第9話 朝の出来事

猫神さまの世界 第9話




「ねぇロベリア、衛兵の人が言っていた『ご決断』ってどういうこと?」


ライドたちを連行していった衛兵を見送ったティナが、ロベリアとギルド長に気になったことを質問してきた。


「ティナはギルドに入っていたかしら?」


「私は料理ギルドに加入しているよ。飲食店関係の人なら、必ず入るギルドだし」


冒険者ギルド長が、自分の顎を撫でながら納得の顔をする。

「それなら仕方あるまい、これは冒険者ギルドと傭兵ギルド特有のことじゃからな……」


「えっと?」

困惑した顔で、ティナはロベリアを見る。


「あのねティナ、町の治安を守っている衛兵には冒険者や傭兵を捕まえることはできても処罰することはできないのよ」


「それってどうして?」


「悪しき慣習、とでもいうべきものかのう。

ずいぶんと昔の王国法に、冒険者や傭兵はギルド内で処罰することと明記されているんじゃよ。

昔は、冒険者ギルドと傭兵ギルドは国に所属しない独立した組織じゃったからの」


「でも、今はそれぞれの国が後ろ盾となって運営しているから国に所属するんだけど、まだまだ昔の独立していたころの感じが抜けないのよね……」


「国も冒険者ギルドや傭兵ギルドの扱いには、慎重にならざるをえんからのう。

特にダンジョンなんかで活気づいている町なんかは、冒険者がはばを利かせて衛兵が本来の仕事ができていないようじゃしの……」


「だからねティナ、さっきの衛兵の人が言っていた『ご決断』ってのは、本来なら冒険者ギルド内で片づけるライドたちの処遇を私たち衛兵に任せていただきありがとうございます、という意味になるわけね」


ロベリアとギルド長の説明を聞き、少し考えるティナ。


「それじゃあ、今後のライドたちはどうなるのかな?」


「衛兵に任せたからの、処分としては奴隷に落として強制労働といったところじゃな」


「冒険者ギルドで、処分するとなったら?」


「そうねぇ、2ランク降格と何年間かのランク固定処分、かな?」


「罰にしては、冒険者ギルドの方が軽くない?」


「そうじゃな、ランクが下がることは収入が下がることじゃから軽くはないが他のものから見れば軽く思えてしまう処分じゃろうな……」


「でも実際は、重い処分ってことなんだ……」


ティナはとりあえず納得することにしたようだ。


「それよりも、ロベリアとティナは行くところがあるんじゃろ?」


「「ああ!」」


「儂は一人でギルドに戻るから、二人は早く行ってあげるんじゃな」


そう告げると、ギルド長はさっさと冒険者ギルドの方向に歩いて行った。

ロベリアとティナは、ギルド長を見送ると走って『ホテル亭』に急ぐ……。




▽    ▽




次の日の朝、日の光が窓から入ってきてベッドで寝ていた僕は眩しくて起きてしまった。

……窓のカーテンを閉めていなかったな。


昨日あれだけ殴られていたが、起きてみれば傷も痣もなくきれいなものだ……。


僕はベッドから起きようとかけ布団をめくると、ロベリアさんが幸せそうな顔で寝ていた。


「……あれ? いつの間に入ってきたんだ?」


このままではベッドから降りられないので、反対側からと布団をめくるとこっちにはティナさんが寝ている。


「……どうなっているんだ?」



さて、こんな時年頃の男の子であれば慌てたりするんだろうが、これでも僕は地球の神さまだからねぇ。

生きている時間が違うのだ。

だから、ここは冷静に、冷静にロベリアさんの顔をつんつんしてみよう。



―――ツンツン


「んふぅ……」


くすぐったいのか、ロベリアさんはちょっとした反応とともに寝返りを打った。

次は、ティナさんをつんつんしてみましょう。


―――ツンツン


「んぅ、チューはまだ早いよぅ……」


……どんな夢を見ているんだろう。

ティナさんも寝言を言うと、寝返りを打って反対側を向いてしまう。

ますますベッドから降りられない。


僕は最終手段として、足元からベッドを降りることにした。

……それにしても、三人で寝れる大きなベッドを宿泊客の部屋に置いてあるとは、この宿屋侮りがたいな。


とにかく、足元からベッドを降りた僕は、ロベリアさんとティナさんを起こさないように部屋を出て一階に降りて行った。




「コテツ君、おはよう。もう起きて大丈夫なの?」


一階に降りると、受付で対応してくれたフィリアさんがあいさつをしてくれる。


「おはようございます。体は何ともないようですから起きても大丈夫みたいです」


「それなら、朝食を用意しましょうか?」


「はい、お願いします。

それと、僕の部屋にロベリアさんとティナさんが寝ていたんですけど……」


フィリアさんは奥にいる旦那さんに僕の朝食をお願いして、質問に答えてくれた。


「ロベリアとティナは、昨日の夜にコテツ君が心配でかけつけてくれたのよ?

寝ていたのは、多分安心したからなんじゃないの?」


「それなら、寝かせておきますね」


「フフフ、そうね。それがいいかもね」


フィリアさんはなぜか楽しそうだ。

そう言えば、あいつらの企みってどうなったのかな?

ロベリアさんが無事ってことは、何とかなったってことだと思うけど……。



「でも僕は何もできなかったな、神様なのに……」


洗顔所で顔を洗いながら、これからどうやって強くなればいいのかを考えてみる。

一番確実なのは、レベルを上げること。

この異世界はレベル制度が存在している世界だ、レベルを上げるだけでも人は強くなれる。


でも、どんな強さを身につけるかで将来が大きく変わるのもまた事実。


「今の僕は猫獣人なんだ、だからこの体に合った成長をしないとな……」


鏡に映る僕の姿を見ながら、どう強くなればいいのかを思案する。




洗顔所を出て、食堂に行くと既に僕の朝食は用意されていた。

どうやら、結構な時間考え込んでしまっていたらしい。


「コテツ君、自分の可愛さに見入っていたの?」


フィリアさんにそう言われて、どうやらナルシストと思われているようだと気づいた。


「いえ、昨日のことで思うところがありまして……」


「これからどうすればいいか、悩んじゃったのね?」


「はい、強くなるにはどうすればいいのかって」


そう落ち込む僕の頭に、フィリアさんはそっと手を置くと優しく撫でてくれた。


「コテツ君、強さって色々あるのよ?

だから、まずはいろいろやってみて体験してみたら?」


「体験ですか?」


「そう、まずはやってみてコテツ君に何が合っているのかを知らないとね?」


そうアドバイスしてくれたフィリアさんの笑顔に、僕は素直に返事をした。


「はい、わかりました!」


「よし、それじゃあ朝食にしましょう。

私の夫が腕によりをかけて作ってくれたんだから、しっかり食べてね?」


「はい、勿論です」


フィリアさんの旦那さんの料理は美味しかった。



朝食を済ませた後、僕は再び図書館へ向かい今度は猫獣人について調べ始めることにした。

僕に何ができるのか、そして、どう強くなっていくのか……。







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