第11話
戦争が始まってしまった。
しかたない。
20名近い数の警備隊が廃墟にやって来た。アコアグタムから。
正確に言えば19名。
彼らはまるで古代ローマ軍みたいな密集隊形を作り、重武装と正確無比な足並みでやって来た。
我々を――討伐するために。
おい、何とかしろ。
と『大統領』はすっかり顔色を変えていた。
お前のせいだ。
などと俺を責める。もしかしたらそうなのかも知れないが、しかし俺ばかり責められるのも割に合わない。まったくこの『大統領』ボス面をしているくせに、こんな緊急時には何もしない。どっかの政治家そっくりじゃないか。
お前だったら楽勝だろう。
などと『大臣』がヒステリックな声を上げる。じつに無責任な言い方だ。いったいどこの世界に19人を相手にして楽勝出来る男がいるというのか。この『大臣』は俺に死んで来いと言っているらしい。
俺は死にたいわけではないのだが、どうした所で人生には2つの道しかない。
逃げるか、戦うか、である。
俺はこのような身になって、もうこの廃墟の他にどこにも逃げる場所などなくなってしまった以上、選択肢は1つしかないのだ。
このゾンビの世界には『評論家を気取る』とか『被害者ヅラをしている』という選択肢はない。
なぜならば――俺たちは生きるために生まれ変わったと思われるからだ。
「ドン」「ドン」「ドン」
と爆裂音が響いていた。
環七通りの丸山陸橋の辺りで、もう戦いは始まっていた。
敵のあの密集隊形というのは、こと防御性という点において完璧だった。 5554という隊列を組んだ19人が見事な呼吸を合わせて動き、隙というものがない。まるで頑丈な甲羅に包まれた一個の生き物のようだった。
近づくゾンビがただ近づいただけで粉砕された。
その攻撃の中心となっていたのはやっぱり例の爆弾頭の矢である。
隊列の中央に一人の射手がいて、そいつがかなりの腕前らしく近距離遠距離関係なく正確な矢を雨あられと降らす。1人では持ちきれないほどの矢も19人で分担して所持していれば、ほとんど無制限打ちっぱなしだ。
要するにあの密集隊形とは1人の射手を守るために18人がガードに付いているとも言える。
いったいどう攻略すべきなのか?
分からない。
まったく分からない。
前にも言ったが俺は劣等生だった。
頭が悪かった。
廃墟のビルの3階から俺は『大統領』と『大臣』と3人で戦況を見下ろしていたが、そうやって見下ろしているとどんどん気分が悪くなって行った。
自分自身の馬鹿さが嫌になったのである。
眼下ではもうすでに数えきれないゾンビが秋の枯葉のように散り飛ばされていた。
俺はもう考えるのが嫌になった。
死んで来る。
そう言い残して、俺は3階から飛び降りていた。ふわりと着地した時に背中の方で『大統領』が何か言ったのが聞こえた。
お、おい!
とか。
俺はなぜか苦笑を漏らし、そうしてなぜか姉の顔を思い出していた。
いよいよ本当のお別れかも知れない。
ねえお姉ちゃん。
俺のたった1人の友達だったお姉ちゃん。
俺はずっとお姉ちゃんのことが好きだったんだよ。
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