第8話 企みのその後
猫神さまの世界 第8話
目を開けると、そこはベッドの上だった。
僕はベッドに寝たまま、周りを確認してここが宿屋『ホテル亭』の僕が借りている部屋だと思い出す。
ライドたちに襲われてボコボコにされた後、宿の前に捨てられていたところをティナさんに発見され、手当てを受けて僕の借りている部屋に運ばれたんだ。
その時、ティナさんに犯人を教えたけどロベリアさんに知らせることはできたかな?
あの時は口の中とか切れてて、うまく言葉が出なくて何とか教えたけど……。
それにしても、僕って弱いな~。
これでも一応、神様なんだけどね……。
しかし、隠しスキルのおかげか全身のケガや骨折なんかは、もう治っている。
これが『不老不死』の力なんだろう。
僕はベッドから窓の外を見ると、星が瞬いていた。
「まだ夜中なんだな……」
しかし、窓枠にガラスか……。
これも、召喚された異世界人たちが広めたものなのか。
それとも、独自に発展した魔法文明のものなのか、興味深いね……。
そんなことを考えながら、僕は目を閉じて眠るのだった……。
▽ ▽ ▽
『ホテル亭』にほど近い路地裏の入り口で、四つの影が息を殺して潜んでいた。
ライドたちだ。
「さっき走って行ったのが、宿の女だったな?」
「ああ、あの宿の給仕を担当していてロベリアとも仲が良かったはずだ」
「てことは、あの女がロベリアを連れて戻ってくるってことだな」
「なあライド、あの女もついでにやるのか?」
「あたりめぇだろ? 布で顔を隠しているってもロベリアだけ攫ったんじゃ、あの女に衛兵か近所の連中呼ばれて終わりだろうが」
「だな。 ロブ、心配し過ぎなんだよ。
それよりも、ヒィヒィ言わせる女が増えるんだからよ、いいじゃねぇか」
「………いいなそれ」
「ケッ、何想像してんだよ」
「おい、静かに隠れてろよ……」
それから、ライドたちが女が返ってこないことにイライラし始めた頃、ようやく女が帰って来た。
それも、ターゲットのロベリアを連れて。
「おい、わかってるな?」
「ああ、まかせろ……」
路地裏に潜んでいても分かる足音、二人の走ってくる足音が近づいている。
もう少し、もう少しとドキドキしながら待つライドたちは、ロープをもつ手にも力が入る。
まだか、まだかと焦り始めた時、女の声が聞こえた。
「ロベリア急いで、コテツ君、気を失って倒れていたんだよ」
「ま、待ってティナ。
今日は、朝からギルド長のおかげで体力使ったから疲れてて……」
ロベリアは疲れている、このことを聞いたライドたちは顔を見合わせ笑みを浮かべる。
チャンスだ、これでロベリアを簡単に捕まえられる。
そして、襲撃ポイントにロベリアとティナが現れると…。
「今だっ!!」
ライドの合図と同時に仕掛けてあったロープを引っ張る。
「「キャッ!」」
すると、短い女の悲鳴が重なって聞こえた。
引っかかった!
ライドたちは、一斉に転んだであろうロベリアたちに襲い掛かった。
夜の暗闇に目が慣れていたとはいえ、輪郭ぐらいしかわからない暗闇の中で、ライドたちはロベリアと宿の女であろう輪郭を捕まえる。
「おとなしくしろ、ロベリアと女!」
四人で一斉に襲い掛かったためか、ライドたちはターゲットが暴れているように見える。
「そこにあるロープで縛れ!」
「うぉ、ロベリアも胸あるんだな、やわらけぇ~」
「おい、どこ触ってんだ、そんなのは後にしろ!」
暗闇の中、ターゲットをロープで縛る四人。
「こっちの女も胸あるじゃねぇか、揉みごたえあるぜ」
「だから、どこ触ってんだよ、とにかく行くぞ!」
ターゲット2人を縛り上げたライドたちは、ターゲットをそのまま攫って行こうとした。
だが、思わぬところから聞こえた声に立ち止まることになる。
「あら、どこに逃げようというのかしら?」
その声を合図に、辺りを照らす明かりの魔法が唱えられた。
【ライト】【ライト】
二つの光球がライドたちの上空に現れると、辺りの景色が一変する。
ライドたち四人に、少し離れたところでライドたちを見ているロベリアとティナ。
そして、ライドたちを囲む衛兵が10人現れた。
さらに、ロベルトの側には冒険者ギルドのギルド長の姿まである。
周りを確認したライドたちは、驚いているのか目を大きく見開いてロベリアを見ている。
「ロベリア、が、何で、そこに?」
ようやくライドが発した言葉は、困惑に満ちていた。
「そんなの簡単よ、あんたたちが捕まえたのが人形だっただけよ。
よくできているでしょ?」
ロベリアにそう言われ、自分たちの捕まえているものを見るとそこにはロープでグルグル巻きにされた布人形があった。
人形の胸のところを鷲づかみにしているジニ。
人形の太ももの付け根に手を回しているロブ。
人形の両太ももを肩に担ぎ股の所が目の前に来るようにしていたベック。
そして、人形の口のところを手で塞ぎ、胸の少し下へ腕を絡めているライド。
四人が何を考えていたのかは、その恰好を見れば一目瞭然だった。
四人の行動にあからさまに嫌悪感の籠った目を向けるロベリアとティナ。
苦笑いの衛兵たち。
そして、呆れて何も言えなくなっているギルド長。
少しの間、誰も何も言わなかったが衛兵の隊長が気付いたように叫んだ。
「確保っ!」
その合図とともに六人の衛兵が飛び掛かり、ジニとベックはすぐに捕まった。
ロブは逃げようとしたが、人形に絡まっていたロープに引っかかり転んであえなく捕まる。
ただ、ライドは衛兵の剣を奪い取り最後の抵抗を見せたが…。
「いい加減にせんか!」
ギルド長の一喝に驚いたライドに、衛兵が襲い掛かりそのまま縛り上げられ捕まってしまう。
「くそっ! もう少し、もう少しだったのに!
もう少しでロベリアを好きにできたのによぉ!!」
衛兵に捕まった後でも、ロベリアを睨みながら叫ぶライド。
「私があんたの好きになるわけないでしょ……」
「チッ、俺たちのある事ない事報告してランクを上げさせなかったくせに!」
「お主らのランクが上がらないのは、ロベリアの所為じゃないわい」
「嘘つけ! 俺たちと同じ時期に冒険者になったホーマーのアホは、もう金ランクになったそうじゃねぇか!
あのアホが金ランクで俺たちが銀ランクのままなんて、納得できるか!」
「本当にバカな男たちねぇ」
「何だとロベリア!」
「ホーマーが金ランクなのは、仲間思いの所と依頼人と揉めなかった所が評価されて金ランクに上がったのよ。
あんたのように、依頼人と揉めたり問題を起こしたりしないわよ」
「ぐぐぅ…」
ライドはロベリアをこれでもかと睨み続けるが、ロベリアは何とも思っていないようだ。
「ギルド長」
「分かっとる、ロベリア」
ギルド長は、衛兵の隊長の側によると…。
「この四人を冒険者ギルドから追放し、犯罪者として衛兵に引き渡します」
その宣言に衛兵の隊長は敬礼をすると…。
「ご決断、ありがとうございます! 連れて行け!」
「「「ハッ!」」」
こうして衛兵たちに連れていけれるライドたち。
腕を縛られ連行されていくときも、必死に抵抗していたが衛兵たちに引きづられるように連れていかれた。
その様子をロベリアとティナ、そしてギルド長が静かに見ていた。
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