第31話 迷い込んだ世界で

猫神さまの世界 第31話




結局、奴隷商会で僕が購入した奴隷は、女性奴隷を三人だけ購入しました。


まずは、名無しと呼ばれていた女性奴隷。

あの後気が付いて、僕に引き渡された後、僕から彼女に教えてあげたら顔をくしゃくしゃにして泣きながらお礼を言ってくれたっけ。


周りは不思議に思っていたみたいだ。

何せ、聞いたこともない言葉で女奴隷が僕の手を握りしめて号泣している光景はおかしかったのだろう。



次は、昔貴族だったらしい女性奴隷のアシュリー。

昔貴族だったといっても幼い頃の話で、今、十五歳の彼女からすれば今さらである。

親が作った借金で家は没落、それでも借金が返せず借金奴隷へ。


今の今まで誰も買わなかったのは、元貴族の娘というところが引っ掛かったのだろう。

現に、彼女は何もできなかった。

奴隷となってからも、何を学んでも何もできなかったのだ。


だからだろう、彼女を購入するといった時、彼女から元貴族の娘であること、何も学べなかったことなどを話してくれて僕に忠告してくれたぐらいだ。



最後に購入したのは、僕と同じ猫獣人の女性奴隷。

名前はキュロ。元メイドで、仕えていた貴族家で不興を買い奴隷落ちになった。

元メイドということもあり、二十歳という年齢にもかかわらず家事全般ができる。


前の二人は家事ができなかったので、彼女を購入することにしたのだ。



「それにしても、費用がギルドマスター持ちなんて大丈夫なんですか?」

「大丈夫よ、コテツ君。その辺はギルドマスターから許可とってあるから」

「そうなんですか……」


ロベリアさんに聞いたところ、メイドさんなどを雇うということになれば、最初の一年分の給与は出せるがそれ以降は僕たちでとのこと。


だから、奴隷を購入してメイドとして家におく方が安くすむらしい。

ロベリアさんも、一応ギルドマスターの懐事情を考えていたのだろう。




三人の奴隷を引き連れて、屋敷に帰る前に身の回りの物や服などを購入に行くことに。

まずは、古着を扱う服屋さんへ。


「いらっしゃいませ~」


「ちょっと服を見せてもらうわね」

「はい、どうぞ~」


イマイチやる気のない青年の店員をほっておき、ロベリアさんはアシュリーとキュロと一緒に服を選び始める。


僕は、その間に名無しさんのことをいろいろと聞かせてもらおう。

三人から少し距離を置き、店の隅で二人で話し合った。


「まずは、初めまして。僕はコテツと言います。あなたの名前を教えてもらえますか?」


僕が店の端に手を繋いで連れていくことに少し怖がっていたが、名前を知りたいということが分かると途端に安心した顔になる。


『言葉が通じるって、こんなにも安心するのね……。

初めまして、私の名前は高坂いぶきって言います』


「高坂いぶきさんですね? 下の名前の漢字は?」

『伊吹って書きます。 ……漢字が分かるってことは、コテツ君って日本人?』


「正確には日本で神様をしています。 こっちにはこちらの神様のお手伝いで来ているんですよ」

『コテツ君、神さまなの?』


「そうですよ、こんな姿でも日本に帰れば元の姿に戻ります。

この姿はこちらの世界での仮初の姿なんです」


『へぇ~』


高坂さんが僕の姿を、上から下からじっくりと見ている。

でも、世間話はこれくらいにして、高坂さんが何故こちらの世界に来たのか聞いて創造神様に報告しておかないとな。



「では、高坂さん。あなたに聞いておくことがあります」

『は、はい、なんでしょう』


「高坂さんはどうやってこの世界に来たか覚えていますか?」

『……はい、覚えています』


高坂さんは下を向き、思い出しながら話してくれた。


『あの日、私は学校の帰りでした。時刻は夕方、部活で遅くなったのを覚えています。

いつも通る駅の改札を抜けた瞬間、周りの景色が変わったんです。


そこは土がむき出しの道のようになっている地面、両側は草原が広がり所々に木が生えていて、少し草原を行くと森が広がっているようでした。


……私は訳が分からず、人を探して歩きました。

歩いて、歩いて、歩いて、ようやくであった人が盗賊だったようで……』


そこで高坂さんは、自称気味に少し笑った。


「盗賊……」

『ええ、でも私はそんなの分からずに話しかけた。

ここはどこなのか、どうすれば帰れるのかとか……でも、言葉が通じなかったんです。

何を言っても、何を聞いても通じないし分からなかった』


「そんな経緯でこの世界へ来たんですね……」

『……盗賊に捕まった後は、身ぐるみはがされて粗末な服を着せられ奴隷として売られたみたいです。

私と同じように、首輪を嵌めた人たちがいっぱいいましたから……』


僕は落ち込む高坂さんの手を握ると…。

「高坂さん、もう大丈夫です。日本に帰れるかは分かりませんが、僕に任せてください。

これでも僕、日本の神様の一柱ですから何とか頑張ってみますので」


『……ありがとうございます、神様…』


高坂さんは、泣きながらも笑顔を見せてくれた。








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