第28話 昇格試験
猫神さまの世界 第28話
王都からルビリストの町へと通じる街道を進む三台の馬車。
真ん中の馬車には荷台に大きな牢屋が作られており、その中には十人の奴隷が入っている。
その奴隷の大半は女性だが、その中に明らかに他のものと違う髪の女性がいた。
黒い髪の女性は、体育座りで膝を抱え俯いている。
周りから声をかけるものはいない、何故なら言葉が通じないからだ。
それは黒髪の女性も分かっていた。
だからこそ、誰にも関わらないように俯いているのだから……。
どこに運ばれているのか分からない、不安しかない彼女にとってこの時間は心が押しつぶされそうになるほど苦痛だった。
だが、そんな馬車での移動時間も突然終わる。
いきなり馬車が急停止したかと思うと、牢屋の外から聞こえる怒号、悲鳴、そして戦闘音。
戦っている、何者かと何者かが……。
彼女にできること、それは膝を抱えて震えることしかできない。
何が起こっているのか、牢屋の中では外の音しかわからない。
牢の中にいるほかの奴隷たちも不安でいっぱいなのか、皆で固まっている。
『何なの? 私が何したっていうのよ………』
それは、他の奴隷たちが聞く初めての言葉。
聞いたことのない言葉は、さらに不安をあおり彼女だけを遠ざけみんなで固まった。
時間にしてどれくらい立っただろうか、突然外から聞こえていた音が消えた。
それは彼女たちをさらに不安にする。
牢の中の奴隷たちが怯えて震えていた時、突然天地がひっくり返った。
そして、彼女たちは気を失う。
▽ ▽
「コテツ君、冒険者ギルドのギルドマスターの要件って何だったの?」
冒険者ギルドから運搬ギルドへ戻ると、すぐにシャロンさんが僕に近づき聞いてくる。
ダンジョンの件から僕のことが心配でしょうがないんだろう。
シェーラさんも同じような感じだったし……。
「ダンジョンマスターの件でお礼をくれるそうで、何がほしいのか聞かれました」
「冒険者ギルドがお礼って、珍しいわね」
運搬ギルドの受付嬢ミーナさんが、僕たちの会話に入ってくる。
「ミーナの言う通り、確かに珍しいわよね。
冒険者ギルドは基本ケチだし……」
「確かロベリアさんの話では、専用ダンジョンのおかげでかなり儲けが出るとか」
「それね」
「それだわ……」
シャロンさんもニーナさんも納得したように頷いている。
「それで、コテツ君は何をお願いしたの?」
「はい、家が欲しいとお願いしました」
「家? コテツ君はこの町ルビリストに定住するの?」
「はい、そのつもりです」
それを聞いたシャロンさんが、もじもじしだした。
何か言いたそうにしているのだが、言えないって感じだ。
そこへ一仕事終えて帰って来たシェーラさんが、僕たちに近づいてくる。
「コテツ君、ただいま~」
「あ、お帰りなさいシェーラさん。緊急依頼はどうでした?」
今帰って来たシェーラさんは、運搬ギルドの運搬人二人を連れて冒険者ギルドの緊急依頼に同行していた。
依頼内容は、この町ルビリストへ向かっている奴隷商の馬車三台が襲われたというものだった。
護衛の冒険者や奴隷商で雇っていた護衛たち、それと奴隷商人や小間使いの者などが襲われて大怪我を負わされたとか。
犯人は盗賊団らしく、人数が多かったことしかわからず冒険者ギルドに討伐依頼が緊急で持ち込まれた。
さらに、盗賊たちは奴隷たちには一切手をつけずに馬車一台と金品を強奪して去っていったとか。
ただ、報告を遅らせようと残った馬車に代を魔法で転倒させて逃げたそうだ。
「もう大変だったわよ、特に奴隷たちを運ぶのに苦労したわね」
「あら、馬車で行ったんでしょ? 乗せればよかったんじゃないの?」
「それが、奴隷たちが乗っていた馬車は魔法でひっくり返っていたの。
中の奴隷たちは、軽い傷で済んだけどみんな気を失っていたから運ぶのが大変。
私たち運搬ギルドが用意した馬車は一台だったから、往復するはめになったしね」
「それは大変だったわね……」
シャロンさんもシェーラさんの大変さが分かったのか、いつもと違って労っている。
「冒険者の人たちは盗賊退治に?」
「ええ、特に何人かの冒険者は鼻息荒く盗賊退治に向かっていたわね」
「たぶんその冒険者たちは、昇格試験に臨む人たちですね」
「昇格試験ですか? 緊急依頼を使って?」
ニーナさんの言葉に僕は質問してみる。
「緊急依頼を使ったじゃなくて、緊急依頼が昇格試験になっているのよ」
「……えっと?」
「ギルドによって昇格試験ていうのは違うの。
その内容も千差万別、いろんな依頼を使うのよ。
もちろん、依頼者には分からないようにね?」
「はい」
「冒険者ギルドには上位の昇格試験に『緊急依頼の成功』『貴族の依頼の成功』というのがあるの。
しかも、その依頼が入らないと昇格試験は延期ということになっているのよ」
「それじゃあ、いつまでも昇格できなくなりますよ?」
「だから、上位昇格試験にだけ採用されているのよ」
冒険者ギルドは、上位冒険者をつくりたくないみたいな制度だ。
「そういえば、そんな運任せの昇格試験って運搬ギルドにもあったわね」
「ああ~、ありますね」
「あるんですか? この運搬ギルドに」
「コテツ君は心配する必要はないのよ~」
シャロンさんはそういって僕の頭を撫でてくれた。
「コテツ君、運搬ギルドのランクは知っているよね?」
受付嬢のニーナさんが、覚えているかな~って顔で聞いてくる。
完全に子ども扱いだな……。
「ランクFから始まって、E、C、B、A、Sの六段階ですよね?」
「正解~。 で、そのSランクに上がる昇格試験が厳しいのよね」
「どんな試験なんですか?」
「『空間魔法』の習得よ」
「……それって」
「そう、だからコテツ君は心配ないって言ったんだよ~」
シャロンさんは僕の頭を撫でながらそう言ってきた。
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