猫神さまの世界

光晴さん

第1話 プロローグ

猫神さまの世界 第1話




「白い空間か……」


ここは神様が生きている人を呼んだり、魂の状態の人を呼んだりする場所。

ということは、僕を呼んだのは神様ということになる。


『その通りです、魔法神殿』


僕の考えていた疑問に答えてくれたのは、後ろにいた青年だった。

振り返れば、青年は笑顔を見せてくれた。


『初めまして、地球世界の魔法神殿』


「初めまして。えっと、あなたは?」


『俺は創造神。地球世界とは別の世界『フリオル』の神です』


「天照様のお願いで、この世界のお手伝いをお願いされました地球の魔法神です。

地球で暇な神というと僕しかいませんから、これからよろしくお願いします」


僕の目の前の創造神は、満面の笑みで僕の両手を握ると…。


『待ってたよー、いろんな世界にお願いしてやっと君がきてくれた!』


そう言いながら泣きそうなほど喜んでくれている。

天照様によると、この『フリオル』という世界は地球の2倍の大きさがあり、

文明は地球とは違い、魔法文明が発展したのだとか。


それで、暇している僕に白羽の矢が立ったのか……。

ただ、ある程度までの発展で止まってしまい困っているそうだ。


『しかも、魔王だのなんだのとトラブルばかり起こっていてね?

さらに眷属の神が、一部の人に『勇者召喚』を教えてしまったから関係各所への挨拶や謝罪やらで大忙しだよ……』


「それはまた……」


『地球世界の天照殿の日本には本当に迷惑をかけてしまってね、特に学生だっけ?その人たちをこの世界に召喚しては魔王と戦わせたがるし……。

さらに、何度も呼び出したりしているから召喚者の扱いまでうまくなって……。


でも、召喚された人たちも悪いんだよ?

何故か召喚された人たちは、喜んで魔王討伐に参加するのだから……』


あ~、それは日本にある書物の影響だろうね。

僕も昨日まで住んでいたけど、日本の人たちの発想はどこか違うみたいだからね。

特に異世界物の小説は、誤解をまねくものが多いし……。


『う~ん、魔法神殿の考えていることを聞くと、その召喚された日本人たちが特殊だって聞こえるけど?』


「発展しすぎた文明人の弊害ってところでしょうか?

科学文明が発展した地球では、魔法にあこがれを持つ人が増えているんですよ」


『それで空想物語何かで、心を満たそうとしたと?

……それじゃあ、勇者召喚なんかで呼び出された人たちは……』


「十中八九、空想物語のような展開を求めているものと思いますよ」


青年は、大きくため息を吐いた。


『そんなに甘い世界じゃないんだけどね、ここも。

でも召喚陣には、特殊な術式が組み込んであるからそれで勘違いを?』


今度はブツブツと考え始めた。

聞こえてくる青年の言葉を聞くと、召喚された日本人たちはいくつかの行動パターンがあるようだ。


まず、目的通りに動く人たち。

この人たちは、目的を終わらせて元の世界に帰りたがっている人たちだな。


次が脱線する人たち。

最初は目的通りに動くのだが、途中で目的が変わりグダグダとする人たちだ。

ハーレムをつくった人や結婚した人なんかが多い。


続いてが復讐タイプか。

元の世界でいじめを受けたり不幸があったりした人が多い。

勇者召喚で得た力を使っての仕返しが目的になることだな。


さらに我関せずタイプ。

魔王討伐とかどうでもいい、この世界を楽しみたいっていう人たちだ。

こういう人たちは、何故か最強になることが多く当初の目的の魔王も軽く討伐したりするらしい。


……聞こえてきただけでも、召喚された人たちは好きなことしているな~。



「あの、それで僕のやることは……」


『ああ、すっかり忘れていた。

今回魔法神殿にしてもらうことは、地上の現状調査だ』


「地上の現状なら、見たり聞いたりすれば……」


『それが、そううまくいかないんだよ。

この神界から見ることができるのは表面の部分だけ、その国や人々の内情まではわからない。

さらに信徒たちに聞こうにも、仲の悪い信徒たちの暴言の数々。

もうね、辟易するよ……』


げんなりしてるな……。

相当信徒たちには、手を焼いているようだ。

しかし、敬う神に愚痴ってどうなんだろうね……。


「それで僕に、地上の様子を見てこいというわけですか」


『そうなんだ、天使も人の姿にさせて送り込んでいるけど地上は広くてね、手が足りないんだ。

それに、ある程度力を封印してしまうから神たちは行きたがらないし……』


ん?

「力を封印するんですか?」


『そうだよ、俺が知りたいのは地上の現状。

勿論、地上で力を身に付けれるようにするし『不老不死』のスキルも付ける。

だから、危険はないと思うけど……ダメかな?』


「う~ん、それなら僕の地球での力を1つ持っていく許可をください」


『どんな力かによるけど?』


「そんな危険なものじゃありません。

僕の『箱庭』を持っていきたいんです」


『魔法神殿の箱庭っていうと、空間魔法で亜空間に造ったあの世界?』


「そうです。 ……ダメですか?」


『……天照殿にも良しなにと言われているし、今回は特別に許可しよう。

それじゃあ、この身分証カードを持って【ステータス】と唱えてみて』


僕は青年から、少し厚みのある一枚のカードを受け取ると…。


【ステータス】


名前  

年齢  15歳

種族  猫獣人族

職業  

レベル 1

生命力 100

魔力  400

スキル 異世界言語 幸運 (不老不死)

    空間魔法 魔力操作

称号 (箱庭の主 異世界の魔法神)



「いろいろと表示されましたね……」


青年は僕の横に並んで、カードをのぞき込む。

そして、何度か頷いて…。


『今表示されているのが、地上に降りた時の魔法神殿の力になります』


「こんなに弱くなるんですね……」


『それだけ、神の力はずば抜けているんですよ。

たとえ人々から信仰されていなくてもね?』


なるほど、僕のような地球で忘れられたような神でも『神は神』というわけか。


「この猫獣人族というのは……」


『それは、魔法神殿に合う身体がそれしかなかったもので……。

そ、それよりも、名前を決めましょう。

地上で生活するには、名前が必要ですよ~』


……まあ誤魔化された感があるが、猫獣人でもいいか。

箱庭を認めてもらったし。


「猫獣人に似合う名前がいいかな……」


『似合う名前といっても、人族とそう変わりませんよ?』


この世界では、種族ごとに名前の違いはないのか……。

それなら、あの名前でいいかな。


「では、僕の名前は『コテツ』にします」


『ふむ、何かこだわりがあるのですか?』

「いえ、日本に住んでいた時の隣の住人が飼っていた猫の名前です」


『……そんな決め方でいいんです?』

「地上で生活する時だけの名前ですし、こだわる必要はないですよ」


『……コテツ殿がそう言われるのなら、俺は何も言いませんけど』


「それで、この職業は?」

『それは、俺が送る場所で仕事に就けば表示されます。

仕事に就かなければ、表示はされませんよ』


仕事か、日本に住んでいた時はバイトだけで暮らせていたからな……。



「スキルに『空間魔法』がありますね」

『ええ、俺が箱庭を認めましたからね。

それと、空間魔法があるので「アイテムボックス」は外しました』


それはそうか、空間魔法があれば『アイテムボックス』と同じ機能の空間収納が使えるんだよね。


「あと、このカッコは何です?」

『それは本人以外は見えないようになっているんですよ。

ただ、ここは神界なので俺にも見えていますが、地上では見える人はいませんから安心してください』


……そうだよね、不老不死とか見えたりしたら大変なことになりそうだ。


『他に質問はないですか?』


「……そうだ、僕が送られる場所の説明がまだでしたよ」


『そういえばそうでしたね……』


青年は空間に手を突っ込み、一枚の紙を取り出した。

空間収納だ。

……そうだよね、ここは『フリオル』の神界。


魔法文明の世界なんだった。


『コテツ殿を送る場所は、ゴルドム王国のルビリストという町の中です。

直接町の中に送りますから、危険はないと思います』


町の中なら危険はないかな……。

でも転移したところを誰かに見られるという可能性は……。


『それは大丈夫。誰もいない場所がありますから安心してください』


「えっと、場所はわかりましたけど資金はどうしましょうか?」


青年は、忘れてましたと布の小さな袋を空間の中から取り出し…。

『この中に地上の貨幣が入っています。

この貨幣がなくなる前に、仕事を見つけてください』


「わかりました」


『服などは今着ているもので、当分は大丈夫でしょう。

では、そろそろ転移しますよ?』


……いよいよか、魔法文明の世界って初めてなんだよね。

だから楽しみだ。


「では、お願いします」


青年は頷くと、僕を『フリオル』の世界へ転移させた。



『はぁ~、無事送ることができたし、天照殿に報告しておかないと』

青年の声だけが、誰もいない白い空間に響いた。






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