第19話 罠

猫神さまの世界 第19話




楓は鞄から取り出した黒いロープを自分の腕に巻きつけながら、ニヤリと笑う。

それを見ていた佐助は、ある事を思い出した。


「楓って、確か日本の時代劇のファンだったな」


「そだよ~、特にお仕事する人シリーズの大ファンでよく見ていたよ~」


「楓の頭の中には、あの音楽が流れているんだろうな……」


「確実に流れているね~」


なんでこんな癖のある仲間ばかりなんだと、佐助は頭が痛くなってきた。


「佐助、最初の奴が罠にかかったよ~」


「それじゃ、行くか!」


佐助、楓、紅葉はお互いを見て頷くと、ココル村へ走って行った。




▽    ▽




「いでぇ~、お頭、取ってくれぇ~」


これからココル村を出て、三つ隣の『ハリニア王国』へ向かおうとしたとき、用を足しに家の壁に向かった手下が、足に金属でできたもので挟まれて戻ってきた。


「何だ、これは……」


「お頭、あれは『トラバサミ』っていう獣用の罠ですぜ」


「罠?」


「へい、俺、昔猟師やってたんであの罠を知ってるんです。

確か、ずっと昔の勇者様が旅で獲物を取るときに使って広まったとか」


「えぐい罠だな……外せるか?」


俺の隣にいた元漁師の手下が、喚いている手下の側に行きトラバサミを外してやる。

だが、一人では外せなかったのか、外れたと思ったら再び勢いよく挟んでしまう。


「ギャアアァ!いでぇ~…」


「す、すまねぇ、おい、誰か手伝ってくれ!」


近くにいた手下の一人が見かねて手伝い、二人がかりでようやく外すことができた。

痛みに呻き声をあげている手下の足は少し抉れていた。


「この足じゃあ、走ることは勿論歩くこともままならねぇ」


「おい、治癒魔法か薬はねぇのか?」


「お頭、ポーションならあの馬車に積んであるはずですぜ」


「なら、取りに行って来い! 早くケガを治してこの村を出るぞ!」


「へ、へい!」


だが、馬車にポーションを取りに言った手下が、馬車の手前で落とし穴に落ちた。


「ギャッ!」


その光景をはっきりと目撃した俺は、無意識に大声で叫んでいた。


「てめぇら、逃げろっ! 落ち合う場所は国境だっ!」


俺の声を聞いた動ける手下どもは、一斉にココル村の外へ走り出した。

勿論、俺も村の外へ向けて走りだしている。


走っている最中も、あちこちから短い悲鳴が聞こえ次に俺に助けを求める声に変ってやがる。

残念だが、今は逃げることで手いっぱいだ。


こんな罠が張り巡らされたココル村から、一刻も早く逃げ出してしまいてぇ。




「はぁ、はぁ、はぁ……」


村の外に向かって走ると、俺の前を走っている手下たちが次々と罠にはまっていく光景を目撃した。

そのため、外に向かって逃げることはやめて、村の中央に向かって走ると罠はなかった。


しかし、今、俺は罠にかかってしまう。


「くそっ! なんでこんな高さにロープが張ってんだよ!」


「いってぇ~……」


俺とカール、後もう1人の手下とともに村の中央に向かって逃げていると、首の高さにロープが張られていてまんまとそれに引っかかってしまった。


勿論、引っかかった俺たちは全員転がされてしまったよ。


「お頭、これって制裁部隊の連中が?」


「いや、制裁部隊なら、こんなまどろっこしい事なんてしねぇ」


制裁部隊なら、武力で俺たちの命を奪いに来るさ。

あいつらは、無慈悲な奴ららしいからな……。


そんなことを考えていたら、黒装束の男が現れ手下を殴って気絶させやがった。


「て、てめぇは何もんだっ!」


「俺か? 俺は用心棒だ」


用心棒だと、ココル村の奴が雇っていたものか?

いや、あの時間で用心棒を雇ってこの村に派遣するって……。


「ガッ!」


今度はカールが気絶させられた。

しかも、今度は白装束の女にだ。

いったい、何人この村に入り込んでいやがる………


そう考えた時、強い衝撃とともに俺の意識は遠のいていった。




▽    ▽




「はい、お終い」


最後の男が、俺と楓を見てかなり混乱しているようだった。

そこに、男の後ろから紅葉が渾身の一撃。


これで、盗賊全員と協力者一名を含めた全員を捕らえることができた。


「後は、全員を縛り上げて村の入り口に放置して完了だ」


「例の制裁部隊に始末されないかな?」


「今のところ、この村の周りにはそんな連中はいないようだから大丈夫だろう。

とにかく、俺たちは俺たちの仕事を完了させないとな」


「「は~い」」


ここにいる三人の男たちをロープで縛りあげると、肩に担いで村の入り口へ運んでいく。


しかし楓も紅葉も、盗賊の男を肩に担いで運べるほど力があるのか……。








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