第26話 事態は動いていく

猫神さまの世界 第26話




ダンジョンから帰還して二週間が経過した。

あの後、冒険者ギルドのギルドマスターからいろいろと問い詰められたが、ロベリアさんが間に入ってくれたおかげで落ち着いて話すことができた。


専用ダンジョンのことを最初聞いた時は信じられないという顔だったが、ダンジョンマスターと何度も手紙での話し合いの結果、冒険者専用のダンジョンを造ることで合意。


今、この町の冒険者ギルドは通常業務と合わせて大忙しの日々らしい。

特に、王国の偉い人たちとの話し合いがつらいと愚痴をもらしている。


そうそう、冒険者専用ダンジョンは調整が難航しているらしくもう少しかかるとロベリアさんから聞いた。




安西さんも、冒険者ギルドとの手紙のやり取りで交渉できるダンジョンマスターということで有名になりつつある。

特に、ダンジョン研究をしている人たちからの質問攻めが鬱陶しいとか愚痴をもらしていた。


関係者以外立ち入れない場所が一階層にでき、そこにダンジョンマスターの住んでいる最下層との直通転移魔法陣ができた。

時々僕もこれを使って会いに行っているが、行くたびにダンジョンの構造が変わっていっている。


どうやら、冒険者専用ダンジョンを造るための練習をしているとのこと。




それと、創造神様からダンジョン神のことについて報告があった。

安西さんは地球で亡くなったため、ダンジョンマスターに選ばれたのだとか。


ダンジョン神様は、生きている人を無理やりダンジョンマスターにすることはなく死んだ人の魂をダンジョンマスターに転生させているそうだ。


だから、他のダンジョンマスターに会ったときはその辺りを踏まえてケアをお願いできないか僕に頼んできた。


僕は今後ダンジョンに潜ることがあるか分からないが、一応了承しておいた。

地球の神の一柱として、出来ることはしておきたいしね。


でも、何でダンジョンマスターを亡くなった地球人から選んでいるのかな?




そうそう、僕が荷物持ちとして一緒にダンジョンに潜っていた運搬ギルドのジャックとケイニーだけど、大きな傷もなく適切な治療を受けれたことで今では職場復帰している。


あと、シャロンさんとシェーラさんはダンジョンの件があってから僕とのパーティーを強く望むようになった。

あんなに心配するぐらいなら、側についていてあげたいってことらしい。



あ、あと僕を雇っていたオーバンスという冒険者貴族たちだけど、傷が癒えると王都に帰っていったらしい。

何でも、王都にいる偉い人から呼び出しを受けたんだとか。




▽    ▽




王都の冒険者ギルドの特別室。

この部屋は冒険者をしている貴族に、内密に貴族が会う時に利用される部屋だ。

今この部屋には、三人の貴族がいた。


「さて、オーバンス・ハロルド。呼びだした理由はわかるわよね?」


一人掛けのソファに座り、跪いているオーバンスに声をかけるこの女性こそ獣人狂いとして貴族から嫌われているリーマ・ルベリデールその人だ。


「はい、私が差し上げた手紙の内容についてですね?」


「そう!私はそれが聞きたかったのよ。それで、あなたの言う獣人は手に入ったのかしら?」


「それは…」


「あの手紙には、私に献上したいと書いてあったし、可愛らしい猫獣人なのでしょ?」


焦るオーバンスを、冷たい目で見るリーマ。

ここ最近のオーバンスの行動など、手紙を受け取ってから調査済みだ。

だから、猫獣人を献上できないことも知っている。


だが、ここはあえて知っていても知らないふりをして質問している。

リーマの貴族に対する嫌悪がみてとれた。



「申し訳ございません、献上できる猫獣人の確保に失敗いたしました……」


「そう、残念ね……。でも、諦めることはしないのでしょ?」


「勿論でございます。

再びかの地に赴き、猫獣人を手に入れて見せます」


リーマは満足そうに頷き…。


「よろしい、オーバンス・ハロルド殿。あなたの名前、憶えておきましょう」


リーマは立ち上がると一緒に来ていた侍女とともに部屋を出て行った。

扉が閉まると同時に、オーバンスはその場に崩れ落ちた。


猫獣人を手に入れる前にリーマに手紙を出してしまっていた自らの失態。

リーマはあきらめるということを知らない貴族。


もし再び手に入りませんでしたなんてことになれば、ハロルド家に迷惑をかけてしまうかもしれない……。


オーバンスは自らの行動で、追い詰められていた。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る