第2話 会合
冒険者組合に着いた5人は、建物の中へと移動した。
入口の扉を前にして、イグニスはルカ達3人の方を振り返った。
(俺のせいで、彼らは前に騒ぎを起こしたんだ。ここは気付かれないよう出来る限り地味に入って、アインザック組合長の元まで案内しよう)
そう覚悟したイグニスはドアノブをゆっくりと回し、冒険者組合のメインホールに続くドアを可能な限り静かに、音をたてないようにそっと開けた。
その途端にメインホールの喧騒が押し寄せてきた。
依頼を受けに来た冒険者達の雑談、議論、怒号、笑いと、色とりどりの話題がメインホールを包んでいた。
扉をくぐる前に、イグニスがルカ達3人に小声でささやいた。
「私が先に組合長へお伝えしてきますので、皆さんはここで待っていてください」
それを聞いたルカは、左右に居る巨躯の影と華奢な影を交互に見て、こう告げた。
「構わねえよ。中で待たせてもらう」
そう言うと3人は、イグニスを押しのけて構わず扉の中へと入った。
(ざわっ.....)
メインホールに響いていた喧騒が一気に止まった。
その瞬間冒険者たちの目は、漆黒のマントを纏った3人に釘付けとなっていた。全員が息すらしていないと思えるほどの静寂に包まれる。
イグニスはその様子を見て、固唾を飲んだ。
「イグニス、お前先に行ってプルトンに話つけてこい」
「い、いやしかし、ル...」
「チッチッ!」
大きく舌打ちをしてルカはイグニスを制止し、(早く行け)と顎をホールの奥に向けてしゃくり上げた。
「分かりました」
短くそう答えると、イグニスはギルドホール左手の階段に向けて走っていった。
イグニスの足音だけがホールに響いているという、通常ではあり得ない事態。
その沈黙を破ったのは、右手のテーブルから立ち上がった一人の冒険者だった。
「てっ..テメぇ!!今更何しにここへ戻ってきやがった!!」
目線を隠し俯いた3人の影は、それを聞いても身じろぎもしない。
「おい!!何をしに戻ってきやがったと聞いてんだよ!!答えやがれ!!」
怒号を吐いた冒険者は座っていた椅子を蹴り飛ばし、3人の中央に立つルカへ歩み寄っていった。それでも3人は身動き一つ取らない。
冒険者が目前に迫り、ルカの胸倉を掴もうとした寸前、周りには聞き取れないほど小さなかすれ声で、ルカはこう囁いた。
「スキル・絶望のオーラ、LV4」
その瞬間、冒険者全員はルカの背後に死神を見た。千差万別、人それぞれがイメージし得る最悪の結末を、何の脈絡もなく唐突に冒険者達は突き付けられた。そしてルカの体から放たれたドス黒いオーラは、瞬く間に冒険者組合メインホールを包みこんだ。
まず最初に一番近距離に居た、胸倉を掴もうとした冒険者が白目を向き、立ち尽くしたまま口から泡を吹いた。その次にホール最奥部に居たプリーストの女性が気絶し、床に倒れた。それに続いて失神した者が男女問わず次々と倒れていき、賑やかだったギルドホールに立ち尽くしている冒険者は5、6人を数えるほどになってしまった。
ルカの体から黒いオーラが消えると、再び静寂がホールを押し包んだ。
「え?....え?!」
ただ一人平然とし、戸惑いを見せていたのはイグニスと一緒にいた門番一人だった。
彼はルカの左にいた華奢な影の後ろに立っていた。その華奢な影は、手の平だけを後ろに向けている。門番は自分の体がうっすらと緑色に輝いている事にも気づかず、ただ周囲の様子を見てうろたえていた。
目の前で泡を吹いている冒険者の顏を見ると、ルカはその首にかけられたプレートを手に取った。青銅色を帯びたミスリルプレートだった。
「あー、前にイグニスをバカにしたお前ね...はいはい。分かったからどけ」
ミスリルプレートをチャリンと指で弾き、立ったまま気絶した冒険者の喉元を人差し指でトンとつつくと、死後硬直のように固まった冒険者はその態勢のまま床に倒れてしまった。
3人の影は気絶した冒険者達を跨ぎながら、イグニスが昇って行ったホール左手奥の階段を上がっていった。2階に上がり、右手が応接間だと覚えていたルカは、その向かいにある左手の扉を開けて中へ入った。
部屋の奥には机があり、右手には古書の類が詰まった本棚が置かれている。
その手前で片膝を付くイグニスと、机の椅子に座り頭を左右に振るプルトン・アインザックの姿が目に入った。
「ル、ルカさん!一体何をしたのですか?」
「おお...やはり耐性があったか!!」
デス・リリースを装備していないにも関わらず、絶望のオーラを受けて正気を保っているイグニスの様子を見て、ルカは嬉しそうに拳を握りしめた。その奥で机に片肘をついて呻いている男にも、ニヤけながら声をかけた。
「まあ、お前はこのくらいで気を失うタマじゃねえよなあ、プルトン?」
「き、貴様....いちいち事を荒立てよって!」
「クク....何が見えたよ、プルトン?」
「馬鹿者が....わしの妻と子供の首を持ったアンデッドがまだ頭から消えぬわ!」
「クッハッハッハ!!そりゃ結構!」
ルカはプルトンの憔悴した様子を眺め、腹を抱えて心の底から笑った。
「お前も冒険者を仕切ってんだろう? 悔しかったら少しは鍛える事だなプルトン。お前なんかより、このイグニスの方が万倍見込みがあるぜ?」
そう言ってルカはイグニスの方を振り返り、愛おしいような笑みを浮かべた。
「イグニス、お前には何が見えた?」
「え? ええ、その....あまりにも漠然としているのですが」
「いいから言ってみろ」
「....はい。その、爆炎を吐く巨大な黒竜、でしょうか?影形からするにドラゴンかと思われますが、その炎に焼かれて苦しむ自分の姿が脳裏に焼き付いています」
それを聞いてルカは武者震いを起こし、心中こうつぶやいた。
(いい、いいぞイグニス。あの時感じた俺の直感は間違っちゃいなかった)
しかしルカはそれを取り繕うかのように誤魔化した。
「クク、黒竜か。恐らくはメイジドラゴンの類だろう。そいつはまた危ないものを見たな。...立てるか?」
「え、ええ、何とか」
片膝を付いたイグニスにルカが手を差し伸べると、その手を取ってイグニスは立ち上がった。少しふらついているが、この様子なら大丈夫だろう。
「おいおい、カッパープレートの男がこんだけしっかりしてんのに、てめえは何てザマだプルトンよぉ? いい加減目を覚ましやがれ!」
「ぐっ...魔法の力がそうそう消えるものか! 一体何をしに来たんだ貴様は?!」
「あーあ、ったくだらしねえなあ。これじゃ話もできねえってか。....仕方ねえ、大サービスだぜ?」
そう言うとルカは目を閉じ、両手を左右に広げ、天を仰いで静かに呪文を詠唱し始めた。
「
ルカの体が青白い光に包まれていく。部屋全体が微細な振動を起こし始め、体がゆっくりと宙に浮いていく。その強烈な光は膨れ上がり建物全体を飲み込み、ブーストされた2つの第十位階魔法の効果範囲は冒険者組合ホールを突き抜け、城塞都市エ・ランテルの街半分に至るまで弾けるように広がっていった。
隣に立っていたイグニスは、そのあまりにも神々しい光の球体に包まれたルカの姿を見て身震いし、言葉にならない声を上げた。
「あ...あ、あなたは、そんな...こんな事が....」
椅子に座っていたプルトン・アインザックも、強烈な光の波動を浴びて思わず反射的に固く目を閉じ、両腕で顔を覆った。
「くっ! ぐおおお...」
脳裏に焼き付いたアンデッドの姿が、黒竜の姿が、悪魔の姿が、神の姿さえも、かき消されるようにそれぞれの恐怖が溶けていく。そして憔悴した精神力・体力が一秒経つ毎に回復し続け、底知れぬ力が湧いてくるのを彼らは感じていた。メインホールで気を失い倒れていた冒険者達も一人、また一人と目を覚まして起き上がり、正気を取り戻していく。
光が徐々に弱まるに連れて、宙に浮いていたルカの体もゆっくりと下降し、地面に降り立った。広げていた両手をゆっくりと下げ、ルカは自分よりも背が高いイグニスを見上げて笑顔を見せた。
「具合はどうだ?」
頭上のランタンに照らされて、イグニスを見上げるルカの顏が露わになった。
その荒々しい言葉遣いに反して、女性そのものと言える程の華奢で小柄な美しい顔立ちが、優しく自分に微笑みかけるその様を見て、不覚にもイグニスはドキッとしてしまった。吸い込まれそうなほど透き通った青白い肌、血のように赤く光る大きな目が自分を見つめている。
(一体このお方の年齢はいくつなのだろう?外見から恐らく20代後半といったところだろうが...)
うら若き19歳の脳裏には雑念が過ぎったが、イグニスはすぐに自分を諫めて返答した。
「え、ええ! 先ほどの混沌とした状態が嘘のようです。それと不思議なのですが、時間が経つ毎に力が湧き出でてくるこの魔法は...ルカさんこれは一体?」
「持続性のHP回復魔法、つまりHoT(Heal over Time)だ。何の事か分からなければ、その辺にいる信仰系マジックキャスターにでも聞いてみるんだな」
「分かりました。ご教示感謝します」
説明を受けたは良いが、未知の魔法を目の当たりにしたイグニスの知識欲はますます深まるばかりだった。もうこの夜更けには閉館しているというのに、今すぐにでもエ・ランテル大図書館に駆け込みたいという衝動をイグニスは必至で堪えていた。
「おい、いい加減目は覚めたよな。 お前ここまでして正気に戻らないとかほざくようなら、イビルズ・リジェクターの二つ名は返上した方がいいぞ?プルトン・アインザック」
「馬鹿を言え..そんなつもりは毛頭ない。第一レジストも無しにあんなものどう防げと言うのだ!お前と共に戦っていた時とは訳が違うのだぞ!!」
「口だけは一丁前のクルセイダーだな。クク、まあ気絶しなかっただけでも褒めてやるとするか。よし!」
ルカは(パン!)と手を叩くと、再びイグニスの方へ顔を向けた。
「俺達はこれからこの組合長様と大人の話し合いがある。悪いがお前は、下にいる連中の様子を見に行ってくれないか? 何か異常があったら俺に知らせろ。いいな?」
「はい、承知しましたルカさん」
「頼んだぞ、イグニス」
ルカ達3人とプルトンにそれぞれ一礼し、イグニスは部屋を後にした。
階段手前の踊り場に出ると、階下にあるギルドホールが一望出来た。正気に戻った冒険者達のどよめきが聞こえてくる。床に座り込んで呆然としている者、立ち上がったはいいが、自分の身に何が起きたのか理解出来ずに首を傾げる者、立てない冒険者に肩を貸す者と、様々だった。
イグニスがその様子を見ながら、階段を一歩一歩降りていく。
(この中にはミスリルやオリハルコン級の冒険者たちもいるはずなのに...ルカさんはどれだけ強力な魔法を行使したのだろう?)
神妙な面持ちで階下に着くと、一人の男が物凄い勢いで自分に向かい走り寄ってきた。イグニスと一緒にいた門番だった。
「お、おいイグニス!一体全体こりゃあどういうことなんだよ?! というかお前、上にいて大丈夫だったのか?」
「あ、ああ、俺は大丈夫だ。ユーゴ、お前こそよく無事でいられたな。見たところ何ともなさそうだが?」
「いやそれがよお、俺ずっとあの人達の後ろに立ってたんだけどよ。前に酒場でお前のことバカにしたミスリルプレートの男いただろ?そいつがあの人に突っかかっていってさあ。そしたらあの人が何かボソッ...と言った瞬間、一気に全員ぶっ倒れちまったんだよ! 一体何だったんだありゃあ?」
この男の名はユーゴ・フューリー。年は23歳だがイグニスと同期の冒険者であり、二人共カルネ村出身の同郷だ。幼馴染で、小さい頃は木の枝をへし折った棒切れでよく剣術ゴッコをしていた。
見たまんまのお調子者だが、ユーゴが12歳になったある日、リ・エスティーゼ
現国王ランポッサ三世の命により、カルネ村からすぐ北にあるトブの大森林を調査するという名目で、小規模の部隊が王国から派遣されてきた。
彼らはカルネ村を拠点として駐留し、約一ヶ月の間、トブの大森林奥深くまで入り込んでは、夜更けに傷だらけで帰還し村で治療を受け、翌日また調査の為森に入るという事を繰り返していた。
その時部隊を率いていたのが、王国随一の剣士として名高く、現在はアダマンタイト級の力を持つ戦士として大陸にその勇名を轟かせている王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフであった。
ユーゴの家はカルネ村で一番大きな宿屋を営んでおり、ガゼフ・ストロノーフの小隊はそこに滞在していた。その際子供のユーゴは、森から帰還して食事を採り休養している憧れの戦士に向かい、冒険者志望であることを告げた。
面倒見が良く優しいガゼフ・ストロノーフは、相手としてわざわざイグニスを連れてきたユーゴと共に、剣術ゴッコをする様を観賞した。それを見たガゼフは実に的確に間違った箇所を指摘し、子供にも分かりやすいように基本となる剣の握り方から構え、足運びを手取り足取り二人に教え込んだ。
そうして毎晩小隊が帰ってきては稽古を積み、ある日機が熟したと考えたガゼフは、子供たちが愛用していた木の棒切れを取り上げ、予備としてガゼフと部下の兵士達が装備していた短剣を握らせた。
短剣と言えども、子供の体格と比較すればショートソード並の刃渡りがある。初めての真剣を握ったユーゴとイグニスは、あまりの興奮と緊張に胸がはち切れんばかりだった。肉厚の短剣は、当然ただ長いだけの棒切れよりもはるかに重く、しかも子供の手には短剣の柄が太すぎた。
しかしガゼフはこう言った。
「剣術の基本は何も変わらない。今まで教えた通りに振ってみろ」と。
最初は上段の素振りから始まり、次に木を相手にした打ち込み、最後に怪我をさせない程度にゆっくりと、二人で剣の打ち合いをさせた。
そうこうしているうちにあっという間に一ヶ月が過ぎ、調査を終えたガゼフの小隊は村を後にし、王国へ帰っていった。最後にこう言い残して。
「お前達が王国戦士団に入る日を待っているぞ」
その日以来、ユーゴとイグニスは剣の稽古を欠かさなかった。(その時点では)王国の小隊長に稽古を付けられたとあって、二人の両親は半ば呆れつつも、あまりに一生懸命な二人を見て、ついに剣を買い与えた。
そしてユーゴが20歳になった日、彼は意を決して、一緒に冒険者ギルドへ登録しようとイグニスを誘った。
それから3年間、カッパープレートという事もあり、二人は何かとペアを組まされる事が多かったのだ。
「それよりユーゴ、手伝ってくれ。あの人から頼まれてな。倒れている冒険者達の体に異常がないか、具合を確かめてきてくれ。俺はホールの奥から当たる」
「あ、ああ分かった。じゃあ俺は手前から見てみるよ」
「頼む」
イグニスはまず最初に目に入った、ギルドホール奥で未だ立てないままのプリーストを抱き起こし、大丈夫かと声をかけた。
...場所は変わり、組合長室内部。
ルカと華奢な影は、右手にある本棚手前にあった予備の椅子2つをひったくり、プルトンが座る机の前に置いて腰掛けた。巨躯の影は、左手にある二人がけのソファーにドスンと腰を下ろした。
そして数十秒の間、重苦しい沈黙が部屋を押し包む。
ルカは椅子に深く腰掛け、前で足を組むと、右にいる華奢な影に向かって人差し指を立てた。
「
華奢な影がそう唱えた途端(キン!)という鈍い音と同時に、ドアの外から入ってくる冒険者のどよめきも、アインザックの背後にある窓の外からくる騒音も、一切の音という音が遮断された。
完全な無音...耳鳴りすら感じるのを受けて、ルカが静かに切り出した。
「....無意味にやると思うか?」
「LVは?」
「4だ」
「ばっ...貴様、この場にいた全員を殺すつもりで...」
「実験だよ。わかるだろう?」
「あり得ない。私ならともかく...」
「トラックは?」
「そんな余裕はなかった」
「馬鹿が...何のために授けたと思っている」
「ま、まあそれはいい。成功したのか?」
「...ああ。全員生きているよ」
「ならいい。南は?」
「漆黒以外派手な動きはない」
「捨て置くのか」
「奴らに出来ると思うか?」
「そうか。カオスゲートの件はどうなっている?」
「順調だよ。範囲は狭まりつつある」
「地点は?」
「予測通り、ガル・ガンチュアだ」
「いけるのか?」
「ああ。いざとなれば、俺達が直々に乗り込むさ」
「その時は私も同行する」
「...クク、いい度胸だ」
「他には?」
「北が動いた」
「見てきたのか?」
「...ああ、見た。やはりあいつが居たよ」
「それは...エグザイルか?」
「少し話した」
「確定したと?」
「いや、そうとは限らん。しかし過去の観測と比較すれば、それ以外考えられん」
「では...」
「ああ。そうでないにしろ、知っていると見て間違いない」
「と言う事は、あの婆もいただろう。奴は?」
「いや...だがあいつとは古い付き合いだ。クク、頑固なやつだよ全く」
「それは、私に言ったように...という事か」
「そうだよ。むしろお前こそ覚悟を決めろ」
「私には妻子がある。それを投げ打ってまで...」
「俺の前でそれを言っても無意味だろう?」
「そうだな、そうだった。お前は...」
「条件は揃っている。何を迷う事がある?」
「その時が来たら答える。それより二十の行方は?」
「ここだ。マップと結界の術式も書いておいた」
そう言うとルカは羊皮紙のスクロールを机に放り投げた。プルトンはそれを紐解き、机の上に広げる。
「これは...更に地下があると?」
「そうだ。事が起きた場合は即座に突入して奴を潰す。お前もマップを頭に叩き込んでおけ」
「了解した。それと...何故連れてきた?」
「何のことだ?」
「とぼけるな」
「お前が一番近くで見ていたんじゃないか」
「まさか、素体だと?」
「どう思う?」
「経緯を知らん。何とも言えん」
「不便だな」
「読んだのか?」
「スキルだよ」
「では不確定ではないか」
「だがお前も聞いたはずだ。竜を見たと」
「確かに聞いた。あれには驚いた」
「可能性としての事象があるなら、引き込んでおいたほうがいいだろう?」
「それは...虚空の為か?」
「そうだ。いずれ必ず開かれる」
「それこそ希望的観測でしかないのではないか」
「仮に条件が整えばどうなる?」
「貴様のみが知る事を願う」
「...クク、じゃあ何故俺についてくる?」
「真実を知るためだ」
「なら最後まで付き合えよ」
「そこに至った時に覚悟を決める」
「クハハハ! 付き合うと言ってるも同じじゃねえか...まあいい、ミキ!」
「はっ!」
「どうだった?」
「ルカ様のご指示通りに致しました」
「と言う事は...」
「はい。耐性があるかと」
「...貴様、何をした?」
「言っただろ?実験だって」
「つまり?」
「同族には同族が集まるんじゃないかと思っただけさ」
「耐性、と言ったな」
「そうだ」
「ミキ殿、ブーストしていないと?」
「そうです。通常のレジストです」
「と言う事は、耐性40...」
「残りの60、どう防ぐ?」
「バカな!補助装備無しでは不可能だ」
「ミキ、確認するが今も無事なんだな?」
「はい、今は彼と一緒に他の者を診て回っております」
「見込みがあるな」
「何故引き寄せられる? こんな...」
「俺が急いでいる理由が少しは理解できたか?」
「しかし、どうしろと」
「育てるんだよ、今度こそ」
「それは理解しているが...いや、必然なのか」
「どういう意味だ?」
「反応が出た。お前がいない2年のうちに」
「ライ・ディテクターにか?」
「そうだ」
「名前は?」
「モモンという。他にもう1名」
「詳しく話せ」
「パートナーにマジックキャスターがいる。名はナーベ」
「その二人のランクは?」
「二人共アダマンタイトだ。たった2ヶ月の間に」
「カッパーに登録してから、僅か2ヶ月?」
「そうだ」
「ディテクターに反応したのは両方か?」
「いや、モモンだけだ。それは確認した」
「エグザイルの可能性は?」
「不明だが、この短期間での功績を考えれば、あるいは...」
「その二人のクラスは?」
「組合の登録上でだが、モモンは戦士、ナーベは魔力系のマジックキャスターだ。噂では第5位階まで使えるらしい」
「それ自体が虚偽という可能性もある。幻術を使用すれば偽装は可能だ。ディテクト・オブジェクトは?」
「使用できる隙などなかった」
「二人が拠点としているのは、このエ・ランテルなんだな。所在は?」
「黄金の輝き亭だ。しかし調査のため動向を監視させているが、不定期に消え去ってしまうらしい」
「消え去る? インビジブルか?」
「戦士がインビジブルを使えるとは考えにくい」
「ならば、考えられるのはゲートによる転移だ」
「そうだな」
「戦士職に
「偽装の線が高いか、あるいはナーベの力か」
「その二人が直近に受けたギルドの依頼は?」
「ギガント・バジリスクの討伐だ」
「あんな雑魚はどうだっていい。他には?」
「ヴァンパイア討伐にも成功している」
「種別は?」
「事の発端となった生き残りの証言では、大口だったとある。幼い少女の姿をしていたとも」
「
「恐らくは」
「お前にうってつけじゃないか」
「そのつもりではあった」
「まあいい、では一番最初に受けた依頼は?」
「しばし待て」
プルトンは机に置かれた書類をめくっていった。
「あった、これだ。この街に住む薬師、ンフィーレア・バレアレ氏の薬草採取に伴う警護任務だ」
「その薬師に関する情報は?」
「エ・ランテルでは有名なタレント(才能)持ちだ。何でもこの世のありとあらゆるマジックアイテムを使用できる、という珍しい技能らしい」
「マジックアイテムを使用なんて、どのクラスでも...いやちょっと待て、そうか」
「お前が昔話していた内容と一致するな」
「その薬師が依頼の際に辿ったルートはわかるか?」
「予定ルートの報告義務があるからな。どれ...カルネ村を宿営地として、その北にあるトブの大森林へ薬草採取に向かうとあるぞ」
「カルネ村、トブの大森林...か。まだ未踏査な区域がその北東にある」
「地図は埋まったのか?」
「現状把握している地域の精査は、ほぼ完了している」
「なるほど。しかしカルネ村から北東というと、果てしない草原が広がるばかりだぞ。何か収穫があるとも思えんが」
「言ったろ? マップは常に変動する。ましてや気にもしないようなエンプティーフィールドほど、経験上一番怪しいもんさ」
「無駄に終わらんことを祈るよ。まあ地図が埋まるのは組合としては喜ぶべきことだが」
「まずはカルネ村に行って情報を集めてみる」
「了解した。適当な依頼書を翌朝までには作っておく」
「頼む。それと...」
「何だ?」
「イグニスの事もな。あと一緒にいた門番も、気にかけてやってくれ」
「ユーゴの事だな、分かった。この騒ぎだ、外に出るのはまずい。ゲートで移動しては...」
「いや、門を見られる方が厄介だ」
「そうか、分かった。...しかし」
「?」
プルトンはルカの顔をまじまじと眺めていた。
「...お前のそんな優しい顔、久しぶりに見た気がするな。そんなに気に入ったのか? 妬けるのう、ん?」
「ばっ、バカ言ってんじゃねえよ!! じゃあ俺達は黄金の輝き亭に泊まるから、何かあったら連絡よこせよ!」
「はいよ、おやすみルカちゃん」
「こっ...いつか殺す!!」
ルカは乱暴に扉を閉めて、プルトンの部屋を後にした。
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■魔法解説
1秒毎にHP総量の15%を回復する持続性回復魔法。効果時間は30秒で、通常効果範囲は500ユニット。術者から遠距離になるほど回復効果は薄まるが、魔法最強化・位階上昇化等により回復量・効果範囲が上昇する
探知系魔法及び範囲内の音声を外部から完全に遮断する魔法。魔法最強化・位階上昇化等により、その位階以下でかけられてきた探知系魔法詠唱者に即死効果をもたらす
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