第2話 誤解

猫神さまの世界 第2話




ドサッという音とともに、僕は尻餅をついた。


「痛たたた……、思いっきりお尻打った……」

痛いお尻をさすりながら、立ち上がると周りを確認する。



僕の視界に飛び込んできたのは林の中で、ところどこ芝生になっている。

そして、朽ちた屋根のない小屋。

その後ろにそびえたつ、大きな壁。


「……どうやら、ここは町の端っこみたいだ」


周りを警戒しながら壁を背に進むと、石でできた道が現れる。

そのまま歩いて行くと、整備された石でできた道になり周りにも建物が多くなっていく。

だけど、人が生活している感じはあるけどお店はないんだな……。



しばらくウロウロしていると、あるポスターを見つけた。


『ご依頼は、冒険者ギルドまで!』


へぇ~、これ紙のポスターだ。

でも、濡れてないんだよね。

……よく見ると、表面の端に魔法陣が書かれている。


「この魔法陣が、ポスターを守っているのかな?」


魔法文明の世界といっても、紙をこうしてポスターにできるほど進んでいるのか。

よく中世ヨーロッパ並みだとか小説なんかであるけど、本当の魔法文明は侮るべきじゃないのかもね。


……地図も載っているし、冒険者ギルドへ依頼してみようかな。

この町の案内と宿の紹介を。




▽    ▽




さっそく僕は『冒険者ギルド』に来てみた。

途中で道が分からなくなって、屋台のおじさんに道を尋ねたのは内緒だ。


「ここが冒険者ギルド……」


外観は市役所といったところか。

入り口は開け放たれており、誰でも出入りは自由のようだ。


中に入ると、入り口から見て正面に大きな掲示板が設置されている。

多分依頼書なんだろう、たくさん貼られていた。


そして、左側にカウンターがありそこには受付嬢のお姉さんたちが書類仕事をしている。

まるで銀行のようになっているんだな、カウンター前にはソファも置いてあるし。

で、右側を見れば飲食ができる場所になっていて、昼間からお酒を飲んでいる集団を見つけた。


……騒がしい。

とりあえず、依頼をするかな。



僕がカウンターに向かって歩いていると、いきなり衝撃が右肩を襲った。

しかも、衝撃に耐えきれず3メートルほど離れていたソファに飛ばされるほどだ。

幸いソファには誰もいなかったが、痛みで動けない……。


「うぅ……」


「ギャハハハッ、どうした小僧! 冒険者ならそれぐらいよけれるもんだぞ?!」

「無茶言うなよライド、そんなガキによけられる訳ねぇだろうが」

「ライドは銀ランク冒険者なんだからよ~」

「新人にゃ、無理無理」


「「「「ギャハハハハッ」」」」


……どうやら僕が笑われているようだ。

でも、新人冒険者と勘違いしたからみたいだけど、酷いな。


よく見ると、酔っぱらっているなこの男。


……ダメだ、痛くて何も考えられない。



男たちの笑い声が聞こえるなか、僕の上から何かがライドとかいう男の顔面に直撃した!

足だ! それも女性の飛び蹴りが、きれいに直撃している!


「ぐぶっ!」


ライドは、後方にいた仲間のテーブルに蹴り飛ばされると仲間を巻き込んでド派手に転がった。


「ロージー、ニナ、この子に治癒魔法!」


蹴りを叩きこんだ女性は、すぐにカウンターの受付嬢に命令をする。

何このお姉さん、すごい!


「「はい!」」


ロージーさんとニナさんが、どっちがどっちか分からないけど僕の側に寄ってきて治癒魔法をかけてくれた。

2人とも、詠唱無しで治癒魔法が使えるようだ。


淡い緑色の光が、二人から僕にかけられる。

……はぁ、痛みが引いていく。


「大丈夫かい? ひどい目に合ったねぇ」


ライドを蹴り飛ばした女性が、僕に優しく声をかけてくれる。

そこへ、蹴り飛ばされた男たちがゆっくり立ち上がってきた。


「何しやがる、ロベリア!!」

「何だい、何か文句あるのかい?」

「あるに決まってんだろうがぁ!」


ゆっくりと治癒魔法をかけられ痛みが引いていく中、ライドという男が鼻血を出しながら怒りの表情でロベリアさんに近づいていく。


ロベリアさんは、怯むことなく腰に手を当ててライドと後ろに転がっている男たちを交互に睨んでいるようだ。


「フン、いつもいつも酒が入ると新人いじめを繰り返すあんたらが悪いんだろうが!」

「ふざけるなぁ! 弱ぇ新人が冒険者になるのがいけねぇんだよ!」


「あんたらだって、昔は弱かったくせに」

「何だとっ!」


ライドという男とロベリアさんが睨み合っているところに、ライドの仲間の男の1人が立ち上がり…。


「ロベリア、あんたはギルドの人間だろう?」

「……何が言いたいんだい?」

「冒険者ギルドの職員が、冒険者同士のいざこざに口を出すのは規則違反じゃないのか?」


「ロージー、ニナ、そんな規則あったかい?」

「ないわよ」

「ありませんよ?」


ロベリアさんは、にんまりと笑い男を見る。

文句を言った男は悔しそうだ……。


「おい!そこの新人!女に庇われて恥ずかしくないのか?!」

「悔しかったら、反撃ぐらいしろよ新人!」


悔しそうな男の後ろから、さらに仲間の男たちが罵声を飛ばしてくる。

それを聞いたライドたちも、僕自身を挑発してくる。


「情けねぇ新人だな。冒険者としての意地はねぇのかよ!」

「いい加減、女の影に隠れてないで前に出てきたらどうです?」


「そうだ!前に出ろ猫耳!」


……猫耳って、挑発言葉だったのか?

それより、もしかしてここにいる人たち勘違いしていないかな。

そんなことを考えていると、治癒魔法をかけてくれたニナさんが抱き着いてくる。


「ネコミミの、どこが悪い!」


そして、もう1人のロージーさんも同じように抱き着いてくる。


「……あ~、いい匂い」


え、ちょっとロージーさん?

文句言っていた男たちが、ものすごく睨んでますよ?

ロベリアさんも、少し呆れています。


「あ、あの!」


「あぁ!なんだ新人、文句あるのか?」

「脅かすんじゃないよライド!」

「チッ!」


ロベリアさんが僕の目線に合わせるように腰をかがませると…。


「何か言いたいことがあるなら言ってみな?」

「はい。……あの僕、冒険者じゃないんです」

「へ?」



……みんな固まりました。



「ふ、ふざけんじゃねぇ!!それならそうと早く言えっ!!」

「ちょっと待てライド!」

「あぁ、なんだよ」


今まで強気に挑発していた男が、震えながら僕を指さす。


「こいつが冒険者じゃないってことは……」


「そうだよ、あんたたちは一般人に手を出したことになる」


ロベリアさんが、すごくいい笑顔でライドたちに振り向いた瞬間、ライドたちの顔が青ざめた。


「おい、やばいぞ?」

「ライド、これ以上騒いでギルマスが出てきたら……」

「……降格……」


降格の言葉をつぶやいた男をライドが睨むも、悔しそうな顔をして…。

「くそっ、行くぞ!飲みなおしだ!」


ライドたちは連れ立って冒険者ギルドを出て行った。



「ゴメンなさい、あいつらには後でたっぷりとギルマスにお仕置きさせるから。

それで、冒険者ギルドに依頼に来たのよね?」


ロベリアさんが笑顔で声をかけてくれる中、僕の両側にはまだ抱き着いたままのロージーさんとニナさんがいる。


「あぅ!」

「んっ!」

ロベリアさんが、僕に抱き着いている二人のおでこを叩いて引きはがす。


「ほら、二人とも、仕事に戻りなさい」

「「は~い」」

ロージーさんとニナさんは、名残り惜しそうに仕事へと戻っていった。


僕のケガは2人の治癒魔法で完全に治っている。

ギルド職員ともなれば、このくらいの治癒魔法なんて当たり前なのかな?


「それで、どんな依頼をギルドに持ってきたのかな?」


……なんか、すごい子ども扱いされてる。







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