第7話 稚拙な企み
猫神さまの世界 第7話
「あがっ!」
路地裏の壁に叩きつけられること3回。
いい加減意識を保つのも難しくなってきた……。
でも、彼らライドたちのリンチは終わらない。
「チッ、もう動かなくなりやがった」
「おいライド、もういいだろう?
これだけ痛めつけとけば、気も晴れただろう?」
「こんなんで晴れるかよ!」
「でもな……」
ライドを止めた連中は、僕の変わり果てた姿を見ている。
その表情は、やり過ぎたという表情だ。
ライド以外は……。
「チッ、面白くもねぇ。
…………おい、今度はロベリアを襲うぞ!」
「ライド、それは流石に……」
「何言ってる、あの女をヒィヒィ言わせて二度とギルドででかい顔をさせないように言いきかせるんだよ!
そうしねぇと、何時までもあの女、うるさいだけだぞ?!」
黙って考え込むライド以外の男たち。
そんな仲間に、イライラしているライド。
「……俺たち全員銀ランクだよなぁ」
「急になんだよ……」
「いいから! 俺たち銀ランクだよなぁ!」
「あ、ああ」
「何で、あれだけギルドに貢献しているのに金ランクに上がれないか知ってるか?」
「いや……」
「ロベリアだよ、あの女がギルマスにある事ない事吹き込んでいるんだよ!」
「まさか……いくらロベリアでも、そんなに力があるようには見えないぞ?」
「おいおい、ロベリアがギルドで何しているか知ってるか?」
考え込む三人のライドの仲間たち。
「ロベリアは、受付嬢の総監督。
言わばまとめ役であり、受付での出来事をギルマスに報告に行く役職についている。
もうわかるだろ?」
「まさか、ロベリアがうその報告で俺たちを金ランクにさせないために?」
「それしか考えられねぇだろ?
同じ時期に冒険者になった、ホーマーのアホはもう金ランクだぞ?」
「「「あり得ねぇ!」」」
「ホーマーが金ランクで、俺たちが銀ランク止まりなんて……」
「確かに、おかしいな……」
「なぁ? だからよ、ロベリアをヒィヒィ言わせて俺たちの言いなりになるようにすんだよ」
「言いなりって、どうするんだ?」
「決まってるだろ、ロベリアと言えど女に違いはねぇ……となれば……」
僕は意識を保ったまま、この時見た彼らの顔を忘れないだろう。
四人の男たちの欲望に醜く歪んだ笑顔を……。
「でもよ、具体的にどうロベリアをおびき出すんだ?」
「おいおい、ここにロベリアを誘き出すためのエサがあるじゃねぇか」
四人の男たちは、道に横たわっている僕を見る。
「この獣人を使うのか? ……でも、どうやって?」
「お前ら、もう少し頭使えよ。
いいか? まずこの獣人を宿に連れて行くんだよ。路地裏で襲われていたっていってな」
「そんなことしたら、俺たちが疑われるだろ?! 特にライドは……」
「んなことはわかってるんだよ! いいから聞けって。
この獣人は今、気を失っている。
この状態のまま宿へ……ジニ、お前だけで連れて行け」
「お、俺が?」
「そうだよ、で、宿で騒ぎになるわな。
騒ぎになりゃ、ロベリアにも報せが行く。
ロベリアは、この獣人を可愛がっているからな、すぐに飛んでくる」
うんうんと頷く三人の男たち。
「宿に向かっているところを、このロープで転ばせて捕まえんだよ。
いくらあのロベリアといえど、転んだところを襲われたらひとたまりもねぇだろ?」
「た、確かにな……」
「ロープで縛って攫ってしまえば、後は俺たちの好きにできるってわけよ……」
「……好きにできる……」
「普段あんなに生意気な女を好きにできるんだ、さぞ気分いいだろうな……」
うわ、四人の顔がさらに歪んだ……。
なんていうか、こんな顔してこんな考えしかできないから金ランクに上がれないのではと思うけど……。
さて、ロベリアさんにどう知らせるか、もしくはどう助けるか……。
▽ ▽
冒険者ギルド近くにある職員寮。
ここは主に、ギルド職員の女性が利用していた。
昔は一階が男性用、三階が女性用の寮で二階は食堂などに利用されていたが、さらに隣にもう一つギルド寮を造ったため、今では女性専用の寮になっている。
その女性寮にティナがロベリアに会いに来ていた。
それも息を切らせて……。
「ど、どうしたのティナ、そんなに慌てて……」
「た、た、大変よ、ロベリア。
コテツ君が、コテツ君が襲われたの!」
「!! どこっ! どこで襲われたの!! 相手は?!」
ティナを前後に揺すって回答を求めるロベリア。
だが、揺すられ過ぎて、答えることができないでいるティナ。
「お、落ち、落ち着いて、落ち着いてロベリア。
こ、答え、答えられない、から……」
「あ、ごめんなさいティナ。
それで、コテツ君は無事なの? 誰に襲われたの?」
息を整えながら、ティナはこんなにも一生懸命になるロベリアを見て、本当にコテツ君に惚れちゃったのねと改めてロベリアを温かい視線で見るのだった。
「コテツ君は一応無事よ、今は宿で寝ているわ。
コテツ君を襲ったのは冒険者らしいわよ、コテツ君をベッドに運んで寝かせた時に耳打ちしてくれたからね」
「冒険者……」
「ロベリアは、誰が襲ったのか分かったみたいね……」
ロベリアは黙って考え込んでいる。
ニ、三分ほど考えるとティナの手をいきなりつかみ、冒険者ギルドへ走り出した。
「ちょ、ちょっと? ロベリア、どうしたの?」
ロベリアはティナの言葉に耳を傾けることなく、冒険者ギルドの中へ飛び込んでいく。
そしてそのまま、ギルド長室へノックも無しに飛び込んだ!
「なんだ?!」
「ロベリア?! ノックもしないでこんな時間にどうしたの!」
ようやく書類仕事が終わり机に突っ伏していたギルド長は、いきなり入ってきたロベリアに驚き顔を上げた。
また、ギルド長のサインの入った書類をまとめていたユーナも、いきなり入ってきたロベリアに驚いていた。
そして、二人の視線はロベリアからロベリアが連れてきたティナへと移る。
「ん? その女性は?」
「あら『ホテル亭』のティナさん、どうしてここへ?」
「それが、ロベリアが無理やり……」
「ギルド長!」
「は、はい」
ロベリアに大きな声でいきなり呼ばれ、素直に返事をしてしまったギルド長。
そして真剣なロベリアに、ギルド長もロベリアを見てようやく気付いた。
「先ほど、ティナがコテツ君が襲われたと私のもとに知らせに来てくれました」
「コテツ君というと……」
「例のロベリアのお気に入りの猫獣人の子ですよ」
「ああ。 で、そのコテツ君が襲われたというのは?」
「コテツ君は今日、図書館へ行っていたはずですからその帰りに襲われたと思われます。
それも冒険者に……」
「「冒険者に?」」
ギルド長とユーナの言葉が被る。
「冒険者に襲われたという確証はあるのか?」
「それなら、コテツ君本人が言ってましたけど」
「う~ん……」
考え込むギルド長、本人がそう言ったから犯人は冒険者で間違いない、とは言い切れないことを知っているからの反応だ。
秘書のユーナも、ギルド長の考えが分かるかのように難しい顔をしている。
「ギルド長、今回は冒険者で間違いありません。
そして犯人もライドとその仲間の三人、ジニ、ベック、ロブで間違いありません」
「……何か確証があるのか?」
「はい、コテツ君はライドたち以外の冒険者を見ていませんし、接触していないと思いますから」
「ということは、コテツ君に接触したことのある冒険者はライドたちだけだと?」
「はい、それにライドたちはここ最近、ギルドに対して不満があったようですし」
「不満? どんな不満なの?ロベリア」
「これは受付嬢の1人から聞いた話ですが、ライドたちはなかなか金ランクに上がれないことにイライラしていたようです。
この前の昇格試験の結果を聞いて、受付嬢に八つ当たりをしていましたし、その八つ当たりを止めると、今度は私がある事ない事ギルド長に報告して昇格させないんだろうと文句を言っていましたので……」
「はぁ~、ライドたちが昇格できないのは、試験でさせた商隊の護衛で自分勝手な行動が目立ったからだろうに……」
「そういえば、商人の方たちとも揉めたと報告がありましたね」
ギルド長とユーナはそろってため息を吐いている。
「ロベリアの話からすると、コテツ君の次に狙われるのは……」
「はい、私、でしょうね……」
「……頭痛いわ」
ユーナが頭を抱えてしまった。
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