第8話「バーチャルゲーマーの反撃」


 4月も過ぎ――ゴールデンウィークの話題でネットが盛り上がっていた。

その頃にはネット炎上勢力等の話は聞かれなくなり、ソレと入れ替わるようにバーチャル動画投稿者の話題がネット上を盛り上げる。

バーチャルゲーマーがゲーム実況等のゲームカテゴリーに特化しているのだが、こちらの方はマルチな活動をしていた。

似たような動画投稿者のカテゴリーはあるのだが――どちらかと言うと1サイトに固定されていた印象がある。

 しかし、バーチャルゲーマーは1サイトだけではなく複数のサイトで目撃された。

だからこそ、バーチャルゲーマーのシステムをアプリ化し、それを使用する事で簡単に2.5次元実況者になる事が出来るのは非常に大きい。

それは――リズムゲームVSが当初に掲げようとしていた『みんながリズムゲーマーになる』を真似たと言ってもいいだろう。

この場合は真似たと言っても別段パクリと言われるようなことはなかった。下手にパクリとして炎上させれば、炎上させた方が逆に様々な疑惑を持たれかねない事情がある。

 類似事例としては、様々なアイドルが現れた1980年代にも似たような状況だが――あの当時はSNSはないし、動画サイトと言う概念自体もないだろうか。

小説でも動画サイトが出てこなかった――とは思えないが、そう言った未来が来る事は思わなかったかもしれない。

『あり得そうでなかった未来は――ここに現実化した』

 ネット上で有名な動画だ。彼女もバーチャル動画投稿者のカテゴリーなのだが、アプリで制作されたようなテンプレではない。

そのデザインは――明らかに作り込まれたキャラクターのようでもある。まるで、何処かで現実化したような――。

『我が名はアルタイル――リズムゲームはここに、新時代を迎える事になるだろう』

 彼女はアルタイルと名乗った。そう、リズムゲームVSで一連の炎上騒動に関わったとされる人物である。

そのデザインは軍服チックなベースは残しつつも、SFモチーフなメット、周囲をガードするシールド型のビット兵器――。

胸の部分は――言うまでもないか。とにかく、彼女があの時に姿を見せたあるたいるかどうかは定かではないにしても、ネット上で話題になったのは間違いない。



 5月3日、この日はゴールデンウィークに突入している事もあって行楽地は混雑しているだろう。

そして、そんな特需さえも無視するような混雑をしていたのは『オケアノス・ワン』草加店である。

駐輪場は、いつの間にかちゃんと整列して自転車が止められていたり――入店するとマナーを守らないような客は非常に少ない。

ゲーセンでもモラルの低い客が起こすトラブルがSNS上でもピックアップされがちだが、ここでは無縁とも言える状態。

さすがに皆無ではないが、店員が出入り禁止を言い渡したりするようなケースはなくなっていた。

 その状況下で、ある勢力が一目で分かるように増えている。

リズムゲームVSでは30分待ちもザラになっているのだが、さすがに4台へ増やすにしてもスペースが足りない。

下手に既存機種を撤去すると、今度はそちらの客が別の店へ流れる危険性さえあった。

「「「これが、バーチャルゲーマーの実力――」」」

 ギャラリーが驚くのも無理はない。この場でリズムゲームVSをプレイしていたのは、ユニコーンだったからである。

彼女も今では人気のバーチャルゲーマーの仲間入りを果たすが、あくまでも今回はプライベートなのであまり固定ファンが訪れるのは――と困惑気味だ。

(ここ最近は、ビスマルクと――ムラマサ位しか見かけていない)

 プレイ終了後、別のプレイヤーへ交代する際、その顔をちらり――。しかし、このプレイヤーは違っていた。

プロゲーマーのビスマルク、同じバーチャルゲーマーの村正(むらまさ)マサムネは昨日も来店しているので、プレイ頻度は上がっているだろう。

 しかし、彼女が探している人物は――訪れる時間帯にはいない事が多かった。

その人物とは――デンドロビウムである。歴戦リズムゲーマーとしてネット上で有名となり、マナーの低下している現状を踏まえて『デミゲーマー』という単語を使ってマナー向上を訴えている。

しかし、『デミゲーマー』と言う単語自体はアフィリエイト系まとめサイト等に利用された結果――単語だけが独り歩きをする結果となっていた。



 同日午後1時、店舗内の2階にあるセンターモニターで動画をチェックしている人物がいた。

その人物――と言っていいのか不明だが、外見は北欧神話を思わせるARアーマーを装備している。

ARアーマーは本来であれば、対応しているエリア以外では表示されない物――そう認識されているはずだ。

それなのに、この人物のアーマーは対応ゴーグルなしでも目視できるのは、明らかにおかしい。

(歴戦リズムゲーマー……デンドロビウム。お前が思い描くようなシナリオにはさせない)

 彼の名前は――アルヴィス。バーチャルゲーマーとしてはまだ名前の知られていない無名プレイヤーなのだろう。

しかし、知名度に関してはバーチャルゲーマー以前にも知られていた事もあって、ネット上では別の異名も持っていた。

(リズムゲームはイースポーツに向いていない――)

 その別名とは、イースポーツ警察――だが、警察と言っても犯人を逮捕するような警察とはちょっと違っている。

イースポーツに不適切と思われるジャンルの作品を炎上させ、SNSテロとも言える事件を起こしてきた。ある意味でも炎上勢力の典型例とも言える存在だろう。

ただし、その活動は――アルタイルの出現と様々な勢力の活躍で阻止されたはずである。

【あいつが再び動き出したらしい】

【アルヴィスか? あの時に偽者騒動で炎上したはずでは?】

【デンドロビウムのなりすましも炎上した位だ――】

【しかし、本当にアルヴィスなのか?】

 ネット上でもアルヴィスの目撃情報に関しては懐疑的だ。

草加市も一連のSNSテロを踏まえて、そう言った事が二度と起こらないように対策はしてあるはず。

そう言った対策もザル警備の一言で片づけられるのも――別の意味で問題だろう。メタ発言的な意味でも。

「よく似た偽者だな――」

 アルヴィスの背後に唐突な現れ方をしたのは、一人のクノイチである。

ゲーセンでクノイチ姿と言えば、既にネット上ではファーヴニルと特定されていた。

「いい加減に悪い冗談はやめたらどうだ? 気に入らないコンテンツを炎上行為で叩く事が――どれだけ無駄なのか分かるだろう」

『ファーヴニル、お前こそ――コスプレイヤーなのにゲーマーを名乗るのか?』

「これは一種の趣味だ。そして、バーチャルゲーマーとして――ある程度のルールを守って楽しむのが筋ではないのか」

『こちらとしても、譲れない物がある。多数派コンテンツが良質という法則を誰が決めた?』

「だからと言って、モラルの低下したファンを名指しして炎上させ――オワコン化させる事に何の意味がある?」

『そうでもしなければ、コンテンツ戦争は終わらない。悪質なファンを生み出したコンテンツは全て悪だ。世界をリセットしても繰り返すのであれば――尚更だろう』

 2人の話はかみ合わない上に平行線であるのだが、周囲が話を気にするようなことはない。

それに加えて、他の一般客も気付かない以上は――リズムゲームのBGMが爆音設定で話の内容が分からないと言うのもあるのだろう。

「マナー違反をするファンが出てくるのは、どのコンテンツでもある事。それこそ――」

 ファーヴニルも、さすがに話の内容を聞いていて我慢できない箇所も出てきた。

これ以上の話をしても――アフィリエイト系まとめサイトやゲーム系迷惑サイトが駆けつけたら、バーチャルゲーマーの民度が低いとレッテル貼りをされてしまう。

何としても、それだけは避けたいと考える。そうした勢力と思わしき管理人もいない為か、その心配はないようだが。

「お互いにそこまでにしてもらおうか。議論するのは結構だが、ここはその場所ではないし――話の内容は聞くに堪えない」

 2人の間に入った人物、それは何とビスマルクだった。何故に彼女が介入したのかはお互いに知る所ではないが、話の内容的に問題があったのだろう。

それに――彼女の眼は本気で外へ締め出されそうな視線であり、下手に怒らせれば出入り禁止は避けられない。結局、お互いにこの場は引き下がる事になった。

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