第18話 お仕事

猫神さまの世界 第18話




この異世界にマスターが仕事のために呼ばれて、ようやく俺たちにお呼びがかかった。

どうやら、ココル村ってところにいる盗賊の様子が知りたいとのことだ。


異世界で初めての仕事だ、張り切って頑張るぞ!と楓たちと気合を入れてココル村にたどり着く。


村が見渡せる森の高い木に陣取り、村を除けば盗賊たちが何かを探しているようだ。


「奴らは何を探しているんだ?」


「さあね、でも、そんなときは聞いてみるのが一番ですよ?」


「盗賊を締め上げて、聞くのか?」


「そんなことしなくても、私たちには便利なものがあるでしょ?」


「………地球の物が使えるのか?」


「それを確かめるいい機会じゃないの」


「それもそうか……」


「じゃ、あたしが仕掛けてくるよ~」


「……相変わらず、紅葉は軽いな」


「何であんな性格になったのか、分からないですね……」




双眼鏡を使い、ココル村を観察していると紅葉が帰って来た。

時間にして10分程度だ。


「ただいま~、確りと3人の盗賊の男に仕掛けてきたよ~」


「お帰り、さっそく聞いてみるか……」


盗聴器の受信機のスイッチを入れて、周波数を合わせると声が聞こえてくる。


「……異世界でも、盗聴器は使えるんだな」


受信機からは盗賊のお頭と呼ばれる男と、手下たちの間の会話が聞こえている。

どうやら、マスターが懸念していた『黒いドラゴン』の件は嘘だったようだ。

それに、本当の目的もそれに至った経緯も話してくれる。


「口が軽いお頭ですね……」


「こちらとしては、ありがたいがな……」


そして、地下への階段を見つけ『グリフィン商会』の宝石を奪うべく乗り込んでいく。


「……なあ、盗聴器って地下でも使えたか?」


「私は詳しくないけど、使えるんだからいいんじゃない?」


「そうそう、いいのいいの~」


まあ、盗賊たちの行動が手に取るようにわかるからありがたいけど……。

異世界だからってことで、片づけよう……。


「それよりも、盗賊たちをいつ縛り上げます?」


「私はいつでもいいよ~」


「マスターの話だと、ココル村の外から御者をしていた男が合流するから、その男を待って縛り上げてくれと言われている」


「それじゃあ、それまでは動けませんね……」




▽    ▽




ココル村の村長の家の隣にある納屋に、地下への入り口がありその先に『グリフィン商会』の宝石部門の作業場があった。

そこで作業をしていた者たちは、ココル村の人たちが避難する時一緒に避難したようだ。


作業場は誰もおらず、幸運なことに作業途中の宝石の原石もあった。


「おいおい、想像以上じゃねぇか!」


「お頭、奥の部屋に宝物庫らしき場所がありやすぜ!」


「ここにあるすべての宝石をいただくぞ! 何も残すなよ!」


「「「へいっ!!」」」



……しかし、こんな田舎の村の地下にこんな広大な作業場を作るとは、やはり『グリフィン商会』は恐ろしいな。


それに、ここが地下とは思えないように壁も天井も漆喰が塗られている。

この地下空間を支えている柱も、家の柱よりも太い。


「……ここまで丈夫なら、この場所に避難ってこともあったかもな」


俺は、壁を触りながらその丈夫さを感じていた。

盗賊になる前は、大工をしていた頃もあったんだ。

この地下室のすごさってくらいはわかる……。



「お頭、宝石類、原石類と袋を分けて回収完了です!」


「よし、地上に出て協力者と合流後、さっさとずらかるぞ!」


「「「へいっ」」」



地下室の作業場から外に出て、ココル村の入り口辺りであいつを待つ。

この村の者たちを避難と偽って隣村まで連れて行った奴を。


奴がここに合流するのは夜になってからだろう……。

『グリフィン商会』が動き出すのは、ココル村の村長が知らせてからだ。


大丈夫……大丈夫だ、俺たちは運がいいはずだ………。




▽    ▽




その日の夜、俺は街道に双眼鏡を向けて監視していると、暗闇の中を走っている人影を発見した。


「楓、紅葉、来たぞ! おそらくあの男が御者の男だろう」


俺の両隣に陣取り、双眼鏡で確認する楓と紅葉。


「あれね………夜の街道を走ってココル村に向かってくるわね……」


「村の入り口に、盗賊たちは集まっているんだろう?」


「そうだよ~、入り口に止めてあった馬車から食料とか盗んで食べていたよ~」


「それって、マスターが言っていた行商人の馬車だな」


「走っている人が合流したところを捕まえるの?」


「捕まえるのは、確認してからだ」


「紅葉、そのために罠を仕掛けていたのに使いたくないの?」


「使いたい! 盗賊たちを罠に嵌めて上から眺めてみたい!」


「……お前の考えが分からん」



そんな会話を双眼鏡で覗き見ながらしていると、暗闇の中を走ってきた男が盗賊たちに合流。盗聴器から、会話が聞こえてきた。


『はぁ、はぁ、お頭、はぁ、はぁ、今、戻りました、はぁ、はぁ……』


『おう、よくやってくれた! その前に少し休め』


『はぁ、はぁ、ありがとうございます、はぁ、はぁ……』



「すごい息を切らしているな……」


「暗い街道をずっと走っていたからでしょうね……」


「怖かったのかな?」


「かもしれないな……」


盗聴器からは、息を切らせて合流した男によくやったとかご苦労さんとか、労いの言葉がおくられていた。


『よし、もう少し休憩したら、この村から逃げるぞ!』


『お頭、この村を出てどこに行くんですかい?』


『もうこの国で仕事はできねぇからな、三つ隣の「ハリニア王国」へ行く予定だ』


『ハリニア王国って、ダンジョンで有名な?』


『そうだ、そこでこの宝石類を売り払ってしばらくは遊んで暮らせるぞ!』


『『『おお~!』』』



そんなに世の中甘くないぞ?


「さて、楓、紅葉、行くぞ」


「お仕事お仕事~」


楓は鞄の中から、黒くて細いロープを取り出した。






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