第32話 落とし穴

猫神さまの世界 第32話




「では、少し失礼しますね」


そう言って僕は、彼女こと高坂いぶきに向かって祈った。

今だロベリアさんと二人の女性奴隷は服選びに夢中だ。僕が店の片隅で高坂さんに向かって祈っていても気づかれないだろう。


僕が祈りをささげると、すぐに創造神様のもとに送られる。




▽    ▽




いつもなら、祈りをささげて目の前に創造神様なのだが今回は違っていた。


『ありがとう~、コテツ君!』

「わっ」


金髪のストレートの髪をたなびかせて、美人の女性がお礼を叫び飛び付いてきた。

とっさのことで足に力が入らず、僕とその美人さんは一緒に倒れる。


『こらこら、いきなりコテツ君に抱き着く者がおるか』

『でも、コテツ君のおかげで問題が一つ解決できたんです。

喜んで何が悪いんですか、創造神様?』


『別に喜ぶなとは、いってないだろ?』


今だ抱き着いている美人はおいといて、いつものように創造神様が目の前に現れた。

若干いつもと表情が違い、呆れているのはこの女性の所為だろう。


僕は抱き着いている女性の頭を撫でながら、創造神様に挨拶する。



「お久しぶりです、創造神様」

『久しぶりだねコテツ君、彼女を異世界人を見つけてくれてありがとう』


「創造神様が、探しておられたのですか?」

『いやいや、彼女を探していたのはコテツ君にしがみ付いている女神だよ』

「この方が、女神様なのですか?」


頭を撫でることをやめ、抱き着いている女性を見ると女性も僕を見ている。

そしてニコッと笑顔になると、僕を解放して立ち上がった。


女性が立ちあがり、抱き着きから解放されると僕も立ち上がる。


『初めましてコテツ君、私は空間を司る女神です。

地上ではニーベルと呼ばれて崇められているわ、一部の人にだけど……』


『フフ、まあ空間の女神は名が通っているとは言えないからね。

でも、勇者召喚をはじめ異世界との繋がりや行き来に関しては彼女の力なくして語ることはできないだろうね』


「では、地上に勇者召喚を伝えたのは……」

『いや、それは別の女神がしでかしたことだ。

おかげで、空間の女神も仕事が増えて大変な目に合っている』


『そうなんです! 可愛がっていた巫女のお願いをホイホイ聞いちゃってあの駄目神!

おかげで、私がこんな苦労するはめにっ!!』


……神様の世界にもいろいろと事情があるんだな。

でも、勇者召喚を伝えたものと管理しているものが別とは知らなかったな。



「あの、高坂いぶきさんのことも空間の女神様は知っていらしたんですか?」


今まで怒りに拳を振り上げていた空間の女神様が、僕に向き直り話してくれる。


『コテツ君、彼女の場合は私たち神が関与したり、勇者召喚に巻き込まれたり、まして地球の神様たちが関与しているわけではないの。

時空乱流って聞いたことない?


SFの物語でよく出てくる時空の落とし穴。回避不可能で落ちると全く知らない場所に飛ばされてしまうの』


『彼女はその穴に落ちてしまい、この世界へ来てしまったんだ。その証拠が彼女に異世界言語翻訳のスキルがないことだ』


『私は時空の落とし穴に落ちて、この世界に来た彼女の存在は知っていました。

でもどこにいるかは分からなかったの、だからずっと探していた。

地上の妖精たちや精霊を使って探したんだけど、結局見つけることはできなかった』


「そこへ、僕が見つけてここに来たってわけですか……」


だから、抱き着くほど喜んでいたのか。

でも、神さまでも見つけられないことってあるんだな……。



「それで、高坂さんに翻訳スキルは与えられるんですか?」

『勿論、私が責任をもって彼女にスキルを贈らせてもらうわよ』


空間の女神様、いい笑顔です!


『でも、彼女の願いでもある元の世界へ帰すことはすぐには無理だな。

地球の神様たちと連絡を取って調整しないといけないから、時間がかかることを彼女に詫びておいてくれるかいコテツ君』


「はい、僕も神の一柱ですからすぐに物事が解決できるとは思っていません。

でもなるべく早く高坂さんを、元の地球に返してあげてください」


『わかった、私も頑張ってみよう』


創造神様との話を終えると、高坂さんにスキルを贈っていた空間の女神様が僕に話しかけてくれる。


『コテツ君、彼女にスキルを贈っておいたわ。こちらの世界に落とされて大分時間が経ってしまっていたから三つしかスキルを贈れなかったけど、地球に帰るまでの間に他のスキルも学べると思うわ。


だから、諦めずに頑張ってと伝えておいてね?』


「はい、空間の女神様」




▽    ▽




こうして僕は、創造神様たちの空間から地上世界へと戻ってきたのだけど、創造神様の空間は時間の経過がないから高坂さんからは、僕が祈ってすぐにやめたように見えるだろうね。


「高坂さん、この世界の神さまにお願いしてきました。

スキルも贈られたはずですから、もう言葉がこの世界の人と通じるはずですよ」

「え? えっと、どういうこと? 説明してくれる?」


僕は創造神様の空間での話を簡潔にする。

高坂さんは信じられないって顔で聞いていたけど、話し終わると考え込んでしまった。


多分迷っているんだろう。

でも、そんな高坂さんの迷いもロベリアさんの言葉で吹き飛んでいった。


「コテツ君、こっちの服はどうかな? 彼女に似合うと…って大丈夫?」


僕もロベリアさんが見て驚いていた高坂さんを見ると、泣いていた。

高坂さんは、ロベリアさんを見て涙を流していた。



「……わかる、言葉が分かるよ……」







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