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 店内の様子はと言うと――何時もと変わりない。

『オケアノス・ワン』草加店で設置されている機種に一部入れ替わりはあるのだが、リズムゲームVSは設置されている。

根強い人気もあるだろうが、おそらくはマナー的な部分もあるのだろう。人気機種でも、台パン等の破壊行為が目立てば撤去されかねない。

そうした事を踏まえると――そう判断出来るのだろうか。他にも様々な憶測がネット上であるが、真相は不明のままである。

「これが、デンドロビウムの――」

 トレンチコートに袖を通さず、肩でかけている様な着方をしているのは――メイド服姿のユニコーンだった。

彼女は遠目で現在の『オケアノス・ワン』の様子を見ていたのだが、自分がプレイしていた時期とは劇的な変化には驚きを隠せない。

唯一の気になっている箇所はデンドロビウムがいない事。それを除けば――いたって平和と言えるだろう。

「それにしても、彼女は何処に――」

 周囲を見回す程度では発見できないのは分かっているが、それでも辺りを散策してしまう癖が出ていた。

ここ数カ月はあのウィークリーランキング後に姿を見せていたが、それ以降はいなかったかのように姿を見せなくなる。

謹慎しているような様子ではないのだが、彼女に何があったのか心配する事もあった。

【別のゲーセンで目撃例はあったが――】

【別? オケアノス・ワンではなく?】

【そっくりさんではないのか。ログインした経歴は――】

【定期的にはログインされている。なりすましではなく本物のデンドロビウムが――】

【しかし、問題は場所だ。足立区のゲーセンを沿線しているような感じにも見えるが――】

 現在のデンドロビウムは、様々なゲーセンを巡る遠征に出ているらしい。

そこで同じリズムゲームVSの筺体を見つけてはプレイして、遠征エリアを増やしているようだ。

さすがに日本全国は無理らしく、足立区の周辺ゲーセンに限定している。日本全国を遠征するプレイヤーもいるが、リズムゲームVSでそこまでの強豪は存在しないと言う。



 デンドロビウムとは別に、新たに『オケアノス・ワン』のプレイヤーになるべく姿を見せるプレイヤーもいた。

スク水に袖を通さないコートと言う姿の――村正(むらまさ)マサムネである。

 この夏場だと肌を露出する様なスク水で、ゲーセンの様な人の集まる所は――と思われがちだが、草加市は許可された場所であればコスプレに問題はない。

さすがに露出度の高い物や不審者と思われるような物は不可能だが、この条例もあってか草加市はコスプレイヤーの聖地的なポジションになったのだろう。

周囲のギャラリーもツッコミを入れないので、この条例には慣れたと言うべきなのかもしれない。

(さて、と――)

 彼女の目の前にはリズムゲームVSの筺体がある。そして、タブレット型デバイスもセットして――プレイ準備を整えた。

全ては――リズムゲームVSをプレイする為に。他のプレイヤーが並んでいる訳ではなく、整理券を発行した上で順番が回って来たのである。



 西暦2020年――近年ではリズムゲームがアプリへ進出する作品がメインである中、このゲームはゲーセンで稼働し、絶大な支持を受けていた。

タブレットのタッチやスライド等で操作し、様々な楽曲を演奏していくリズムゲーム――それが、リズムゲームVSだったのである。

リズムゲームは、西暦2000年代には1社しか存在しない時期があった。しかし、それでも複数の企業からリリースされた事でリズムゲームは広まっていく。

 時代はリズムゲームを求め――その結果が、今回のケースとなったと言えるのだろう。

まとめサイトによるネット炎上、SNSテロ――そう言った事件が繰り返される度、彼らは――悲劇再びと嘆くに違いない。

プレイヤーの民度低下、マナーの悪化――そうした事例がSNSに上げられる度に炎上するコンテンツ――それが繰り返される度に、SNSテロは形を変えた戦争とも言及する様な物も出てくるだろう。、

 だからこそ、我々はネット炎上等を防ぐ手段に関して考える時期がきたのだろう――そう感じる。

ネットマナーを身につけ、正しくコンテンツと向き合う事――それをマッチポンプも承知で教えたのがアルタイルだとすれば――。

「「ここからが――私たちのステージ!」」

 歴戦リズムゲーマーのデンドロビウム、今や素人ではなくなっていったバーチャルリズムゲーマーのムラマサ――。

二人はゲームと正しく向きあう事でゲーマーの絆を広げようと動きだした。

「二人のプレイフィールドは違えど、マッチングプレイでは同じフィールドに立っているのかもしれない――」

 その二人を見守り、時にはアドバイスも行ったのは――『オケアノス・ワン』草加店のオーナーであるタチバナだった。

彼は何時もの受付ポジションで彼女たちのプレイを見守っている。

 リズムゲームVS、それは同じ趣味を持った者たちが集まるコミュニティツール――そう再認識させようとしたのは、言うまでもなくアルタイルだろう。

「これと同じような再認識を――他のジャンルでも起こさなければ、コンテンツ流通は変えられない」

 その一方で、SNSテロを初めとした問題はリズムゲームだけの物ではない。

他のジャンルでも同じような啓発活動等を――と考えていたのは、ビスマルクである。彼女は、何をコンテンツ流通に求めようと言うのか?

リズムゲームVSにおける大規模SNSテロは阻止されたが、これは――ほんの序章に過ぎないのか?

プレイヤーの意識改革――それは、まだ始まってもいないのである。

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歴戦リズムゲーマーVS素人バーチャルリズムゲーマー アーカーシャチャンネル @akari-novel

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