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 5月3日午後1時10分、アルヴィスと名乗った人物は――別の意味では偽者と言えるかもしれないが、別の意味では本物だった。

それこそ、リシュリューの偽者事件と同じ展開を連想させる物――それをビスマルクが感じたからこそ、あの場に割り込んだとも言える。

『お前は確か――上位プロゲーマーのビスマルク』

「アルヴィス――私は、お前が偽物だと言うのを把握している。やろうとしている事は、あるアニメ作品に登場するアルヴィスと同じ事――」

 アルヴィスはビスマルクに正体を暴かれた事に関して、逆上してPDWのデザインをしたARガジェットを突きつけた。

しかし、その程度の脅しでは――彼女に効果がないのはアルヴィス自身も分かっている。

『偽者だと分かっていた上で泳がせたと言うのか?』

「過去に――SNSテロを世界大戦に匹敵する大惨事と決めつけ、大炎上させた人物がいた」

『その人物と同じ行動をすると予測していたと――ふざけるな! 自分は奴のように人の命を――』

「その通りだ。あの人物はストレスを解消する為だけにありとあらゆる手段で気に入らない物を始末してきた――コンテンツ市場も例外ではない」

『この世界がありとあらゆるデスゲームを排除し、イースポーツを推奨している中で――日本が遅れていることだ』

「だからと言って、イースポーツに選ばれていないジャンルを排除しようという発想も――結局は同じ事!」

 ビスマルクと議論していく内にアルヴィスの声のトーンが弱くなり、次第に発想もアニメに登場していたアルヴィスのコピペとなっていく。

その状況を見て、ビスマルクは哀れとも感じている。結局、彼は二次オリとしてのアルヴィスをなりきりで演じていたにすぎないと。

「本当の意思を持って動くゲーマーが、いかにして強い物か――見せてやる!」

 普段は怒号を上げるような人物ではないはずの人物が、ここまでのリアクションを見せているのは――明らかにおかしい。

ビスマルクが勝負のフィールドとして指定したのは、リズムゲームVSとは違うリズムゲームだった。

『リズムゲームVSは使わないのか?』

「お前の様なプレイヤーに、全く知識のないようなゲームで勝負しても単純に俺TUEEEをしたいだけと受け取られかねない」

 アルヴィスがリズムゲームVSを使わないのか――という質問に対し、ビスマルクの出した回答は予想外の物だった。

しかし、真相としては単純に混雑していてプレイできそうにない――と言うのは周囲の状況を見れば明らかだろう。

それでも――そう言う風にアルヴィスが受け取らなかったのは、そこだけは空気を呼んだのかもしれない。



「こちらとしてもプロゲーマーの意地はあるが――そこまで力を見せびらかすのも、こちらの想定している物とは違う」

 ビスマルクが何か別のリズムゲームを探している時の視線は――どう考えても、突発的な何かを思わせる。

しかし、彼女としても先ほど強い口調で否定した以上――アドバンテージ的に有利な機種をプレイする気はない。

その状況下で――彼女はある機種を発見した。他のプレイヤーがプレイしている様子はなく、閑古鳥が鳴いていそうな状態の機種である。

実際は稼働して数日は経過している最新機種なのだが、誰も進んでプレイする様子がないので――そこをビスマルクが目を付けたような気配だ。



 午後1時30分、何時ものコートに袖を通して本気モードになったビスマルクは――筺体の前に立っている。

スペース占有率としては意外と大きなものであり、これを設置するのならば対戦格闘ゲームを2セット置けそう――と考える人もいた。

「このリズムゲームは、リズムゲームVSよりは覚える箇所が少ない。今のお前には――これでも難しいと思うが」

 ゲームとしては、目の前のモニターに表示される光のラインに沿って進むと言う物で、俗に言う『走るリズムゲーム』的な物だ。

ライン通りに進むだけだと面白みがない為、ARゲームだと様々なルートを任意選択して進むと言うシステムを採用しているが――ARゲームでは怪我の懸念もあって敷居が高い。

それを簡略化したのが、このリズムゲームなのである。実際、上位ランカーの中には世界大会に出場した事のあるプレイヤーもいる。

『このライン通りに進めばいいのだろう?』

 アルヴィスはチュートリアルをチェックしているが、その画面で表示されている光るラインを指差している。

ビスマルクも頷くだけで、あまり口出しはしない。リズムゲームの場合は、他のジャンルと違って他人が容易にアドバイスをするべきではない――そう感じていた。

その方法論が正しいかどうかは分からないが、デンドロビウムも似たような考え方を持っている。彼女の場合は独自に到達した理論かもしれない。

(あのプレイヤー、明らかに初心者だな)

(おそらく――あっさり負けるだろう)

(そうとは限らないのでは?)

 集まりだしたギャラリーの方も、ビスマルクが有利だと考えている。

しかし、ビスマルク自身がリズムゲームVS以外のリズムゲームをプレイしている光景を目撃した人物はいない。

むしろ――彼女の方も初プレイと言う可能性は否定できないだろう。実際、お互いにチュートリアルをプレイしている途中だからだ。

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