第27話 新たな火種

猫神さまの世界 第27話




王都に店を構えるある奴隷商の地下室。

ここには、教育が必要な奴隷や王都で売れない奴隷が入れられていた。


ここに入れられている奴隷は、この地下室で声を上げることはない。

それは、この地下室の奴隷たちを世話するものがしっかりしているからだ。

つまり、奴隷たちから信頼されているということだろう。


今世話をしている男以外の日は、騒がしくしてムチという名の教育を受けるときがある。


そして、ここに入れられた奴隷は地方に運ばれることが決定している。


教育が必要な奴隷は、地方のある場所で奴隷であるための最低限の教育がおこなわれる。

王都で売れない奴隷は、地方で売りに出されそこでも売れ残る場合は鉱山へ送られるらしい。




今、彼女は怯えていた。


街道を歩いていたら、盗賊に身ぐるみはがされここの奴隷商に売られる。

性的暴行を加えられなかったのは、盗賊が女に興味ない男好きだっただけ。


奴隷商が性奴隷扱いしないのは、言葉が通じず意思確認ができなかっただけと、彼女は運が良かった。


だが、さっきも言ったが彼女は言葉が通じていないため運が良かったことが分からない。

奴隷商たちが何を話しているかも、盗賊が何を言ったかもわからなかった。


只々、彼女は怯えるだけだった。



彼女が入っている牢屋の前で、見張り役の男が止まる。

奴隷たちに夕食を運んできたのだ。


「おい、夕飯だぞ」

『?』


「ちっ、言葉が通じねぇから取りに来れねぇか……」


男はそう愚痴をこぼして、牢屋の扉を開けて中に食事の入った木の食器を入れる。


「ほれ、食え」


女の子は、運ばれた食事を見て男に頭を軽く下げて食事をする。

男は牢屋の鍵を閉めながら…。


「ふむ、こうして見てるとある程度の教養はあるみてぇなんだよな……。

ただ、言葉が通じねぇだけかもしれねぇな……」


彼女の対して、考えていると階段を上から降りてくる音が聞こえた。


誰が降りてきたのかと、階段の近くに行くとそこにはこの商会の会頭が姿を現した。



「旦那様、こんな所へどうしましたか?」

「ビグか、いつも食事当番ご苦労様」

「いえ、この地下室の世話は当番制で任されてますんで……」


「それでもだよ、ビグの世話の日はここの奴隷たちはおとなしいからね」

「ありがとうございます、旦那様」


「ああ、それでねこの地下室にいる奴隷をみんな地方へ送る日が決まったんだよ」

「へぇ、それでいつになるんですか?」


「二日後だ。二日後、ルビリストへ送ることが決まった」

「ルビリストですか、あそこは結構大きい都市でしたね」

「それに、今あそこは新しくできたダンジョンが話題になっているからね。

売れなかった奴隷たちも、売れてくれるだろう」


ビグという男は、地下室に広がる数多くの牢屋を見渡しながらここにいる奴隷たちの幸せを祈るのであった。



奴隷を扱っている者や世話をしているものが、奴隷の幸せを願うのもおかしな話ではない。

この国では、奴隷の扱いがちゃんと法で決まっているからだ。

だから、性奴隷になる場合は奴隷本人の意思確認が重要となる。


他にも、強引な教育や暴行などは禁止されているし、ある程度の人権も認められているのだ。

さらに奴隷の扱いも細分化され、借金奴隷、犯罪奴隷、性奴隷、労働奴隷、などに別れている。




▽    ▽




今日、僕はいつものように運搬ギルドへ顔を出すと冒険者ギルドへ行くように言われる。

何かあったかなと、疑問に思いながら冒険者ギルドへ行くとギルドマスターの部屋へと通された。


「待っていたよコテツ君、さ、座ってくれ」


ギルドマスターの部屋には、ギルドマスターとロベリアさんが待っていた。

薦められ、僕がソファに座るとギルドマスターは話をしてくる。


「実は、コテツ君に冒険者ギルドからお礼をしたいと思っていてね」

「お礼、ですか?」

「そうだ、例の冒険者ギルド専用ダンジョンのことだよ。

君のおかげで、ダンジョンマスターと交渉できるようになってね」


「たまたまですよ、そんなお礼なんて……」


「コテツ君、私としてはもらってほしいのよ」

「ロベリアさん」

「今回の件で、冒険者ギルドはかなりの儲けが出るのよ。

それで、その使い道でまずコテツ君に報酬を出す話に決まったの。

だから、コテツ君が受け取ってくれないとその後の使い道が決まらないのよ」


お礼と言われても僕はダンジョンマスターの提案を伝えただけなんだけどね……。

創造神様に確認している間に、ダンジョンマスターは決心してたし。


「……わかりました、その報酬受け取ります」


「ありがとう、コテツ君」

「それでだコテツ君、君は今何がほしい?」


僕が今欲しいもの……欲しいもの……。


「……家」

「ん?何か欲しいものが見つかったかね?」

「はい、僕はこの町に家が欲しいです」


「コテツ君は、この町に定住するの?」

「はい、今は宿生活ですけど僕料理が得意なんですよ」


地球にいた頃は暇だったんで、よく自分で料理とかしていたな……。

凝ったものなんかもしていたけど、こっち来てからしてないし久しぶりに料理がしてみたい。

でもそのためには、自分の家がないとね。



「よし分かった! コテツ君にふさわしい家をこちらで用意しよう。

ロベリア、君が責任を持ってコテツ君に家を薦めてくれ。

必要経費はすべて冒険者ギルドのギルドマスターである私がもつ!

頼んだよ?」


「はい!お任せください!」


ギルドマスターに、頭を下げたロベリアさんの口元がおかしかったことは黙っておこう。

それにしても、持ち家か……。






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