第10話 訓練
蒼銀のカルネ亭に到着すると、宿屋入り口の前でイグニスとユーゴが待ち構えていた。
「おかえりなさいルカさん!帰りが遅いので心配していました」
「ミキさんもライルの旦那も無事なようで何よりでさぁ!」
「ただいまイグニス、ユーゴ。村の方は何もなかったかい?」
「静かなものです、外からの行商人や来訪者も5人ほどでした」
「そうか、ご苦労様。もう夜更けだし、みんなで一杯やっていこう。エ・ランテルには明朝帰る事にしたから、今日も宿の世話になるよユーゴ」
「了解ですルカ姉!部屋の方はバッチリキープしてありますんで」
「フフ、ありがとう」
5人はバーカウンターに座ると、酒を注文して乾杯した。
「ところでルカさん、今日向かった北東の草原で何かあったのですか?」
「ん?まあ、一応成果はあったよ。何で?」
「いえ、その...妙に晴れ晴れとしたお顔をされていたので」
「あたしの顔がそんなに気になるの?」
ルカは微笑しながら、右に座るイグニスに顔を近づけてにじり寄った。イグニスの顔がみるみる紅潮していく。
「い、いえその!無事に任務を終えられたのならそれでいいのですが」
「あのねー、そういう時は素直に気になるって言っておけばいいの!」
珍しくルカが酔いに身を任せているのを見て、ミキとライルもそれに続くように酒を呷った。
「今日は良い日でしたね」
「全くだ。久々に全力戦闘を楽しめたしな」
「ミキさん、ライルの旦那も、戦ってきたんですかい?! くぅー、見たかったなー!」
「お前たち、間違っても北東のフィールドには近づくなよ。お前たち二人では一瞬で殺されてしまうからな。マスター、地獄酒おかわり」
イグニスとユーゴはそれを聞いてキョトンとしていた。ルカ達3人が全力を出すほどのモンスターが北東にいるとは、聞いたこともなかったからだ。
「それでルカさん、結果的にはどうなったのですか?」
「...ああ、友人が一人増えたよ」
「友人ですって?」
イグニスは首を傾げたが、ルカはイグニスの背中を叩いてはぐらかした。
「まあ細かい詮索は無しだ。今日というめでたい日を今は祝おうじゃないか!」
ルカは今までに見せた事がないほど、とびきりの笑顔でジョッキを天高く掲げた。
その日は深夜0時過ぎまで飲み明かした。ルカ達は部屋に戻って風呂に入り、体を洗い流した後それぞれがベッドに腰を下ろした。
「ルカ様、今後の方針はいかが致しましょうか」
「そうだな...南へすぐに向かってもいいんだが、その前にエ・ランテルに着いたら、イグニスとユーゴを試してみるか」
「稽古をつけると?」
「まあ、その前段階と言ったところかな。時間も惜しいし、先に伸ばせるところは伸ばしておいた方がいいと思ってね」
「かしこまりました」
ルカは左手首にはめたリストバンドのボタンを押し、目覚ましのアラームを設定した。3人は就寝し、長い一日が終わった。
明朝9:00。ルカ達が宿屋を出ると、入り口にはイグニスとユーゴが馬車を用意して待機していた。その前に、カルネ村村長とエンリに一言挨拶を終えて、5人はエ・ランテルへと進路を向けた。
村から500メートルほど進んだ小高い丘の上で、ルカは魔法を唱えた。
「
馬車は時空の穴を通り、一瞬でエ・ランテルの北門手前300メートル程まで到着した。
そのまま北門をくぐり、漆黒の馬車は冒険者組合の前で止まった。
入口の扉をゆっくりと開けると、朝にも関わらず中は冒険者達で盛況だった。
5人は2階の階段へ向かう途中で、周りの冒険者達がルカの存在に気付き、皆口々に(ルカ・ブレイズ)とその名を呼びながら左胸を拳で叩き、挨拶をしてきた。先日の騒ぎですっかりその名が広まってしまったようだった。ルカは仕方なく右手を上げて彼らに挨拶を返した。後ろからついていったイグニスとユーゴは、何故か誇らしげに胸を張っている。
2階のドアをノックして、5人は中へ入った。部屋の奥にある机でプルトン・アインザックは書類の整理をしていた。
「プルトン、帰ったよ」
「ルカか、何だ随分早かったな」
「まあね。っと....その前に、ミキ頼む」
「
ミキが魔法を唱えた途端、周囲の雑音という雑音が完全にシャットアウトされた。
「この椅子借りるよ」
「うむ...しかしそこの二人がいては」
プルトンはルカ達の後ろに立つイグニスとユーゴを一瞥し、眉間に皺をよせた。
「ああ、彼らならいいんだ。いろいろと教えたし、口も堅いからね。そうでしょ2人とも?」
ルカに促されて、イグニスとユーゴはもちろんと言わんばかりに姿勢を正した。
「....わかった、なら良いのだが。それで北東はどうだった?」
「ああ、エグザイルに会えたよ。これがマップね」
ルカは中空に手を伸ばし、ポッカリと空いた暗黒の中に手を突っ込むと、オートマッピング用のスクロールを取り出してプルトンの机の上に投げた。スクロールの紐を解き、プルトンはマップを精査していく。
「あの平原にダンジョンだと?! しかもエグザイルまで転移しているとは....」
「だから言ったでしょ?マップは常に変動するって」
「戦闘になったのか?」
「うん。向こうもこちらの力が知りたかったみたいだからね」
「友好関係は?」
「もちろん築けたよ。戦闘の方も試合をしただけで誰も殺してないし」
「そうか。全てを話したのだな?」
「プルトンに教えた時と同じように、彼らにも全てを話したよ。それと詳しくは聞く時間がなかったけど、カルネ村を救った英雄であるアインズ・ウール・ゴウンと冒険者モモンは、恐らく同一人物だね」
「やはりそうだったか。それで、彼が転移してきた年代は聞けたのか?」
「2138年。十三英雄にいたエグザイルと同じだったよ」
「となると、お前が以前話していたようにこの世界の時系列は入り混じっているわけか」
「そうだね。プルトンと私の関係も彼には話してある。彼も敵対する気はないみたいだから」
「そうか、なら一安心だな。それで、肝心なガル・ガンチュアとカオスゲートに関する情報はあったのか?」
「いや、彼らも転移してきてから間もないのだろう。そこら辺の情報は私達が一方的に教えただけで、彼らは何も掴んではいなかった」
「なるほどな。2138年と2350年....212年の差か、止むをえまい」
「そうだ言い忘れていた。カルネ村でンフィーレア・バレアレと会ったよ」
「何だと? そういった情報はこちらに入ってきていないが....」
「急遽移住を決めたという事は、彼にも何か事情があるんでしょ。話もしたけど、特に害もないからそっとしておいてあげればいいさ」
「それもそうだな」
「こちらの情報は以上だ。そっちは何か進展はあったの?」
「いや、目新しい情報は特にない」
「そっか。じゃあこのミッションはコンプリートという事でいいね」
「..........ふーむ」
プルトン・アインザックは黙り込み、ルカの顏をまじまじと眺めた。
「? 何よ、私の顏に何かついてる?」
「いや....お前、何かあったのか?」
「何かって?」
「いやその、ここへ入ってきた時から違和感があったのだが、何というか粗暴な言葉遣いが消えて物腰が柔らかくなったというか....女性的というか....」
「ああ....その事ね。アインズにも話したけど、私はもう抵抗するのをやめたの。いいのよ笑ってくれて」
「.....ま、まあその、何だ。そういう事ならいいのではないか? 私もそっちのほうが良いと...ゲフンゲフン」
「何よ、言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ」
「いやいやルカ、何もないぞ!お前はそうあるべきじゃないかと私は常々思っていたんだ」
「.....それ本当?」
「もちろんだとも」
「ふーん....ならいいけど。話は変わるけど、イグニスとユーゴをしばらく借りてもいい?」
「私はともかく、本人たちの意向もあるだろう。何をするつもりなのだ?」
「大した事ではないんだけど、この二人に少し稽古をつけてあげようかと思ってね」
それを後ろで聞いていたイグニスとユーゴは顔を見合わせ、願ってもない事と言わんばかりにガシッとお互いの腕を組んだ。
「二人はどうなのだ。それで構わないのか?」
「も、もちろんです!!ルカさん達に教えを乞えるのならば、身に余る光栄です!」
「俺もです組合長!こんなチャンス、滅多にくるもんじゃねえ!」
「なら決まりだな。ルカ、くれぐれも二人を潰すような事はしてくれるなよ」
「そんなつもりは毛頭ないよ。じゃあ二人とも早速だけど、城塞側の練兵場に行こうか」
「はい、よろしくお願いします!」
「ルカ姉の行く先にゃあ、どこまでもついていきますぜ!!」
「気張るのは構わないけど、途中で弱音を吐かないでねユーゴ」
イグニスとユーゴはそれを聞いて固唾を飲んだが、二人は覚悟を決めてプルトンの部屋をあとにした。
練兵場の入口でプルトンが書いた許可証を正規兵に見せて、5人は中へと入った。
早朝だった事もあり、ルカ達5人以外に訓練兵は見当たらなかった。それを確認するとルカは中空に手を伸ばし、様々な武器を取り出して地面に並べた。
片手剣と盾、両手剣、スピア、斧、杖、鞭、ダガー1対と、考えられる基本的な全ての種類の武器を取り出し、ルカはイグニスとユーゴに促した。
「二人とも、それぞれ自分に合うと思う武器を選んでみてくれ」
「ルカさん....今武器をどこから取り出しました?」
「そんなことは気にしなくていいから!じゃあまずはイグニスから選んでごらん」
「分かりました」
そう言うと、イグニスは両手剣を手に取って装備した。
「よし、じゃあそれで私に切りかかってきて。本気でね」
そう言うと、ルカは両腰に差したエーテリアルダークブレードを抜いた。
「そ、それでは行きます!」
「いつでもいいよ」
イグニスは正眼に構えてルカの間合いに飛び込み、左肩目がけて剣を振り下ろした。
しかしルカは両手剣の一撃を左片手で受け止めると、ライトアーマーを装備したイグニスの胴体に右手ロングダガーの柄を叩きつけ、瞬時に5連撃を繰り出した。
「グハァ!!」
その勢いでイグニスの体が浮き上がり、5メートル後方まで吹き飛ばされた。
「はい、イグニス死亡。次、ユーゴ!今のを見て分かったでしょ? 君も慎重に武器を選んで、私に本気で切りかかってきて」
「ル、ルカ姉、一つお手柔らかに....」
「だーめ。まずは相手との圧倒的な力量の差を体に分からせないと、そこからどう対処していいかわからないでしょ?」
ユーゴの顏がみるみる青ざめていくが、彼は諦めて片手剣と盾を装備し、盾を前面にして身構えた。
「盾か。ならこちらから攻めてみるか」
そう言うとルカは鬼神のような形相でユーゴの懐に飛び込み、その盾に向かって超高速の10連撃を叩きこんだ。ユーゴの持つ盾が無残にも破壊され、その勢いを食って彼の体が後方に吹き飛ばされた。
「あれ、もう壊れちゃったか。もう少し頑丈な盾を出そう。よいしょっと」
そう言うとルカは中空に両手を伸ばし、先程よりも一回り大きなタワーシールドを取り出して地面に置いた。
「二人共いい? この訓練では、君たちに一番合う武器を選ぶのが目的だから、それを踏まえた上で慎重に選んでね」
「ルカさん、それを先に言ってくれれば...」
「フフ、それを先に言ったって、君たちのレベルじゃ私の攻撃は防げないから意味ないよ」
「手厳しいなあ、ルカ姉」
「訓練は厳しいものさ。それに君達はこれから上位の冒険者になるための入口にいるに過ぎない。分かったらほら、さっさと立って!」
そう言われてイグニスとユーゴはよろめきながら立ち上がった。次にイグニスは先程の反省を踏まえて、軽量なダガー1対を選択した。ユーゴは片手剣とタワーシールドを再度装備する。
「今度はダガーか。私の真似かい?」
「上達するには、人の真似から始まるという言葉があります」
「いいよ、かかっておいでイグニス」
「行きます!」
ルカの懐に飛び込むと、イグニスは胴体目がけて右手で刺突攻撃を繰り出してきたが、ルカはそれを躱してイグニスの喉元にロングダガーを走らせた。しかしそれをイグニスは左手のダガーで懸命に防ぐと、体ごと左に捻りルカの左肩を狙って2連撃を繰り出してきた。それをルカはロングダガーをクロスさせて受け止めると、後方に下がり間合いを取りなおした。
「....急に動きが良くなったね。確かに君にはダガーが合っているかもしれない」
「続けて行きますよ!!」
イグニスは再度ルカに突進して右肩を狙ってきたが、それをロングダガーで弾くとルカは右回りに大きく体をひねり、柔軟な体をしならせてイグニスの後頭部に回し蹴りを食らわせた。それを受けてイグニスは地面に叩きつけられる。
「悪くはないが、武器に捕らわれ過ぎだ。ダガーを使うのなら体全体を武器と思えイグニス。次、ユーゴ!」
タワーシールドを装備したユーゴは、盾を前面に押し出して突進してきた。間合いに入ると、ユーゴは盾の影からルカの胴体目がけて刺突攻撃を繰り出してきたが、ルカはそれをロングダガーで弾く。ここでユーゴが予想外の行動に出た。左手に装備したタワーシールドごとルカの体に叩きつけてきたのだ。しかしルカはそのシールドバッシュを左手のロングダガー1本で受け止め、ユーゴの右首筋にロングダガーの柄を叩きつけた。
ほんの短い時間の間に、二人の動きがどんどん良くなってきているのをルカは感じていた。
「ユーゴ、今の攻撃悪くなかったよ。でもそこから次に繋げられる攻撃を身に付けなくちゃね」
「いっつつ、りょ、了解ですルカ姉!」
「イグニス、立てるかい?」
「もちろんですルカさん!」
「よし。じゃあ二人とも、腰を落とし武器を構えて動かないで。これから私が君たちに本気のスピードで攻撃を加える。もちろん体に当てはしないが、アダマンタイト級の冒険者はこのくらいのスピードを出す事も可能という事をまず見てもらいたい。ミキ、ユーゴの方を頼んでいい?」
「承知しましたルカ様」
イグニスは両手に握ったダガーを逆手に身構えた。ユーゴは変わらず、タワーシールドを前面に身構えた。
「じゃあ行くよ.....
「
ルカとミキの目にも止まらぬ超高速20連撃を受けて、二人は後方に吹き飛ばされた。
二人は地面に倒れたまま、信じられないという表情で天を仰いでいた。
「イグニス、ユーゴ。今の攻撃見えた?」
「いいえ.....全く見えませんでした」
「右に同じっす.....」
「見えなくてもいいけど、どういう種別の攻撃かは理解できたでしょ?」
「はい、恐ろしい程のスピードで瞬時に連撃を繰り出す武技とだけは理解できました」
「今はそれで充分、さあ立って、もう一度!」
こうして早くも数週間が過ぎ、イグニスとユーゴは日々確実に強くなっていった。手を抜いているとは言え、ルカ達のスピードに引っ張られて二人とも食らいつきながら、着実に成長を遂げていた。
ルカは頃合いを見て、その時点でイグニスとユーゴが装備できる最高級の武器防具・アクセサリー等を与え、冒険者ギルドの依頼を受けさせていった。無論ルカ達は手出ししないという約束でついていくだけだが、彼らは数多くの依頼をこなし予想以上の戦果を上げ、驚くほどのスピードでカッパーからアイアンプレートに昇格した。
そこからトブの大森林へレベル上げのために同行し、高レベルモンスターを相手にパワーレベリングを行った。その時点でイグニスのクラスはシーフ、ユーゴのクラスはレンジャーだったが、彼らが最初のクラスを極めたところでルカは一計を案じた。イグニスを信仰系のクレリックとして育てた後、戦神の衣を使用させてウォー・クレリックに転職させ、ユーゴには盾と鎧が持つディフェンスを生かす為、精神支配系のウォーロックを極めさせた後に、炎を司る魔法戦士テンプラーへとクラスチェンジさせた。
無論その為に必要な魔導書もルカが用意して彼らに与え、魔法を使う際の手ほどきもルカとミキが率先して行った。その後もモンスター討伐系の依頼を数多くこなしてレベルを上げ、たった2ヶ月足らずの間に、あり得ない速さで彼らはミスリルプレートにまで成長した。
当初は簡単な手ほどきで終わらせようと考えていたルカも、彼らの成長速度に目を見張り、結果的には2人に付きっ切りで指導を行い続けていた。そうして彼らも一人前の戦士として名が売れ始め、冒険者ギルドから指名の依頼も増えてくるようになった。
そこでルカは、プルトン・アインザックから受けた極秘の依頼にイグニスとユーゴを同行させる事にした。高レベルモンスターの討伐は元より、周辺諸国の偵察・ダンジョンの探索や超希少アイテムの入手等、決して表には出ない依頼に彼らを同行させ、より過酷な実戦経験を2人に積ませていった。
依頼もひと段落し、黄金の輝き亭で宿泊し眠りについていたルカは、ふと目を覚ましてベッドから体を起こした。ここ数か月はイグニスとユーゴの育成にかかりっきりで、アインズとろくに会話も出来ていない事が心に引っかかっていたルカは、彼に向けて
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『アインズ、私だ』
『ルカか、しばらくだな』
『久しぶり。そっちはどう、うまくやってる?』
『まあぼちぼちといった所だな。お前はどうだ?』
『ああ、前に話したイグニスとユーゴのパワーレベリングにかかりっきりでな。連絡が疎かになってすまない』
『気にするな、こちらもリザードマンの集落を配下に加えたりと、色々立て込んでいたからな』
『おお、また派手に動いたね。もしそっちが落ち着いたのなら、今少し時間を取れない?今後の事も話をしておきたいし』
『私ならいつでも構わないぞ』
『助かるよ。今はナザリックにいるの?』
『そうだ』
『じゃあ、
『了解した』
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ルカはベッドから立ち上ると、鼻歌混じりでクローゼットのハンガーにかけられたレザーアーマーを装備し始めたが、それに気づいてミキが起き上がってきた。
「ルカ様、どちらへ?」
「ごめんミキ、起こしちゃった?」
「いいえ大丈夫です。それよりもこのような夜更けにお一人でどちらへ行かれるのですか?」
「ああいや、アインズと少し会って話してくるだけだよ。ミキは寝てていいから」
「そういう訳には参りません! 行くのであれば私も同行いたします」
「そうか、じゃあ一緒に行こう。ライルは寝かせてお......」
ルカがそう言いかけた途端、部屋のドアから(コンコン)とノックが響いてきた。
ドアを開けると、既にフル装備となったライルが立っていた。
「ライル?!よく気付いたね」
「気配を察知しましたもので、急ぎ部屋に参った次第でございます」
「オッケー分かったよ、3人でナザリックに行くとしよう」
ルカとミキは急いでレザーアーマーを着込み、ベルトを締めて準備を整えた。
「
門をくぐった先は、以前にも来た第9階層にある客室中央のロビーだった。
そこには物騒な恰好をしたメイド達が二人、頭を下げて待ち構えていた。
「ルカ様、ミキ様、ライル様、お待ちしておりました。私はナザリックを守護する戦闘メイドが一人、ユリ・アルファ。こちらがシズ・デルタです。ご用命の際は何なりとお申し付けくださいませ。アインズ様は玉座の間にてお待ちです。こちらへどうぞ」
二人に先導され、長い回廊を歩いて3人は大きい扉の前に案内された。ユリがその扉を開くと、天井の高い吹き抜けになった大広間が広がっている。左右の壁面上には、様々な紋様が描かれたフラッグが飾られていた。その部屋最奥部には、玉座の左に立つアルベドと、玉座に座ったアインズが目に入った。
「やあアインズ、アルベド。こんな夜更けに申し訳ない」
「よく来たルカよ。私はアンデッドだ、睡眠は必要ない。気にするな」
「ありがとう。それにしてもこの部屋もすごいね。玉座の間と呼ぶに相応しい作りだ」
「フフ、ルカよ。お前達をわざわざこの玉座の間に招いたのは訳があってな。これの事なのだが...」
そう言うとアインズは玉座から立ち上がり、 背もたれに手を添えた。
「...え?もしかして、その玉座の事を言ってるの?」
「そうだ。これは諸王の玉座といってな、このダンジョンを適正レベル且つ初見攻略する事でのみ手に入るという、
「...それはつまり、アインズがユグドラシルの終焉を迎えた場所って、この玉座っていうこと?」
「そういう事だ。何かお前たちのヒントになるかもしれないと思ってな。こうしてお前たちをこの一室に呼んだ訳だ」
ルカは左手を顎に添えて考え込んだ。
「アインズ、よければその玉座を鑑定してみてもいいかな?」
「もちろんだとも」
「ありがとう」
階段を登り上座に上がると、ルカは腰を屈めて玉座に手を添えて、魔法を唱えた。
「
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アイテム名: 諸王の玉座
アイテム効果:????
アイテム概要: ????
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「...なるほど。全くの謎って訳か」
ルカは立ち上がると、玉座の前で手を組んだ。
「そうだな。しかし効能のうちのいくつかは、この世界に転移する前にギルドで検証を行ったことで判明している」
「例えば?」
「
「
「"二十"を使用されても、ナザリック内部に影響を与えられない効果もある」
「ちょっと待って、二十?! それってわざわざ、この玉座を検証する為に二十を使用したってこと?」
「そんな訳はあるまい。敵対していた合同ギルドが二十を所持していてな。ナザリックに攻め入る前に、私達に対して使用してきた事で判明したという訳だ」
「そういう事か。しかし二十を防ぐとなると、相当に強烈な効果だな、この玉座は...」
「確かにな。私達が今こうして無事でいられるのも、この玉座のおかげかも知れんしな。それもあって、お前達3人がこのナザリックに攻め入ってきた時は本当に肝を冷やしたものだ」
「ただ、その成果は確かにあった。私達と君達が、今奇跡的にこうしていられる事を、誰にともなく私は感謝するよ」
「...フフ、そうだな。それは私も同じだ」
ルカはアインズを見つめ、玉座越しにアインズへ手を差し伸べた。アインズはその手を握り返し、二人は力強い握手を交わした。
「ゴホンゴホン!!」
背後からアルベドの咳払いが聞こえて、アインズとルカは咄嗟に手を離した。二人共玉座に目を落とし、何かを考え込んでいる。
「ねえ、アインズ」
「...何だ」
「ひょっとして、私と同じ事考えてる?」
「恐らくな。まさかとは思うが」
「私はこの200年間、その可能性もあると意識はしていたんだ。でも君とこの玉座との出会いによって、さらに統計は固まりつつある」
「統計...というと?」
「前にここへ来たときは、私が具体的にどういった状況でこの世界に転移してきたのか、まだ話してなかったよね?」
「そうだな。何の前触れもなく終焉が訪れたのだろう?」
「その時、私はどこにいたと思う?」
「それは...ブリッツクリーグの拠点ではないのか?」
「ううん、違う。私はその時、フォールスの所にいたんだ。一人っきりで」
「フォールスと言うと、例のセフィロトに転生する為に必要なNPCの所にか?」
「そうだ」
「何か理由があったのか?」
「特に理由はないけど...仲間もみんな引退してしまって、寂しかったんだろうな。それにあそこなら滅多に人も来ないし、私がセフィロトという事もあって、NPCも私には攻撃してこないから」
「...そうだったのか」
「せーので、お互いに思っている事を言ってみない?」
「ああ、構わないぞ...せーの!」
「「私達がこの世界に転移したのは、ある一定以上のレベルを超えた
それを言い終わると、アインズとルカはお互いに笑いあった。
「さすがアインズ!前にも言ったけど良い勘をしている」
「ハッハッハ!お前こそな」
「でもそうだとしたら、アインズは諸王の玉座に、私はこのエーテリアルダークブレードを装備していたからという事になる。フォールスの所にいたという条件も捨てきれないが、二人が共通しているのはやはり
「この玉座をお前達に見せた事は、あながち間違いでもなかったようだな」
「ああ。感謝するよアインズ」
「何、構わないさ。さて、幾分すっきりした所で話を変えよう。何か用があってここに来たのではないか?」
「そうだね、肝心な事を忘れていた。前にも話したイグニスとユーゴという人間だが、もうすぐレベル45を超える所まで来た。そこでパワーレベリングを行おうと思っているんだけど、アインズ達も一緒にどうかと思ってね。それを誘いに来たんだよ」
「それは願ってもない。是非ご一緒させてもらおう」
「決まりだね。場所はまずアゼルリシア山脈にいるドラゴンを狩ろうと思う。フロストドラゴンが多数生息している地域だ」
「了解した。日時が決まったら連絡をくれ」
「オッケー。じゃあよろしくね」
ルカは
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