第16話 ホムンクルス

猫神さまの世界 第16話




木工屋のグスタさんの作業場を後にして、僕たちは報酬を受け取るべく運搬ギルドへ足を運んだ。


運搬ギルドの受付では、グスタさんが書いてくれた修了書を見せて依頼人評価が高いことに驚かれて、結果多く報酬をもらうことができた。


また、初めての依頼を高評価で終えたことを受付嬢が褒めてくれたことに、シャロンさんとシェーラさんも一緒になってお祝いしてくれた。


『コテツ君、やっぱり運搬ギルドの仕事が天職なのかも。

これからも、頑張って頂戴ね?』


『そうそう、私たちも協力するからいつでも呼んでね?

私もお姉ちゃんも、何時でも一緒に依頼を受けてあげるからね?』


そう言ってシャロンさんとシェーラさんに両側から、ギュッと抱きしめられました。

すると、受付嬢のお姉さんが文句を二人に言っていたな……。


『ずるい!』とか『私もぎゅっとしたい!』とか。




でも、問題はギルドでシャロンさんたちと別れた後、宿に戻ってきたときだよね。


事実、僕はどうやら宿に依頼で二日ほど空けることを言い忘れていたみたいで、宿のフィリアさんやティナさんに『心配したよ!』と怒られてしまいました。


『いいかいコテツ君、宿としては依頼で出かけるときは知らせてほしいのよ?

その日仕入れる食材とか作る料理の数。

また、お部屋の掃除やお風呂の準備などで困るんだからね?』


あれは僕のミスだから、謝るしかなかったけど……。

そう言えばティナさんは、僕が帰ってこなかったせいでロベリアさんのところにまで聞きに行ったとか。


心配をかけてしまったな……。



明日は休みにしたし、町の観光がてら何か送るというのもいいかもしれない。

僕は、宿のベッドに寝転がりながらそんなことを考えていた。





「……眠れない」


宿の他の泊り客も寝ている真夜中、僕は眠れなくて困っていた。


「僕に、こんな野次馬根性があったとはね」


そう、ココル村のことが気になって眠れなかった。

黒いドラゴンの目撃情報が嘘で、本当の狙いはココル村にある『グリフィン商会』の宝石を強奪することにあるとか。


本当のところはどうなんだろう。

気になって、気になって眠れなかったのだ……。



『私たちができることなんて、何日かして結果を知ることしかないわね』


『そして、ココル村がどうなるか。最悪、グリフィン商会の賠償にココル村が無くなっちゃうかも……』


シャロンさんもシェーラさんも、心配はするものの直接自分たちで動くことはしない。

いや、出来ないってことだろう。


「……僕自身が興味本位で首を突っ込んでも、今の弱さじゃね~」


……だから僕は、力を使うことにした。

地球にいた頃、亜空間に造った『箱庭』で作った彼らを使うことに。



「箱庭より召喚! 【佐助】【楓】【紅葉】」


すると、部屋の空きスペースに魔法陣が三つ出現し、三人の人影が魔法陣の上に現れた。


「マスターにお呼びいただき、光栄で……」

「え……」

「うそ……」


あれ? 呼び出した三人が僕を見て固まっている……。

あ、そうか! 日本にいるときと姿が変わっているから驚いたのか。


「佐助、楓、紅葉、久しぶりだね。

この姿は『きゃああ、か・わ・いい~!』世界の……ふぐっ!」


楓と紅葉が僕に思いっきり抱き着いた。

それも、シャロンさんとシェーラさんのように左右からギュッとだ。


それに佐助は……泣いてる?!


「うう……この世界でマスターがそのようなお姿とは……」


姿形がどう変わろうと、僕は君たちを作った本人なんですけど?



今、この場に召喚した三人は『ホムンクルス』だ。

地球の神の1人として生まれたものの、魔法神という誰も崇めてくれなかった神だったため暇つぶし目的で、亜空間に箱庭という世界を創ってみた。


その世界でいろいろとやっているうちに、手伝いがほしくなり作ったのが『ホムンクルス』だ。

ただ、最初の何体かは手伝いのために造ったのだが、そのうち世界の技術が良くなりそれを箱庭に取り入れたくなった。


そこで、世界に点在する匠といわれた人間の技術だけを会得できる『技術球』という魔石を作り、匠の技術をその魔石に吸収してホムンクルスに移植、そして出来上がったのが彼らだ。


最初は戦う技術よりも、作り出す生産技術を吸収してホムンクルスに移植していたが、戦う技術も必要と、戦いに特化したホムンクルスも造り上げた。


その中の、情報収集や罠など斥候職に特化した『忍び』の技術を会得したのが彼らだ。



始めは、佐助のみの忍びだったのだが、時代の流れでさらに人手が必要ということで楓、紅葉と造っていった。


そのため、佐助は古風な、時代的に戦国時代辺りの忠誠心溢れる性格になり、楓や紅葉は現代風な女子高生のような性格となってしまった。


だが、情報収集能力はズバ抜けているし、楓と紅葉にいたってはハッカーもできるほどの優れものだ。

まあ、この世界でハッカーは必要ないだろうけど……。



「コホン! 依頼をしたいんだけどいいかな?」


僕の一言で、すぐに楓と紅葉が離れ、三人そろって跪く。


「失礼しました、ご依頼をどうぞマスター」


僕は頷くと、今回の依頼を説明する。


「今回の依頼は、ココル村の様子を見てくること。

現在ココル村で何が起きているのか、何故そうなったのかを調べてきてほしい。

また、ココル村に盗賊がいた場合は縛り上げて、一か所にまとめておいてくれ。

以上だが、出来るかな?」


「マスター、お任せください」

「必ずや、期待以上の成果をご覧に入れます」

「まかせてー!」


一名心配になるが、これまでちゃんと成果を上げてきた三人だし大丈夫だろう。


「それと、ここは異世界だ。

地球とは世界が違うということを頭に入れておくように!」


「了解」

「わかりました」

「オッケ~」


……本当に大丈夫かな……。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る