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 5月13日――その日、劇的に時間は動きだした。

ネット上でも困惑の声が上がる一方で、このニュースはある意味でも脅威が去ったという意味では歓迎される。

その脅威とは――デンドロビウムが言及していた『デミゲーマー』だった。これは一部勢力からは動揺の声が上がっている。

【デミゲーマーが一掃?】

【一体、何が起こっている】

【それはこちらが知る事ではない。自分達の方で手いっぱいだ】

【しかし、ネット炎上勢力が様々なジャンルで一掃されているニュースが真実だとすると――】

【その流れで一掃された、と?】

 ネット上の動揺する声は――その半数以上が同業者による物。

草加市で聞かれたSNSテロ勢力の摘発を伝えるニュースは、ある意味でも彼らに追い打ちをかけたと言ってもいい。

「ネット炎上勢力の根絶――は無理でも、これでしばらくはおとなしくするだろうな」

 まとめサイトの状況をチェックしていたユニコーン――彼女の目の前にある建物は、村正(むらまさ)マサムネの自宅兼動画配信スペースだ。

何故に彼女は、ここへやって来たのか? その真相は――定かではない。

(おとなしくなるとしても――再び動き出すのは間違いないだろう)

 そして、ユニコーンは違う地域で同じような事が発生しても意味はないと考える。

Aと言うジャンルからBと言うジャンルへ大移動する様な――WEB上における夢小説のジャンルの移り変わりと変わりない。

つまり、草加市から撤退しても近隣の足立区や他の市で同種の事件が起きてしまっては、草加市の厄介事がこちらに移動したと言われても仕方がないだろう。

 そうなった場合、ネット炎上も繰り返されるだろうし――真の意味での平和には程遠い。

表向きには事件が解決したと見せかけて、実際には事件は解決していなかったと認める物だ。

(それまでに――我々は対策以外にも考える事が山積みなのは――)

 ネット炎上対策だけでは、同じ事の繰り返しであり――本当の意味で求められるのは抜本的な解決策とも言えるだろう。

それを考えるには一個人で出来る事に限界がある。ユニコーンが助力を求めようとしたのは、ある意味でも同業者ライバル――ムラマサだ。

『我々を摘発しても、根幹まで絶ったとは思わないことだ――ネット炎上が完全に消滅しないのと一緒だ』

 ユニコーンがあるプレイヤーを発見し、捕まえた際の発言は――彼女にとっては責任転換にも聞こえていたのである。

悪いのはネット社会で、自分ではない――と。それが単純な逃げである事は明らかだと言うのに。、



 同日午前11時――『オケアノス・ワン』草加店には、既にデンドロビウムが店内に入っていた。

しかし、彼女はリズムゲームVSをプレイするよりも先に2階にあるセンターモニターでランキングを調べており――。

(2位――? あの時は確か――)

 自分が2位という位置にいた事を――。しかし、その顔は喜びではない。

むしろ、困惑をしていたと言ってもいいだろう。

「1位のプレイヤーネーム――本当か?」

「デンドロビウムが2人いる事自体、あり得ないだろう」

「微妙にスペルが違うな――」

「ARゲームだと悪質ななりすましプレイヤー対策がされているが」

「これは面倒だな」

 他プレイヤーの話が聞こえてきた段階で、デンドロビウムの困惑は――ますます強くなっていく。

自分の名前をかたるプレイヤーが、まだ存在していたのか――と。

(なりすまし――まだいたのか。自分の実力でもないのに、あたかも自分の力だと言う様な連中が――)

 これを思ったのはデンドロビウムではなく、センターモニターを見ていたビスマルクの方である。

彼女は他のなりすましプレイヤーは摘発出来たのだが、チートプレイヤーを一掃している途中で――ある噂を聞いていた。

『我々を摘発しても、根幹まで絶ったとは思わないことだ――ネット炎上が完全に消滅しないのと一緒だ』

 その時の男性プレイヤーは、そんな事を言っている。一種の負け惜しみとも最初は考えていたのだが、アルタイルの一件を踏まえると違ったようだ。

類似の発言はネット上にテンプレが存在し、これを共通して言えば自分の罪が軽減される――とでも思っているのだろう。

いわゆる『〇〇の仕業』という責任転嫁のパターンだ。こうしたパターンが拡散している事には、ビスマルクもさすがに――。



 10分後、デンドロビウムが1番台と書かれた筺体へと歩き出す。結局、彼女もリズムゲームVSをプレイする事にしたようだ。

そして――整理券を発行しようとしたのだが――。

【この時間帯は整理券なしでもプレイできます】

 まさかのインフォメーションに驚いたのは、デンドロビウムの方である。

予約しているプレイヤーも1人だけで、筺体は2台空席になっている事を踏まえると――そう言う事なのだろう。

(このプレイで――)

 何時も通りにタブレット端末兼コントロールパッドを所定位置にセット、クレジットの方も電子マネーで決済し――プレイの準備を始める。

首にかけていたワンオフのヘッドフォンを耳にセットし始め、集中力を高めていく。目の前のゲーム画面は、ローディング中のままだが。

《ローディング完了しました。ようこそ、リズムゲームVSへ》

 インフォメーションメッセージを確認し、デンドロビウムは手慣れた操作でノーマルモードを選択した。

選曲前には、新曲が入荷した事とランキング対象曲の変更、細部調整に関するインフォメーションも流れる。

「全ては――プレイで証明する。この私が――歴戦リズムゲーマーである事を証明する為にも」

 彼女の目は真剣になり、周囲のギャラリーも待っていたと言わんばかりに盛り上がっていた。

遂に――彼女の『デミゲーマー』との決戦になるだろうプレイが始まろうとしている。


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