11-5
デンドロビウムの目の前には、既に1曲目を選曲――そのタイトルが表示されていた。
「超機神大戦?」
「いきなり隠し曲か」
「隠し曲と言うよりは、前作のボス曲と言うべきかもしれない」
「ボス曲? それがウィークリーランキングにあると言う事は――」
「既に通常解禁されたと言ってもいいだろう」
この曲自体は前作のボス曲に該当し、前作では解禁条件に到達できる人物が一握りだけだった。
その為か、現在のリズムゲームVSになってから稼働初期で解禁されたという事情がある。
実際にはリズムゲームVSのロケテストの段階では既に選択できるようになっていたようだが――あまり知られていない。
楽曲自体はサウンドトラックCDでも確認する事は可能であり、そこからこの楽曲の知名度は上昇した。
動画サイトでは、この楽曲を使ったMAD動画が多いのだが――。
(1曲目から相当な曲を投げてきたか――むしろ、今回のウィークリーランキングの狙いは――)
1曲目のプレイ動画を見て、ふと疑問を持ったのはビスマルクだった。
彼女もプレイ待機中の一人と思われるが、整理券を発行していない。実際、タブレット端末には整理券アイコンが表示されていなかった。
おそらく、発行しなくても気が向いた際にプレイ出来るだろうと判断してのことである。
「まさか――あの曲をウィークリーランキングの対象にしているとは――」
運営サイドの狙いは何なのか――疑問に思うビスマルクだが、今はそちらを気にしている場合ではない。
まずは、自分のスコアを何とかしてあげないといけない現実があった。実際、サイトで検索した対象楽曲は――。
(2曲目と3曲目も難関を揃えてきている。初心者向けのコースもあるが、これでプレイヤーが集まるのか?)
コースに関しては2つ存在し、デンドロビウムがプレイしているのは慣れたプレイヤー向けの上級者コースだ。
慣れているプレイヤーとしても――今回の3曲は難関であり、ノーマル譜面だとしても合計難易度は20である。
20を越えると明らかにノーマル譜面だけではなく、難易度がミックスされている事が多い。
他のプレイヤーが練習用で作成しているコースも、難易度をミックスしている傾向なのは――こういう事情があるのだろう。
全譜面をアナザーにしたコースも存在するが、それは悪意あるプレイヤーがコースエディットで作成した物を公式であるかのようにまとめサイトに掲載した物で本物ではない。
その楽曲は、まるでSFチックというよりは――ファンタジー色も聞こえてきそうな雰囲気だ。
ピアノを使っていない曲なのに、ファンタジーと言うのも微妙なのかもしれないが、そういう雰囲気を感じられると言う事かもしれない。
デンドロビウムの目の前に流れているMVには、タイトル通りに古今東西の巨大ロボットが縦横無尽に動き回る――。
しかし、そのMVを見ている余裕があるのかと言われると、彼女の視線は譜面の方へ向けられていた。
そうした関係もあって、チェックしている余裕がないのかもしれない。リズムゲームの場合、MVのある楽曲でも見ている余裕がないのは――こう言う理由なのだろう。
「1曲目にして、あの物量か――」
「1曲目でレベル6を投げてくる段階で、何を考えているのか――と思ってしまう」
「しかし、上級者向けコースで簡単な曲を投げてくるとは思えない」
「逆にレベル8のアレとか、レベル9のアレは――逆にクレームが来るだろう。つまり、そう言う事だ」
「上級者向けと言っても――単純に廃ゲーマー向けではないと言う事か」
「そうなっては、逆にリズムゲームのプレイ人口が減りかねない」
様々なギャラリーの声はするのだが、それにデンドロビウムが耳を傾ける事はない。
彼女はヘッドフォンをしている関係で、耳には楽曲しか聞こえていないだろう。
非常事態になった場合は、強制的に楽曲のボリュームが下げられて非常サイレンが鳴る仕組みだが――それが使われたケースは未だにない。
彼女にとって、譜面の難所は――既に敵ではない様子でもある。
ウィキ等では序盤の物量と終盤の乱打譜面を突破すればクリア可能とも解説されているが――。
「終盤の乱打が――」
その乱打は、7つのレーン全てにランダムと言わんばかりのノーツが上から降ってくるのだ。
これが7つ同時に同じ高さだったら、それは同時押し――他のゲームでは全押しとしてネタになっている。
そこまでのバランスブレイカー譜面が存在しないだけ、リズムゲームVSのゲームバランスはギリギリなのかもしれない。
それをフォローする為のスキルシステム――とも言えなくはないのだが。
「??」
「えっ!?」
「この挙動は――まさか?」
ギャラリーも驚き、困惑する光景だった。それは、デンドロビウムがスキルを一切使っていないプレイだった事もある。
その為、本来であれば装備スキルの表示が光りそうな難所でも一切光らなかった。その挙動に驚きの声を上げたのである。
(これが――デンドロビウムの実力。歴戦リズムゲーマーと言う事か)
他のギャラリーとは若干離れた場所まで近づき、プレイ中継をチェックするビスマルクも――言葉を失っていた。
実力のあるプロゲーマーや上位ランカーの反応も同じだったのは、自分達はスキルを使っていたというのもあるのだが――。
1曲目終了後、画面上にはリザルトが表示されている。その結果は――誰もがチートを疑う物だった。
(96%――あり得ないだろ?)
(さすがに100%がいきなり出たら、それはチートを疑う。スキルを使っていな以上は――)
(あれが噂のデンドロビウム――)
(何だ――プレイしていないのに腕が震えるのは?)
(プレイしていないのに、プレッシャーに押し負けそうだ)
様々なプレイヤーが、それぞれに思う。彼女のプレイに魅了される者、プレッシャーに押し負ける者、彼女のようになりたいと思う者もいる。
それぞれが――デンドロビウムのプレイにテンプレではない感想を持ったと言ってもいい。
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