る。それも、まるで子どもに読み聞かせる御伽話に出てくるような、拙い願いの数々を。

「これを全部用意できるっていうなら、話くらいは聞いてやるよ!」

「そ、そんな……」

「な? 無理だろう? 俺の願いが聞けねえなら、お前の願いも聞いてやれ……」

「そんなことでよろしいのですか?」

「……あ? 今、なんだって?」

 マーカスは思わず聞き返してしまう。自分の想定とまるで違う答えが返ってきたからだ。

「ですから、そのような願いで充分なのですか?」

「いや、待て。ついでだから、美人のメイドもつけてもらおうか!」

「わかりました。では、そのように手配します。では、参りましょうか」

 リィンはにっこりと微笑む。そして、マーカスの手首を掴むと、彼を引っ張るのように歩き始めた。

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