第17話 村の中で動く影たち

猫神さまの世界 第17話




コテツが忍び達ホムンクルスを放ったその夜、ココル村でたくさんの動く影があった。



「グリー、ドリー、地下への階段のある家は見つかったか?」


「お頭、ダメです。こっちの家に地下への階段はありませんでした」


「こっちもだ、お頭。地下への階段なんて見つからねぇよ」


お頭と呼ばれる男の目の前にある二軒の家から、姿を現した男二人は、落胆した顔で報告をする。

今、このココル村では盗賊たちが村の家を一軒一軒しらみつぶしに探しまくっている。


見つけるものは、地下への階段。

地下に続く階段の先に『グリフィン商会』の宝石部門の作業場が存在するはずだから。


その情報を頼りに、探していたのだ。




この盗賊たち、総勢三十七人はこの辺りの盗賊たちではない。

普段、盗賊をおこなっている場所は王都からブリニール辺境伯領までの街道沿いだ。

そこで商人などの馬車を襲って、活動していた。


だが、今から一年ほど前。

ココル村にある依頼で出かけた顔なじみの冒険者から、情報がもたらされた。


『ココル村って辺境の村があるだろ?

その村、グリフィン商会の人間が何故か出入りしているんだよ。

俺が依頼でココル村に三日ほど滞在した時も、一日に何人も出入りしていたんだぜ?


な? 怪しいだろ? どうだ? この情報、いくら出す?』


……結局、金貨十枚で手を打ったが、また何か言ってきたら今度は始末しないとな。

いくら顔なじみでも、しつこい奴は長生きできねぇんだぜ。



それからは、そいつの情報をもとにココル村ってところをこの一年かけて調べてようやく宝石部門の仕事場になっているって情報をつかんだんだ。


しかも、村のどこかの家に地下への階段がありその先が仕事場になっている。

そして、その仕事場にはグリフィン商会が集めた宝石がまとめて置いてあるそうだ。



「フッ、宝石の研磨作業をこんな田舎の村でやってるとはな……」


「どうしたんです、お頭。 急に笑い出して……」


「……何でもねぇよ。それより、地下への階段は見つかったのか?」


「ダメだ、お頭。 どこの家にも地下への階段なんて見つかりゃしねぇぜ」


チッ、使えねぇ手下どもだな……。

しかし、この人数でこんな小さな村を一軒一軒調べて無いってことは家の中じゃねぇってことか?



「カール、この村に家以外の建物ってあるのか?」


盗賊たちに指示を出しているこの男。

名前をカールといい、お頭の代理をよくやっている男だ。


「それなら、二軒ほど納屋があったな。もしかして、そこに地下への階段が?」


「おそらくな。 カール、半分連れて確かめてきてくれ。

俺はもう半分を連れて、もう一つのところを探してみるから」


「わかった。じゃあ、村長の家の側にある納屋を頼みます」


「おう! おい、俺に半分続け!村長の家の納屋で捜索だ!」


「「「へい!」」」




▽    ▽




俺は手下を連れて、ココル村の村長の家についた。

村長の家は、他の村人の家と比べて少し大きい程度だ。


この村、本当に貧しいんだな。


村長の家の隣には、そんな小さい村長の家に似つかわしくない大きな納屋が建てられている。

これが普通の村なら、飢饉などに備えての備蓄をしているのだろうとか思うんだが、実際は違うんだよな……。


手下に納屋の扉を開けさせ、中に入ると……やっぱり。

大きな納屋の中は何もなかった、それどころか、立派な作りの地下への階段があったよ。


「おい、カール達を呼んで来い。それと、見張りを何人か立たせておけよ!」


「「へい!」」



カール達を呼びに言った手下や、見張りのために三人の手下が納屋を出て行く。

俺は残った手下に向き直ると…。


「いいか!ここからが本番だ、地下に行って宝石を盗み出すぞ!」


「お頭、宝石が狙いなら村ごと襲った方が良くなかったですかぃ?」


「バカ野郎、そんなことしたらグリフィン商会が動いちまうだろうが!」


「頭、グリフィン商会が怖いんですかい? 衛兵とかじゃなくて?」


「……てめぇら、グリフィン商会の制裁部隊の噂を知らねぇのか?」


俺は、手下たちに恐る恐る聞いてみた。

そしたら、どいつもこいつもグリフィン商会の制裁部隊のことは何も知らなかった……。

おいおい、こいつらここにある宝石を盗んだ後、大丈夫なのか?



「俺は知ってますよ、グリフィン商会の制裁部隊のことは」


カール達が戻ってきた。


「戻ったかカール、そっちの納屋はどうだった?」


「ただの納屋でした、農具や種もみなど詰まってましたよ」


「お頭、制裁部隊について教えてくださいよ」


ったく、しょうがねえ手下だぜ……。


「いいか? グリフィン商会の制裁部隊ってのは、商会のものを盗んだり強奪した奴らへ報復するための専門部隊だ。

グリフィン商会の商会長が、もともと勇者パーティーの1人だったらしくてな、魔王討伐にも参加したことあるとんでもねぇ化け物だったらしい。


そんな化け物が立ち上げた商会だ、その商会から盗んだり強奪しようなんて考える奴らはいなかった」


「何せ、盗まれたり強奪されたと分かると、商会長自ら動いて犯人たちをぶちのめしていたらしい」


「しかも、その商会長の友人たちも勇者パーティーの化け物たちだ。

いつの間にか、そのグリフィン商会には誰も手を出すことはなくなった。

そして、安全ってことが世間に知られると、ますます儲かって大きくなっていったってわけだ」


おお、話を聞いてる手下隊が震えあがっているな。


「だがな、そんな商会長も寄る年波には勝てなかったんだよ。

段々年を重ねるとともに弱っていく商会長。そして、崩れていく安全神話」


「そこで一計を案じ、誕生したのがグリフィン商会の制裁部隊なんです」


「「「おお……」」」



「いいか、よく覚えておけよ?

グリフィン商会の制裁部隊には、ミスリル級の元冒険者が何人もいる。

何でも、商会長に世話になったとかで恩返しにと協力しているらしい。

だから、曲がりなりにも盗賊団である俺たちが敵に回していい連中じゃねぇってことだ!」


「ん? だったらお頭、この宝石強盗って……」


「バカ野郎、だからグリフィン商会にバレねえようにドラゴン騒ぎを起こしたんだろうが!」


「そういうことだったのか……」


ったく、こいつらほんと頭の弱い連中ばかりだな……。

この仕事が終わったら、少し見直すか?


「カール、見張りはいるな?」


「はい、大丈夫です!」


「よし、てめぇら! この階段の先にお宝がある、さっさと盗んでずらかるぞ!」


「「「おお!」」」




▽    ▽




ココル村から少し離れた森の中に、三人の人影がいた。


「……異世界でも、盗聴器は使えるんだな」







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