第11話 抱擁
翌日ルカはアインズに再度連絡を取り、アゼルリシア山脈に向かう日程を明日に設定した。一旦ナザリックに集まった後にフルバフを行い、
ルカはその日の夜にイグニスとユーゴを冒険者ギルドの組合長室へ呼び出し、極秘のミーティングを行った。
「...ルカ姉、つまりそのエグザイルと言うのは、ユグドラシルという世界のプレイヤーと呼ばれる人達の事で、ルカ姉とそのアインズさんって人もユグドラシルから来た、という事でいいんですかい?」
「そう、それで合ってるよユーゴ。ちなみに明日狩りに参加するアインズウールゴウンはアンデッドだけど、プレイヤーというのは私も含め元々全て人間だったんだ。明日はアインズの部下たちも多数参加するけど、彼らは全て異形種..つまりは言葉を話し、自我もあるモンスターと思ってもらえばいい。だから明日顔を合わせた時には、必要以上に驚かないようにしてね。彼らに失礼だし」
「ちょっと待ってください、”私も含め”というのは、ルカさんも人間ではないという事なんですか?」
「今更それを聞くの?私の種族はセフィロトと言って、簡単に言ってしまうと
「と言う事は、ミキさんとライルさんも?」
「そうよイグニス」
「当然そうなるな」
「...道理で敵わない訳だ」
イグニスはガクッと頭を垂れた。彼らと過ごしたこの数ヶ月間に及ぶ地獄のような特訓の日々を思い返し、なぜ3人に勝てないのかという疑問が一気に解決してしまったイグニスは、深い溜め息をついて首を降るしかなかった。
「そうしょげるなイグニス。私から見てもお前達は
ルカはイグニスの肩をポンポンと叩いて屈託なく笑った。
「それにしても、何故今頃になってそんな大事な事を? もっと早くに教えてくだされば良かったのに」
「いやまあ、特に話す機会もなかったからね。それとも何?私達がセフィロトだと知っていたら、教えは乞わなかったとでも?」
「そっ!!...そんな訳ないじゃないですか、俺はただ.....」
「ただ、何?」
「いえ、何でもありません!とにかくその件に関しては承知しました!」
イグニスは何故か紅潮し、はぐらかすように返事を返した。隣で見ていたユーゴがニンマリとした顔でイグニスに詰め寄ってくる。
「...ははーんさてはお前、ルカ姉に惚れ..いってー!!」
そう言いかけたユーゴの足を、イグニスは踵で思いっきり踏みつけた。
それを見てミキとライルは笑っていたが、ルカはイグニスに顔を近づけて、悪魔のように美しい微笑を返してきた。
「イグニス...君、セフィロトになってみたい?」
「...えっ?」
それを聞いてイグニスとユーゴは凍りついた。
「ルカさん。そ、それは...なれるんですか?俺達でも」
イグニスはゴクリと唾を飲んだ。ルカはその返事に意外そうな顔をしたが、イグニスの真っ直ぐな目を見て自分の椅子に座り直した。
「...いや、セフィロトに転生する為にはまだ条件が足りない。しかしガル・ガンチュアとカオスゲートさえ見つけることが出来れば、私の持っているアイテムを使用して君達でも転生する事は可能だよ」
イグニスは床に目を落とし、両手を握って真剣に考えた。
「少し...考えさせてもらえませんか」
「こら、なーにマジになってるの!無理に転生させたりしないから、そんなに考え込まないの!」
「いやしかし、そのセフィロトに転生する事で、ルカさん達3人と同じ次元に立てるんですよね。人間では絶対に到達出来ない、別次元の領域に」
「イグニス...」
「お、俺は遠慮しておこうかなルカ姉!やっぱ生身が一番かな〜なんて」
ユーゴが凍りついた場の空気を和ませようと茶々を入れてきた。
「...フフ、お前ならそう言うと思ったよユーゴ。そういう訳だからイグニス、そんなに深く考え込まないの。ほら、ミーティングの続き始めるよ」
「分かりました」
「それじゃあ、明日狩りに行くドラゴンの種類だけど...」
そうしてミーティングが続いたが、ミーティングが終わった後も、イグニスの表情が晴れる事はなかった。
そして翌日の朝、黄金の輝き亭のルカ達が泊まる寝室に5人が集まり、
ナザリック第九階層の客室ロビーに到着すると、そこにはそうそうたる面々が顔を連ねていた。アインズを筆頭に、アルベド・デミウルゴス・シャルティア・コキュートス・マーレ・アウラ・セバスという構成だ。
「やあみんな、集まってるね」
「ルカか、よく来た。...後ろの二人が例の人間か?」
「そうだよ。ほら、二人共固まってないで自己紹介して!」
「...え?! あ、はい!失礼しました!私はイグニス・ビオキュオールと申します、職業はウォー・クレリックです。ルカさんからお話は伺っております、足手まといにならないよう頑張りますので、以後よろしくお願い致します!」
「お、俺はユーゴ・フューリーと申します!職業はテンプラーです、よろしくお願いします!」
「イグニスにユーゴ、そう固くなるな、私もお前達の話はルカから聞き及んでいる。私の事はアインズと呼んでくれ。さてルカ、こちらの準備はできているぞ。今回はアルベドに残ってもらう事にした。私達が不在の間ナザリックを頼んだぞ、アルベドよ」
「承知致しました」
「了解、これで丁度12人だね。こちらが5人だからそっちからあと一人欲しいんだけど....デミウルゴス、頼んでもいいかな?」
「もちろんですとも。アインズ様、よろしいでしょうか?」
「うむ、よかろう。確かにその方がバランスが取れるな。これで2グループがフルになった訳だ」
「じゃあこちらは私・ミキ・ライル・デミウルゴスにイグニスとユーゴ、そっちはアインズ・コキュートス・シャルティア・アウラ・マーレ・セバスだね。OK、それじゃフルバフを開始しようか。私のグループ支援魔法もかけるから、アインズチームもみんな真ん中に集まって。それとこれから行くアゼルリシア山脈にいる相手は、平均レベル90から120の
そう言うとルカは両手を左右に広げて、フルバフを開始した。
「
それを受けて、アインズも両手を広げてフルバフを開始した。
「
アインズ達のフルバフが完了したのを確認し、最後にルカはもう一つ魔法を唱えた。
「
それを唱えると、中央に集まった12人の体がほのかに黄金色の光に包まれた。
「何とルカ....お前はコマンダーのサブクラスまでも習得しているのか?確かこの魔法の効能は...」
「その通り、アインズは博識だね。
「すばらしい、すばらしいぞルカよ。傭兵ギルドとは伊達じゃないという事か。これで非常に高効率な狩りができそうだな」
「へへ、そういってもらえると嬉しいよ。やっぱ少しでも楽ができるに越した事はないもんね」
「よし、全員装備は戦闘用に変更したな。全力で当たるぞ、皆の者良いな!」
「ハッ!!」
アインズの激を受けて、ナザリックの階層守護者全員が気合を入れた。
「みんないい?転移門を抜けたらすぐ戦闘だから、各チームバラけないようにすぐに陣取ってね。コキュートス、氷結耐性の高い君が要だ。先陣よろしくね」
「先陣ヲ任サレルトハ身ニ余ル光栄!承知シマシタ、ルカ殿」
「OK、じゃあいっちょ行こうか!
正面に開いた時空の門が開き、12人全員がなだれ込むように突入した。
一瞬にしてアゼルリシア山脈の頂上北西部に辿り着くと、目の前には蛇のように細い肢体を持った白銀のドラゴンが4体姿を現した。それと同時にルカは叫んだ。
「コキュートス!!」
「了解デスルカ殿」
青白いコキュートスの体全体に漆黒の炎が宿り、一番手前にいる
「三毒ヲ斬リ払エ倶利伽羅剣! 不動明王撃!!」
それを受けてコキュートス正面の
「シャルティア、今だ!」
「言われなくてもわかっているでありんす!!
シャルティアの強力な炎属性DoTをまともに受けた
「イグニス、ユーゴ!
「了解、
「
「
「
「
3人の放った強力な斬撃に加え、ルカの武器に付与された炎属性Procにより、
「よし、次2匹来るぞ!アインズそっちは頼んだ!」
「了解した。
アインズがそう唱えると、左翼にいる
「
地表の氷を突き破り、地面から生えた無数の巨大な茨の枝が
そこへすかさずコキュートスとセバス、アウラが追撃を食らわせた。
「レイザーエッジ!!」
「
「
実に統制の取れた動きを見せるアインズチームは、
「いいねぇ、こっちもやるぞ。ライル・デミウルゴス、前衛は任せていいかい?」
「無論!」
「お任せくださいルカ様」
「OK、行くよ。
ルカは
「
相手の刺突・斬撃・打撃耐性が急激に下がったのを見計らい、デミウルゴスが追撃を加えた。
「悪魔の諸相・豪魔の巨腕!!」
デミウルゴスの右腕が瞬時に巨大な漆黒の拳へと膨れ上がり、
「
それをまともに食らった霜の竜はもはや風前の灯火だったが、ルカとミキがとどめを刺しにかかった。
「
「
それを受けて
『各員へ、状況・フィールドボス!こいつはレベル120を超えている。火力も高いから絶対に油断するな。まずは手前の
『了解した、ルカ!』
ルカとは対象的にアインズは冷静だったが、敵後方のフィールドボスが広範囲に渡る強力な氷結系ブレスを吐いた事により、事態は一変した。アインズチームの前衛であるコキュートスは冷気ダメージを凌いだが、シャルティアがブレスにより固まってしまい、身動きが取れなくなってしまったのだ。
前衛の
このままでは不味いと踏んだルカは、アインズ達のチームをカバーするように前衛へ躍り出た。
「デミウルゴス!」
「了解しました。悪魔の諸相・触腕の翼!!」
デミウルゴスは背中から生えた翼の羽を矢のように飛ばし、
『いいかみんな、私が合図したら一斉に後方へ退避しろ! アインズいいな?』
「了解した!
アインズは応戦しながら徐々に後退を開始した。ライルが敵のターゲットを取り、フィールドボスを含む二匹の
「
ルカは頭上高く飛び上がり、
「今だ、全員後方へ退避!!」
それを聞くが早し、アインズチームとルカを除くチームは一斉に後方へ飛び退いた。アインズが頭上を見上げると、ルカの周囲に巨大な赤い魔法陣が幾重にも折り重なり、強く輝いている。
「....あのエフェクトは、まさか...!」
アインズの思惑も他所に、天高く両腕を掲げたルカの手に凝縮された黒い光が集まっていく。まるで極厚の鋼鉄を無理矢理に捻じ曲げているかの如く不吉な音が辺りを満たしていた。
ルカはその両腕を、
「超位魔法・
凝縮され、巨大に膨れ上がった暗黒のエネルギーが円形状をなし、二匹のドラゴンに向けて叩きつけられた。その超重力に押し潰された二匹の竜は氷の地面に押し付けられ、(ベキベキ)という鈍い音を立てて全身の骨が粉砕される音が聞こえてきた。
二匹の
竜が消滅したと同時に、ルカ・ミキ・ライル以外のメンバーの体が青白く光った。アインズはそれを見て、レベルアップしたのだと実感した。
宙に浮いたルカはそれを見てゆっくりと下降し、地面に降り立つ。そこへ向かって全員が駆け寄り、皆口々に称賛の言葉を送った。
「ルカよ、どこまでも底の見えないやつだなお前は。あんな超位魔法を隠し持っていたとは。ナザリックで私達との戦いで使っていたなら、勝負は一瞬で決まっていただろうに」
アインズは溜め息混じりに首を振って嘲笑した。
「使うわけないでしょ。私、君達の事好きだし」
「それが理由か?」
「それが理由よ、変?」
「...いいや、誰が変などと思うことか。心強いぞルカよ。私もその気持ちに答えようと思う。ありがとう」
「フフ、なら良かった。みんなのレベルも無事100を超えて上がったようだし、今日は一旦ナザリックに戻ろうか。まだ初日だし、反省会もしないとね」
「そうしようか。私はこれでレベル101になったわけだな」
「うん。でもあまり焦らずに頑張ろうアインズ。私はいつでも一緒にいるから」
「ああ。私もお前たちの2350年という可能性に賭けたくなってきたぞルカよ。これからもよろしく頼む」
「...アインズ、お願い。今だけでいいから、ハグさせて」
「ああ、もちろんだ」
ルカは首に手を回し、アインズの右頬にかかったローブに顔を埋めた。吹き荒ぶ氷の山脈頂上で、二人はただ熱く、抱擁を交わした。
--------------------------------------------------------------------------------
■魔法解説
装備した武器に最高位の炎属性Proc効果を付与する魔法
パーティー全体に対し、モンスター及びプレイヤーを倒した際に手に入る経験値を1.8倍にまで引き上げる魔法
敵に対し神聖属性の光弾を放つ魔法
炎属性DoT。テンプラーは物理攻撃・魔法攻撃が+50%追加上昇される
超位魔法・
■武技解説
ダガーによる10連撃と共に、闇属性Proc発生確率を90%にまで引き上げる為、強力な瞬間火力を持つ
全身のエネルギーを炎属性に変えて掌に集中し打ち出す打撃属性の攻撃。一撃の威力はさほど高くないが、手数で攻める為総合的な攻撃力は高い
鞭全体に炎を纏わせ、相手の体に巻き付かせて焼き払う武技
敵の正中線のみを狙い超高速20連撃を食らわせる急所攻撃。それによりクリティカル率を80%まで引き上げる効果も持つ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます