第23話 階層落ちの先は…

猫神さまの世界 第23話




「はぁ~、心配だわ……」


運搬ギルドの受付の目の前にあるソファに座り、ため息を吐きながら心配しているシャロンがいる。

そして、シャロンの後ろには妹のシェーラが同じようにため息を吐きながら心ここにあらずという表情をしていた。


「……シャロンもシェーラも、受付の目の前で落ち込まないでくれる?」

「ダメよニキ。二人とも心配なのよ、コテツ君がダンジョンへ行っちゃったから」

「だからって、受付の目の前でああも落ち込まれたら邪魔でしょうがないわよ」


運搬ギルドの受付嬢二人は、ソファで落ち込む二人にイライラしていた。

そんなに心配なら、ついていけばよかったのにと言いたいところを我慢する。


コテツを送り出してから、シャロンもシェーラもずっとこんな感じなのだ。

受付嬢のイラ立ちも分かるってものだ。


そして、衝撃の知らせは突然やってくる。



運搬ギルドに、冒険者ギルドの使いが走りこんできた。


「た、大変だ!

ダンジョンへ行っていた、おたくの荷物持ちが大怪我をしたって知らせだ!」


受付嬢をはじめ、シャロンやシェーラもその知らせに立ち上がるほど驚く。


「それで、誰が大怪我をしたの?!」

「ジャックとケイニーっていう男二人だ。

他にも冒険者の『鳳凰騎士団』のパーティー全員が、教会に運び込まれた」


「コテツ君は?! 猫獣人のコテツ君がいたはずなんだけど……」


シャロンは今にも倒れそうな顔色で、知らせに来た男に聞く。


「………いや、教会に運び込まれた中に獣人はいなかったが…」


「あぁ……」

そう言って倒れたのはシャロンではなく、その後ろにいたシェーラだ。


「シェーラ!? 確り、シェーラ!」

「おい、救護人を呼んで来い!」

「シェーラさんが倒れたぞ!」


運搬ギルドは、大パニックになった……。




▽    ▽




……ここは、どこ?


「どう? まだ起きそうもない?」

「階層を三つも落ちたからね、他の人たちも大ケガみたいだったし」

「マスターの凶悪なトラップの所為ですね」


……階層三つ? そういえばダンジョンの罠で落とされたよね……。


「悪かったよ……でも、ちゃんと助けただろう?」

「助けたって、応急処置と入り口へ転移させただけでしょう?」

「相変わらずの引きこもりですね、マスター」


助けたって誰を……?


「引きこもり言うなっ!

ダンジョンマスターなんだからダンジョンから出られないだけなの!」


「ダンジョンマスター?!」


「あ、起きた」


僕が驚き、目を覚まして起き上がると目の前には男の人と女の人が二人いた。

僕の側に男の人が、少し離れたところに女の人が二人僕を見ている。


「やっと起きたか、どこか痛いところはあるか?」


側にいる男の人は、僕の額に手を当てて聞いてくる。


「いえ、痛いところはありません……」

「熱は………ないな。 よかった、どうやら完全に回復したようだな」


男の人がホッとすると、女の人達も同じようにホッとしたみたいだ。

しかし、すぐに男の人は真剣な顔になって、僕に頭を下げてきた。


「すまない、浅い階層にあんな凶悪なトラップを仕掛けてしまって」

「ゴメンね、ボク。 全部こいつの所為だから、恨むならこいつだけにね」

「そうそう、マスターは極悪人だから」


「しょうがねぇだろ、俺はダンジョンマスターなんだから。

俺が死ねば、お前たちも消えるんだぞ?」

「……消えるのヤダ」

「早くダンジョン完成させて、次に行こう!」



僕の目の前で、三人のおかしな会話が繰り広げられている。

自分の身体をあちこち触ってみるが、痛い所は無かった。

また、服が所々破けていたが、傷もないようだ。


「あの、なぜ僕はここにいるんでしょうか?」


この人たちの会話を聞いていて、おかしな発言があった。

少し冷静になって、周りを確認するとここはおかしな空間だった。


ザッと見ただけだが、本棚がありそこには日本の漫画が並べられていた。

薄型テレビやゲーム機、さらに僕が寝かされているベッド。

ここはまるで、日本のどこかの家の部屋の中みたいだ……。


「君は、こいつの罠にはまって階層落ちしたんだよ? 覚えてないかな?」

「いえ、それは覚えてます。

そうだ、他の人たちは………さっき話してましたね」


「ああ、君と一緒に階層落ちした人たちだろ?

ちゃんと、ダンジョン入口まで運んでおいたよ」

「応急処置もしておいたから、大丈夫」


誰も死んでいないのか、ジャックさんもケイニーさんの無事でよかった。


「それで、僕は何故ここに……」

「ああ、その理由がまだだったな。 君、ただの獣人じゃないだろ?」

「え?」


「君の、コテツ君のステータスを見せてもらったんだよ。

僕には、ダンジョンマスターとしての時別な鑑定スキルがあるからね」


ダンジョンマスター?

目の前の男の人が?

いや、それよりも僕のステータスを見た?


「驚いたろ? ダンジョンマスターの能力は神に匹敵するからどんなに隠しても見えてしまうんだ」

「理不尽極まりないけどね」


神に匹敵するってすごいな……。

でも、見えているなら教えても同じだよね。


「えっと、僕は今は猫獣人の姿をしてますが一応地球の神です。

この世界へは、お手伝いで来ました」


サラっと僕の正体を明かすと、男の人が笑顔になる。


「地球の神さまですか! やっぱりここに運び込んで正解でした」

「あの、どうかしたんですか?」

「ああ、失礼しました。 俺、安西哲也って言います。

今は、ダンジョンマスターをやらされているんです」


「えっと、日本人の方でしたか」


安西さんは僕の手を取り両手で握ると、泣きながら訴えだす。


「神様、助けてください!

俺にダンジョンマスターなんて、荷が重すぎます!

自分の部屋で寝ていたら、こんな場所に呼びだされていきなりダンジョンマスターにされたんです。

訳が分からないって顔をしたらサポートだって、あの子たちを付けてくれました」


僕が後ろの女の人二人に視線を移すと、二人とも笑顔で手を振ってくれた。


「お願いします神様! 地球に帰りたいです!」


涙目で、縋るように僕を見てくる安西さん。

どう答えたらいいんだろう……。







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