第13話 ココル村の避難
猫神さまの世界 第13話
黒いドラゴンが目撃された、しかもこの村から南東の村の近くで。
そのことを知らせに来てくれた行商人の御者と一緒に、村長と門の兵士二人、そして僕たち三人はどうしたらいいか分からないで黙り込んでしまう。
「……黒いドラゴンとは、困りましたね……」
村長が顔をしかめて呟く。
「あ、あの、ココル村の人たちはどうなるんです?」
兵士の青年の1人が、村長に尋ねた。
「一番の解決策は、黒いドラゴンがいなくなるまで村から避難することです」
「なら、すぐにでもココル村の人たちを避難させないと……」
「……そうですね、とにかく今は避難させるべきでしょう。
ガルト、レーブ、急いで人をあと5人ほど集めてください」
兵士二人は頷き、すぐに村の中へ走って行く。
2人が走って行ったことを見送ると、僕たちの方を見た。
「そこの三人は運搬ギルドの人ですよね?
申し訳ないのですが、ココル村からの避難を手伝ってもらえませんか?」
お願いしますと、頭を下げた村長のお願いをどうしたらいいのかなとシャロンさんを見ると、考え込んでいた。
「……わかりました。私たちで良ければ、お手伝いしましょう」
村長は僕たちが引き受けてくれたことに安堵したようだが、このことに待ったをする意見が出る。
「村長、ここは一刻も早く非難することが重要だ。
村からは、最低限の荷物のみだろう?
運搬ギルドの人に、村の人たちの荷物を運んでもらっている時間はないぞ?」
黒いドラゴンのことを知らせにいてくれた御者の人だ。
「わかっているよ、だが、何時まで非難するか分からないんだ。
ちょっとした財産をもたせないと、生活していけないだろう」
「……そ、それはそうだけど……」
村の入り口で、あーだこーだと村長と御者の人が話していると兵士の2人が村の青年6人を連れて戻ってきた。
「村長、俺の友達で手が空いていたやつとココル村に親戚がいる奴を連れてきた」
「おお、それは「村長!ココル村がやばいって本当か?!」」
村長の話を遮って青年の1人が聞いてくる。
村長は、その青年を諭すように説明していた。
「コルナ、お前のいとこがココル村にいたな。
心配だろうが、まずはココル村の人たちを避難させる手伝いを頼みたい」
「……ココル村の人たちは助かるんだよな?」
「勿論、助けるために避難してもらうんだ」
「……わかった」
兵士の2人が、諭された青年の肩に手を置いて元気づけている。
……友達って感じだな。
「それじゃあ、ココル村に出発するぞ!
そして、ココル村の人たちをこの村に避難させるぞ」
村長がこの場にいる全員の顔を見渡すと、全員が頷く。
そして、兵士のレーブを門に残しココル村へ出発した。
▽ ▽
御者の人の案内で、ランガン村からココル村に向かっている途中で御者の人の足が止まる。
「ここからは、少し迂回してココル村を目指します」
そういうと、街道から少し外れてココル村へ向けて歩き出した。
僕は、キョロキョロと周りを確認するがドラゴンを見ることはできなかった。
「現れたドラゴンは、ここから近いの?」
「な、ドラゴンだって?」
「おいおいガルト、ドラゴンが現れたなんて聞いてないぞ?!」
「俺も、ココル村の人たちを避難させるって言ってたからよほどの危険かと思ったが、ドラゴンとはな……」
兵士のガルトさんが、村の青年たちから攻められていた。
「すまない、詳しいことを言うと手伝ってくれそうになかったからな……」
「おいおいガルト、酷い友達だな。
俺たちだってそんな緊急事態なら率先して手伝っていたぜ。
だから、今度からはちゃんと訳を話してくれよ?」
「すまねぇ……」
兵士さんたちの話が一段落してから、御者の人が話し出した。
「ドラゴンを見たのは、ここから右手にある森の中です。
休憩中に用を足そうと森に入ったところで発見しました」
御者さんが指で刺した方向を僕たち全員が見る。
だけど、森の中までは見ることはできなかったためドラゴンは発見できなかった。
それから1時間ぐらい歩いたところで、目的地のココル村の入り口が見えた。
村に近づくにつれて、村の入り口に荷物を積み込んだままの馬車が見えた。
そして、その周りに集まっている人たち。
その集まっている人の中から、1人の女性が飛び出してきた。
「ジョージ、ランガン村から会いに来てくれたのかい?」
「ニーナおばさん、ドラゴンが現れたっていうから心配してな」
どうやら、この二人は親戚同士のようだ。
さらに村に近づくと、今度は村長が馬車の近くにいる人に向かって声をかけている。
「ココル村長!全員無事ですか?」
「おお、ランガン村長。 ええ、村にいた全員でこれから避難するところですよ」
僕はちょっと気になったことを、側にいるシャロンさんに聞いてみる。
「あのシャロンさん、村の名前って村長の名前なんですか?」
「村の名前が村長の名前というのは、珍しい事じゃないわね。
町になればそこで名前は変えるみたいだから、村長の名前で文句は出ないわよ?」
「コテツ君、それに村長の名前が村の名前だと分かりやすいていうのもあるの」
「確かに、わかりやすいですけど……」
「ああ、私たちが分かりやすいじゃなくて、この辺を納めている領主様が分かりやすいってこと」
「そうね、村の代表者が誰かすぐにわかるし、税を納めていないときに追及もしやすいしね」
なるほど、この世界では村長の名前が村の名前になることはめずらしくないのか。
日本だと、地名が村の名前になることが多いようだけど……。
村長さん同士で話をしている横で、御者の人が1人の青年に頭を下げられて困惑しているみたいだ。
おそらく、あの人が行商人なんだろう。
「では、ランガン村に出発しましょう。
これは一時的な避難ですから、大きな荷物は持たずに急ぎましょう」
ココル村の村長が声をかけ、全員で出発する。
とここで、行商人の人が馬車を置いて避難する村人についてきた。
「あの、馬車はおいていくんですか?」
僕が行商人の青年に尋ねたところ、御者の人が答えてくれた。
「馬車には食料などの荷物も入っています、もしドラゴンがそれを狙ったとしたら。
ですから、馬車も置いて避難するんですよ」
「なるほど」
僕は避難する時の安全確保だと思ったが、何か引っかかるものがあった。
それは、僕の側にいるシャロンさんやシェーラさんも同様のようだ。
2人とも考えるように、みんなについて避難していく。
……何だろう、何に引っかかっているのかな?
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