第3話 突然の襲撃


 ――翌日の昼下がり。

 太陽が灼熱の視線で大地を睥睨する快晴の空の下、ヤマト自治区に住む民はその異様な光景に我が目を疑っていた。

 陽炎の中、まるで蜃気楼のように現れたのは、二つの巨大な影。

 誰かが、うめくようにその名前を口に出す。

「《ミョルニル》だ……」

 胴体や四肢が丸く膨らんだ独特の形状をしたそれは、帝国が数種類製造している量産型騎士の中でも最新の型だ。特徴は、膨らみによって堅牢さを増した装甲の中に格納された各種兵装で、それを使えば単騎でも町一つすら焦土へと変貌させてしまうほどの威力を誇ると恐れられている。

 古代人の作っていた土人形のような姿からは想像もできない、下卑た笑い声が外部スピーカーから響く。

『ぎゃははは!黄色い猿のオアシスだぜ?ギール』

『まぁ、どこ行っても俺たちのやる事は同じだ。おいサル共!飯と水出せ!さもねえとこの村ぶっ壊すぜ!?』

 無邪気にすら聞こえる忠告とは裏腹に、展開された腕部から覗く射出装置には、攻城弓で使う為の大型の矢がつがえられていた。 

 

 突然の襲来者に、平穏だったオアシスはハチの巣をつついたかのように騒然となった。

「食料や水を準備するにも、少し時間がほしい」

 ヤシロが出したこの意見を、イラつきながらも襲撃者たちは渋々飲んだ。制限時間から一分遅れる毎に住人を一人殺すという条件つきで。

 アマツたちは、その間に族長の屋敷で緊急会議を開いていた。

 飲食物の確保と運搬方法を議論しようと考えていたのだが――

「ただ、黙って言いなりになるのか?」

 革命派の一人が発したこの言葉から、「従うか、抵抗するか」という根本の議論へと論点が移ってしまっていた。

「ゲールドめ!こんなところまで来やがって!」

「ちょうど良い腕試しだ。アマツ!やつらを俺たちの手で倒しちまおう!」

 自分たちの力を示す絶好のチャンス、と息巻く革命派。

「相手は水と食料だけを求めているのだから、今ある分だけ差し出して、おとなしく帰ってもらうのが良い」

「もし抵抗して相手を逆上させてしまえば町が壊滅してしまう!」

 窓の外に悠然と立つ巨体におびえる穏健派。

 口角泡を飛ばす激しい舌戦を黙ってみていたアマツの胸中には、あきらめにも似た複雑な感情が渦巻いていた。

(また、同じか……)

 自分たちが抵抗活動をしようと決定した時から変わっていない意識に、心の内でため息を吐き出す。

(自分も含め血気にはやる者と、自分は関係ないと傍観して不干渉を貫く者――これが、ヤマンチュールの現状なのだ)

 決して抵抗しない者たちを責めようというつもりはない。自分たちの現状をこれ以上に悪化させないためには必要という事もわかるからだ。

(しかし……)

 このまま従順な姿勢をとり続けるだけで良いのだろうか――そんな疑問が心の奥でくすぶるのだ。

 現に払う税は上昇が止まらず、兵員を出せという要求も再三に渡ってきている。このままでは今回の襲撃を切り抜けてもいずれは――しかしこれを話した所で、穏健派はただ革命派を責めるだけで終わってしまうだろう。

 では、どうすれば――。

「アマツ、そろそろ時間だ」

 ヤシロの声に、両陣営の視線が一斉に議長である自分へ注がれる。

 周囲を見回した後、アマツはヤマンチュール族長として言葉を口に乗せる。

「俺たちは――」

 ――バン!

 アマツの宣言を遮るように、議場の扉が勢い良く開かれた。

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